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SlackやTeamsも要注意? 現代人を追い詰める「燃え尽き症候群」の原因便利になるほど人は疲れる(1/2 ページ)

ITツール活用による効率化が進む中、メンタルヘルスの問題「テクノストレス」に悩む人が増えているという。テクノストレスとは一体何か。その原因と、取るべき対策について解説する。

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 さまざまコミュニケーションツールやAI(人工知能)ツールが導入され、現代人の働き方は大きく変わった。その便利さの裏側で、誰もが無視できない“見えない疲労”が蓄積されている。

 1984年にアメリカの心理学者クレイグ・ブロードが、自著『Technostress:The Human Cost Of The Computer Revolution』の中で「テクノストレス」という用語を使用した。同氏はコンピュータが精神衛生に及ぼす影響を研究し、テクノストレスを「コンピュータ技術に適応できないことによって引き起こされる、現代的な適応障害」と定義した。

 今日では、仕事においても日常生活においても、ビジネスチャットツールやAIチャットbot、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)とさまざまなツールを活用するようになっている。テクノストレスとそれがもたらす“現代病”の原因を、企業も働き手もより真剣に見つめ直さなければならない。

働く現代人を追い詰める“見えざる病”の原因

 テクノストレスは、以下のような要因により引き起こされる。

常時接続の文化

 現代の私たちはテクノロジーによりかつてないほど“つながって”いる。“常時接続”とは、従業員がオフィスでも自宅でも、デジタルデバイスを通じて常に連絡が取れることが期待される文化を意味する。近年、会社のデバイスだけでなく、個人のデバイスを使って仕事をするのが当たり前となり、“いつでも連絡が取れなければならない”という、従業員が感じるプレッシャーが高まっている。仕事のメッセージやメールを就業時間以外にもチェックすることが常態化すると、ワークライフバランスが崩れ、テクノストレスを感じる可能性が高まる。

デジタルスキルとトレーニングの不足

 非営利団体National Skills Coalitionによると、米国で調査対象となった職種の92%で、労働者に一定のデジタルスキルが求められるにもかかわらず、必要なスキルレベルに達しない者が全体の3分の1に上った。コラボレーションツール、クラウドサービス、AIツールといったテクノロジーが次々と企業に導入される中、それらを使いこなすことができず、必要なトレーニングも提供されない従業員は、圧倒されるように感じる可能性が高い。

 結果として、従業員は使い方を習得しようと自ら努力せざるを得ない。これは効率性に欠け、プライベートの時間の浪費とストレス増加につながる可能性がある。

テクノロジーの性急な導入と過多

 ビジネスチャットツール「Slack」やWeb会議ツール「Microsoft Teams」を業務で使用している上に、さらにAIツールなどの新しいテクノロジーが導入されると、従業員は精神的な疲労を感じる。従業員エンゲージメントツールを提供するQuantum Workplaceの調査では、AIツールを全く使用しない従業員が燃え尽き症候群にかかる割合は35%だったが、AIを頻繁に使用する従業員では45%だった。いわば“AI疲れ”だ。

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テクノストレスが企業に与える影響

 テクノストレスは従業員の心身を疲弊させるにとどまらず、企業に以下のような悪影響をもたらす。

セキュリティ意識の低下

 セキュリティ教育ツールベンダーCybSafeの調査によると、オフィスワーカーの54%が情報量が多すぎて重要なセキュリティアラートを見逃したり、無視したりすることがあると回答した。複数のデバイスから来る絶え間ない通知やアラートは“ノイズ”のように感じられ、従業員のセキュリティ意識や対策に取り組む意欲を低下させる。

生産性の低下や欠勤

 テクノストレスや燃え尽き症候群は、従業員の集中力を損ない、生産性の低下に直結する。欠勤を繰り返したり、休職したりする可能性もある。カナダの通信会社TELUSの傘下にあるウェルビーイングサービスベンダーWorkplace Optionsのブログエントリ(投稿)によると、米国における予定外の欠勤による損失コストを、年間6000億ドル(約87兆円)以上とする推計もあるという。

離職率の上昇

 テクノストレスや燃え尽き症候群は、従業員の離職率の上昇につながる可能性がある。American Psychological Association(米国心理学会)の2023年の調査によると、米国の労働者の23%がストレスのために仕事を辞めたいと考えていることが明らかになった。テクノロジーに不満やフラストレーションを感じている従業員は、離職する可能性が高い。

テクノロジー導入に対する抵抗

 新たなテクノロジーへの投資は、従業員が変化を受け入れ、活用して初めて意味をなす。新しいテクノロジーの受け入れに精神的な疲労を感じる場合、その従業員は抵抗し、積極的には使用しない可能性がある。これはROI(投資対効果)の低下につながる。

テクノストレスの予防策

 現代の企業は、革新性と競争力を維持するために、常に新しいテクノロジーを導入していく必要がある。しかし、ビジネスリーダーは従業員のメンタルヘルスを無視してはならない。テクノストレスに適切に対処することで、従業員エクスペリエンスを低下させることなく、新たなテクノロジーを積極的に活用する前向きな企業文化を築くことができる。

 次のような予防策に取り組むことが重要だ。

  • ワークライフバランスの改善
    • テクノロジーのおかげで、いつでもどこでも働けるようになったが、従業員が定期的に休憩を取り、勤務時間外の作業を避けるように促すことが重要だ。オン/オフを明確にすれば、従業員はプライベートの時間を損なうことなく、新しいテクノロジーがもたらすイノベーションの恩恵を実感することができる。
  • トレーニングの提供
    • 新しいテクノロジーを導入する際には、従業員に対するデモンストレーションやトレーニングを実施する。
  • フィードバックの収集
    • 従業員と話し合ったり、社内アンケートを実施したりして、ストレスの原因となっているテクノロジーを特定し、排除する。新規ツールに関しては、時間を掛けてテストを実施し、従業員のフィードバックによっては導入範囲やスピードを調整することも可能だ。

翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)

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