Microsoft Ignite 2025発表のWindows関連アップデートを総整理:AIエージェント前提のWindowsへ
Microsoftは「Microsoft Ignite 2025」で、多数の新機能を発表した。AIエージェントのOS統合、Cloud PCの柔軟化、セキュリティの強化など、企業のWindows環境を見直す上で押さえておきたいポイントを紹介する。
Microsoftは2025年11月、年次イベント「Microsoft Ignite 2025」を開催し、生成AI(AI:人工知能)やAIエージェントの普及を踏まえた新機能群を発表した。企業がAIを簡単かつ安全に活用できるようにWindowsを進化させるという構想に基づくもので、「Windowsは“AIのキャンバス”へと変貌しつつあり、企業がAIの実験段階から、本番環境での大規模活用へと移行することを支援する」と述べている。
Microsoft Ignite 2025での発表の“柱”となったのは以下の4点だ。
- Windowsプラットフォームの進化
- クラウドならではの柔軟性
- より強固なセキュリティとレジリエンス
- 開発者とITプロフェッショナルの支援
Microsoftはこれらを実現し、「あらゆる企業が自信とスピード、革新性をもってAI活用を主導できるプラットフォームとしてWindowsを確立することを目指す」と説明している。以降は、それぞれの発表の概要を解説する。
Windowsプラットフォームの進化とは
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Copilotの導入効果は?
大規模なインテリジェンスとガバナンスで人とAIエージェントのためのOSへ
Microsoftによると、Windowsは現在、「人とAIエージェントのためのOS」へと進化しつつある。その鍵となるのが大規模なインテリジェンスとガバナンスだ。エージェント体験を大規模に実現するには、それを前提に設計されたOSが必要であり、セキュリティやユーザーとの同意(許可)、制御を実現するOSレベルの連携が不可欠だ。
AIエージェントをユーザーの許可と制御の下で安全かつ効果的に行動させるために、Microsoftは以下の機能を追加した。
「エージェントコネクタ」(プレビュー版)
Model Context Protocol(MCP)によって、ファーストパーティー、サードパーティーを問わず、さまざまなAIエージェントがアプリケーション(以下、アプリ)やツールに接続するためのフレームワークを提供する。
「エージェントワークスペース」(プレビュー版)
エージェントが自身のIDでソフトウェアとやりとりできる、ポリシー管理された隔離環境を提供する。
「Windows 365 for Agents」(プレビュー版)
AIエージェント機能をクラウドへと拡張し、企業のAI導入とAIワークロード拡張を支援する。
これらの機能は、ポリシー駆動型制御や、クラウドベースのエンドポイント管理ソリューション「Intune」とID/ネットワークアクセス製品「Entra」によるエンタープライズ統合、OSプリミティブに基づくセキュアな設計と共に、「Windows 11」に直接組み込まれている。
CopilotがWindowsにおけるエージェントの動的なハブに
タスクバー上の新機能「Ask Copilot」(プレビュー版)は、「Microsoft 365 Copilot」とAIエージェントと検索をシームレスに連携させる“統一された入り口”となる。これによって、Microsoft 365 CopilotやAIエージェントを、PCでの操作の中で自然に利用できるようになる。
タスクバーからのワンクリックアクセス
タスクバーからワンクリックでMicrosoft 365 Copilotを呼び出し、音声やテキストで自然に指示できる。
エージェントの呼び出し
タスクバーの「Copilotに質問」からツールボタンを使うか、「@」と入力することで、特定のエージェントを直接呼び出せる。
検索体験の効率化
検索画面のデザインを見直し、アプリやファイル、設定をより簡単に探せるようになる。
視認性が高く、アクセスしやすいタスクバー上のAIエージェント
タスクバー上にAIエージェントを配置されたことで、アプリと同様に扱いやすくなり、「AIエージェントは日常的な存在になる」とMicrosoftは説明している。
ユーザーはWindowsタスクバーから、Microsoft 365 Copilotや「Microsoft 365 Researcher」などのAIエージェントを直接呼び出し、その実行状況を管理できる。タスク開始後は、エージェントがステータスバッジ付きのアイコンと進捗(しんちょく)を示すホバーカードとして表示されるため、作業を中断せずに進捗を確認可能だ。
「真に価値あるAI」を実現する新機能群
Microsoft 365 Copilotの音声機能では、「Hey Copilot」と呼び掛けるか「Copilotキー」を押すことで、ブレインストーミングや返信の下書きなどのアイデアを素早く記録できるようになる。
タスクバーからMicrosoft 365 Copilotに直接アクセスできるようになったことで、ファイルエクスプローラーなど他のWindows画面にもコンテキストに応じたヘルプ機能が利用でき、ファイルの要約やメールの下書き作成など、画面に応じた操作が可能になる。
「Microsoft Edge for Business」は、「Copilot Mode」(プライベートプレビュー版)によるAIブラウジング機能を導入している。Microsoftによると、ワークフローを刷新するとともに、法人向けのセキュリティやコンプライアンス、制御性を提供するという。
「Copilot+ PC」は、高性能なNPU(ニューラル処理ユニット)を搭載し、生成AI機能の常時利用を前提に設計されたWindows 11 PCのこと。Microsoftが引用する試算によると、40TOPS(1秒当たり40兆回の推論処理)以上のNPUによるAI体験、長時間のバッテリー駆動、高速なパフォーマンスによって、Copilot+ PCを使う企業ユーザーは平均で週5時間程度の業務時間を短縮しているという。
また、改良されたWindows検索(プレビュー版)とMicrosoft 365の連携によって、ローカルとクラウドを横断した検索が可能になる他、「クリックして実行」のAIアクションも拡張され、例えば「画面上の任意の表をMicrosoft Excelの表に変換する機能」(プレビュー版)などが追加されている。
Windows 11とCopilot+ PCのAI関連の新機能
ライティング支援(プレビュー版)
多様なアプリのテキストボックスで文章の書き換えや作成を支援する。「Copilot+ PC」ではオフライン環境もサポートしている。
Outlookサマリー(プレビュー版)
Microsoft Outlook内のメール内容をAIが要約する機能。
Word自動代替テキスト(プレビュー版)
アクセシビリティー向上のため、Microsoft Officeドキュメント内の画像に代替テキストを自動生成する。
Fluid dictation(プレビュー版)
音声からテキストを生成するAIベースの機能で、文法や句読点、不要な言葉をリアルタイムで修正する。
クラウドならではの柔軟性
「Windows 365 for Agents」によってAIエージェント開発者は、ポリシー管理された安全な「Cloud PC」上で動作するエンタープライズに対応したAIエージェントを開発できる。Cloud PCは、クラウド上で動作するWindowsデスクトップを、場所やデバイスを問わずストリーミング利用できる仮想PCサービスのことだ。
また、シフト勤務や一時利用が多い組織向けのWindows 365プランである「Windows 365 Frontline」には、デスクトップ全体をストリーミングせず業務アプリのみを提供できる「Windows 365 Cloud Apps」(一般提供開始)と、セッションをまたいで設定を維持する「ユーザーエクスペリエンス同期」(一般提供開始)が導入される。
さらに、新しい「Windows 365 AI対応Cloud PC」(プレビュー版)では、改良されたWindows検索や「クリックして実行」など、Copilot+ PCのAI体験の一部をCloud PC上でも利用できる。IT管理者はIntuneの「Microsoft Security Copilot」にWindows 365 Cloud PCに関する質問をすることで、パフォーマンスやライセンスの最適化についてアドバイスを受けられる。
クラウド上のWindowsに関する追加発表
Regional Host Pools
接続プラットフォームにおけるリージョン間の依存関係を解消し、柔軟な構成を可能にする(近日提供予定)。
Microsoft Hosted Network(MHN)
Cloud PCを複数リージョンに分散させ、単一リージョンへの依存を軽減する(Windows 365のみ、近日提供予定)。
マルチパス(一般提供開始)
複数のネットワーク経路を同時に利用し、シームレスなフェイルオーバーを実現して接続性を高める。
外部ID(B2B)サポート(一般提供開始)
契約業者やパートナーのセキュアなB2Bログインを実現し、共同作業を簡素化する。
Windows Cloud I/O保護(パブリックプレビュー版)
キーロガー型マルウェアやキー入力インジェクション攻撃に対する高度な入力保護を提供する。
Windows 365への移行を容易にするため、新しい「migration API」(一般提供開始)によって、顧客やパートナーは「Azure Virtual Desktop」やその他のAzure仮想マシンからCloud PCへの移行を簡素化、効率化するカスタムツールを構築できるようになった。
一方でMicrosoftは、ユーザーがCloud PCを体験する方法を増やすために、デバイスポートフォリオの拡充も進めている。Microsoft初のCloud PCデバイスである「Windows 365 Link」の提供国を順次拡大しており、現在の13カ国に加えて、2026年2月からベルギー、フィンランド、アイルランド、イタリア、ポーランド、シンガポール、スペインでも提供を開始する。PC OEMメーカーとの提携によるCloud PCデバイスのラインアップ拡充も、2026年初頭に発表する予定だとしている。
より強固なセキュリティとレジリエンス
Microsoftは予期せぬ障害発生時におけるWindowsの耐障害性強化と復旧の容易化を進めている。イベントでは、将来の脅威からの保護、復旧プロセスの簡素化、セキュリティツールの近代化を支援するための新たな取り組みが紹介された。
「Windows Endpoint Security Platform API」(WESP API、プライベートプレビュー版)では、カーネルモード外でセキュリティツールを構築できるようにし、クラッシュリスクの低減と安定性の向上を図れるようになる。
一般提供が開始された「Windows 365 Reserve」については、「Cloud PCを用いた安全でコスト効率の高い業務継続ソリューションであり、インシデント発生時の業務中断リスクを抑える」とMicrosoftは説明している。
インシデント発生時の迅速な復旧を実現するため、Windowsリカバリーツールの拡充も進められている。「Quick Machine Recovery」(QMR)、「Intuneリカバリ」「ポイントインタイム復元」(プレビュー版が近日公開予定)、「Windows 11向けCloud rebuild」(プレビュー版)といった機能が含まれる。また、社内デバイスの更新準備状況を把握するための「Autopatch update readiness」(プレビュー版)も導入された。
Windowsに組み込まれている保護機能の強化も継続されている。主な取り組みは以下の通り。
- 「Windows暗号化API経由のポスト量子暗号(PQC)サポート」の一般提供が開始された。
- 2026年に登場する次世代Windowsデバイスには「ハードウェアアクセラレーション対応BitLocker」が搭載され、ハードウェアベースの鍵保護によるフルディスク暗号化を実現する。
- 2026年初頭から、Windowsで「Sysmon機能」の一般提供が開始され、セキュリティイベントをイベントログ経由で利用できるようになる。高度なフォレンジック分析への活用が想定されている。
- Windows Helloのビジュアル刷新と新たなパスキーマネージャー統合によって、サインインがより高速でスムーズかつ安全になる。
開発者とITプロフェッショナルの支援
Microsoftは、ITプロフェッショナル向けにIntuneへAIを導入し、エンドポイント管理の高度化を進めている。Intuneの新しいSecurity Copilotエージェント(Change Review Agent、Policy Configuration Agent、Device Offboarding Agent)は、複雑なタスクを簡素化しつつセキュリティ水準を高める役割を担う。Intune自体もIT管理の運用水準を引き上げるため、管理タスク、デプロイ(展開)、メンテナンスウィンドウに関する以下の新機能が追加されている。
新しい管理タスク機能
承認要求やセキュリティ関連作業など、優先度の高いアクションを一元管理する。
新しいデプロイ機能
さまざまな環境を対象に、制御された段階的な展開を可能にする。
メンテナンスウィンドウ
IT部門が更新の実施タイミングを適切にスケジュールできるようにする。
「Microsoft Foundry on Windows」は、AIベースの機能とAPIを提供し、CPU、GPU、NPUをまたいだモデルの選択、最適化、展開を統合して、次世代のAI体験を実現する。このMicrosoft Foundry on Windowsの基盤となる「Windows ML」の一般提供が開始され、次の2つの新しいWindows AI APIも導入された。
Stable Diffusion XL(SDXL、プレビュー版)
高品質な画像を生成する。
video super resolution(VSR、プレビュー版)
低解像度の映像ストリームを高解像度化する。
この他、高速でインテリジェントなアプリ内検索体験を実現するアプリコンテンツ検索もパブリックプレビュー版が提供開始された。
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