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Red Hatの「OpenShift」は“脱VMware”の移行先になり得るのか“ポストVMware”を狙うAWSとRed Hat【後編】

Red HatがAWS社との提携を強化し、VMware顧客の取り込みを本格化している。Red Hatの狙いはどこにあるのか。成功の見通しを専門家が分析する。

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 半導体ベンダーBroadcomは、2023年11月に仮想化ソフトウェアベンダーVMwareを買収して以降、VMware製品のライセンス体系を変更してユーザー企業からの不満を集めた。この方針転換は、VMwareの競合他社にとって好機になっている。Red Hatや、クラウドサービス群「Amazon Web Services」(AWS)を手掛けるAWS社も例外ではない。Red HatはAWS社との提携強化をはじめ、どのような施策を打ち出しているのか。

Red Hatは「OpenShift Virtualization」で何を狙うのか

 AWS社とパートナー関係にあるRed Hatは2024年12月、AWS社との新たな契約締結を発表した。1つ目としては、「Red Hat OpenShift Service on AWS」で使用できるVM(仮想マシン)およびコンテナ実行機能「Red Hat OpenShift Virtualization」(以下、OpenShift Virtualization)において、AWS社が技術的支援を強化する。Red Hat OpenShift Service on AWSは、Kubernetesクラスタ(コンテナクラスタ)の管理ツール「Red Hat OpenShift」(以下、OpenShift)がAWSで使用できるサービスだ。2つ目としては、VMサービス「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)のベアメタルインスタンス(物理サーバ)で OpenShiftをセルフマネージドサービスとして使えるようになる。

 あるアナリストは、AWS社とRed Hatのパートナーシップの拡大は、VMware製品から移行を検討している企業をターゲットにしていると推測する。その理由は、AWSでプライベートクラウド構築用製品群「VMware Cloud Foundation」(VCF)を実行できる「Amazon Elastic VMware Service」(Amazon EVS)にある。Amazon EVSの機能が、AWS内でVMware製品を実行するサービス「VMware Cloud on AWS」よりもRed Hat OpenShift Service on AWSと共通する機能を持つというのだ。

 今回の提携強化によって、企業はサードパーティーサービスを導入できる「AWS Marketplace」を通じて、VMware製品からの移行サービスを含むRed Hat製品/サービスを導入しやすくなる。「この動きは、VMの実際の移行事例を分析して、OpenShift Virtualizationへの移行に適したVMを見極めるためのRed Hatの戦略だ」。メディア企業SiliconANGLE Media(theCUBE Researchの名称で事業展開)リサーチ部門のアナリストであるロブ・ストレチェイ氏は、そう指摘する。

 OpenShift Virtualizationは、VMwareのハイパーバイザーと似ている。一方、VM内でコンテナを実行するのではなく、コンテナ内でVMを実行するといった、従来のVMの構造を逆転させた仕組みを持つ。OpenShift Virtualizationを通じて、企業はKubernetesを使用してVM形式のワークロード(アプリケーションや処理)とコンテナ型ワークロードをまとめて管理できる。大手金融機関Goldman SachsやMorgan Stanleyなど、レガシーなVMを段階的にモダナイズしたい企業で採用が進んでいるという。

 「当社はこの分野に重点的に取り組んでおり、VMのOpenShift Virtualization移行と管理をさらに容易にするつもりだ」と、Red HatのOpenShiftおよびセキュリティプロダクトマネジメント部門のシニアディレクター、キルステン・ニューカマー氏は説明する。例えばOpenShiftのバージョン4.17では、以下の機能を追加した。

  • ホストマシンの物理メモリ容量を超える量のメモリをVMに割り当てる「メモリオーバーサブスクリプション」
  • 複数システムを同時に稼働させる「アクティブ/アクティブ」構成の強化
  • VM管理用のGUI(グラフィカルユーザーインタフェース)コンソール
  • ダウンタイムなしでストレージを拡張できる「ホットプラグ」

 2024年11月に登場したOpenShiftの「User Defined Network」は、Kubernetesクラスタ内にレイヤー2(データリンク層)の仮想ネットワークを作成できる機能だ。これによってポッド内で動作するVMを、Kubernetesクラスタのノード間で移動できるようになる。仮想LANのIDを使って、VMとポッドをネットワークサービスプロバイダーが提供するネットワークに接続できるようになり、トラフィックのセグメント化や分離といった制御が可能になる。「User Defined Networkの実装は、エンドユーザーやデバイスを信頼できないものとして扱う『ゼロトラストセキュリティ』への投資の一つであり、特にOpenShift Virtualizationを使う企業にとって役立つ」とニューカマー氏は話す。

 ただし、メモリオーバーサブスクリプションやホットプラグなどのOpenShift Virtualizationの新機能は、VMwareのハイパーバイザーでは“当たり前”の基本的な機能だった。

 OpenShiftがVMware製品からの移行希望企業をユーザー企業として獲得できるかどうかは、「現在VMware製品が実行しているクリティカルな処理をOpenShiftが処理でるようにする開発スピードと、VMwareの管理者に移行したいと思わせられるかにかかっている」と、ESGのフォルク氏は語る。

 AWSとRed Hatは、HCIベンダーNutanixなどの競合他社製品や、Hewlett Packard Enterpriseのオンプレミスインフラ向けサービス群「HPE GreenLake」など、大手ベンダーのVCFの代替製品とも戦わなければならない。Nutanixは2024年11月、Red HatのAI(人工知能)アプリケーション開発・実行サービス「Red Hat OpenShift AI」と競合する「Nutanix Enterprise AI」を発表した。

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