日本の情報システムリーダー50人【第1回】
会社の危機を救ったのは1人の技術者だった
日本企業における情報リーダーのさまざまな実例を通して、各人がどのような目標を抱き、どのような活動により企業をITで変革しているのかを探っていく。
CIOや情報リーダー、情報システムリーダーには、どのような資質が求められるのだろうか。従来、米国におけるCIOの定義、活動などは紹介されてきた。しかし、日本の企業内におけるCIOや情報リーダーの実際の活動、求められる資質やスキルに関しての情報は極端に少ないのが実情である。そこで本企画では、日本企業における情報リーダーのさまざまな実例を通して、各人がどのような目標を抱き、どのような活動により企業を変革しているのかを探っていく。第1回は、株式会社ラストリゾート 情報システムグループリーダー 名取和高氏のケースである。情報システム部門の立ち上げのため入社した同氏が、社内のセキュリティ意識やIT投資に対するネガティブな意識をいかに変革していったかを紹介する。(記事提供:ソフトバンククリエイティブ株式会社)
海外での生活をサポートする会社
国際化の進展で、誰もが海外へ行く時代になった。同時に、海外へ飛び出し勉強したい、暮らしたいと考える人も増えた。いろいろな不安を抱えながらも、海外に身を任せたいと考える人たちをサポートするのがラストリゾートの役目で、社名には「最後の切り札、最後の手段」の意味を込めた。実りある海外生活に欠くことのできない存在として、力強く、そして温かくサポートする。人それぞれが自立する「切り札」としてありたい、そんな思いで、国内外のオフィスでカウンセリングなどのサポート活動を行っている。
情報システムグループ チーフの名取和高がラストリゾートに入社したのは、2003年のこと。当時はまだ情報システム部門がなく、名取がその立ち上げを担当した。入社してすぐに、企画から構築、運用までを1人でこなせたのは、前職が今の立場と逆のベンダーだったからだ。
イントラネットがなく、危険な状態だった
まず手がけたのは、セキュアネットワーク構築プロジェクト。それまでは、全国主要都市にある支店間ネットワークが構築されていなく、ファイルの転送などができないため業務上のボトルネックになっていた。また、基幹業務システムもイントラネットでの通信ができなかったためにインターネット上に乗っていて、入口までは誰でも閲覧できる状態にあった。あまりの無防備さに、名取は衝撃を受けた。「SSL(セキュア・ソケット・レイヤ)くらいしかセキュリティがかかっておらず、非常に危険な状況。辞めようかと思った」と名取は振り返る。そこで、インターネット上でVPN(仮想プライベート・ネットワーク)という仮想専用線を使うセキュアなネットワークを構築し、企業内のイントラネットのシステムにした。
名取が入社したことで、システムに対する社内の認識が変わった。それまでは、基幹システムが業務の変革スピードについていけず、現場が独自のやり方でMicrosoft Excelを利用して業務を処理するといったことも見受けられた。
「経営層は、基幹業務システムに投資した金額に対して対価が得られていない、という認識でした。そういうシステムに対するトラウマ的なものがあり、IT投資の起案に対する決裁をいただくためのアプローチの仕方を考えることに、非常に時間がかかりました」と名取はいう。
「何度も打ちのめされそうになりました。しかし、そこで負けてはいられないので、頑張りました。自分にはSIer(顧客の問題点を聞き出し、それを解決する情報システム構築などを一括して行う技術者のこと)をしていたプライドがありますし、血が騒ぎましたね。一方で、何もないところから自分の頭で考え、それを自分の力で具現化することや、情報システム部門自体を自分の体制として築ける環境にあったので、そこにやりがいも感じていました。」
ベンダー出身だからやりづらいこともある
ベンダー選びに関して、手の内を知る昔の仲間に頼んだと思いきや、そこは意外にも新規開拓している。そのベンダーの戦略やコストのかけ方などを隅々までを知っているからであり、そこを取引先とすると逆にやりづらいと感じて、あえて避けたのである。
今、名取は、社内のPCと、その使われ方など、いわゆるIT資源を一元管理・把握できるインフラ構築のプロジェクトである「IT資源管理プロジェクト」を第一歩とし、情報セキュリティの強化に乗り出している。
「当社の場合は、まだまだリテラシーも低く、情報セキュリティの体制が万全ではないので、セキュリティのマネジメントを強化しようと考えています。メールソフトもOutlook Expressなどでしたから、データがローカルPCに保存され、そこから情報が漏洩する危険がありました。そこで、外部に漏らしてはいけない電子データは情報システム部門がすべて一元管理して、ネットワークの監視などをしていくという運用管理体制を敷きました」
ようやく、ネットワークインフラが整備されたラストリゾート。残念ながら、社内のITリテラシーは、まだまだ低いと名取は言う。システム部門の人員は名取を含め3人。研修で支店をまわり、リテラシー向上に努めるという段階までは達していない。
経営層のIT投資に対するトラウマが消えた
さまざまなIT改革をするなかで得た社内の反応について、名取は「現場では日常業務に使うソフトなどについてやはり反響が大きかったですね。セキュアなネットワークに関しては、現場よりも上の人間の評価のほうが高いと感じています」と、興味深いことを口にしている。情報漏洩についての事件を見聞きしたり、名取が情報システムに嫌なトラウマを持っていた経営層に、情報システムの重要性や有効性などを啓蒙していったことで、トップを含め情報システムに関する意識や期待が変わってきたことがわかる。
しかし、現場レベルでは、まだまだ壁も多い。他部門との調整が特に大変だという。
「とにかく情報システム部門の人間が足りていないというところで問題が起こります。いろいろなトラブルがあっても、3人では物理的に難しく、ユーザーにやってもらわなくてはいけないことがあります。彼らも業務が忙しいので負荷がかかりますし、その負荷をかけたということで苦情も挙がります。こちらではもちろん、作業手順書を作り配布しているのですが、どうしても例外は発生してしまうものですから、そのあたりの調整が特に難しいですね。そんなときは、スケジュールを決めて現場の中で分担してください、とお願いするしかない。会社の方針として実施する重要事項に関してはトップダウンでやってもらいます」と名取はその苦労を語る。
常にアンテナを張ること、自分の意志を貫くことが大切
この先、ラストリゾートでは株式上場を見据え、業務改革と情報システム改革を進めている。企業の戦略や目標を定め、それを達成するため、そして事業スピードを上げていくために、業務内容や組織構造を分析/最適化するBPRを行い、基幹業務システムを刷新する。また、閉鎖的な留学業界に風穴を開け、業界の活性化と認知度アップに着手するという。
「それには、まず自分自身がいろいろなところに出て情報を仕入れるなど、アンテナを張り続けたいと思ってます。今はリスクマネジメントの研究会に参加し、自分と会社のスキルアップを目指してます。今後は経営陣と現場の橋渡し役を担うCIO的な役割を強めていきたいので、日々勉強中です」
そんな名取に、CIOを目指す人たちへのアドバイスを聞いてみた。
「これからCIOやCTO、情報リーダーを目指す方は、まずは会社を知ることから始めてください。企業理念や文化などを理解したうえで、会社を取り巻く外部の環境と、内部的な全社業務の流れや課題/問題点など、現状把握することがスタートです。現状を把握したあとは、それ分析し、改善策を導き出し実践する。ソリューションを提供するためには、あるべき姿を策定し、現状と理想の形を照らし合わせ、そのギャップを埋めるための手段を決定しなければなりません。今までの経験やノウハウ、外部・内部からの情報などに対して、常にアンテナを張っておくことが重要です。
目標を達成するまでは、たとえ会社に泊まり込んででも最後までやり通すんだという強い意志をもつことが大事です。また、メンバーに対しても、目標を共有し、目標達成までのモチベーションをマネジメントしていかなければなりません。ITの専門的な知識や技術はOJTやプライベートの時間で十分まかなえるはずですから、それよりも経験と意志を大切にしてください。」
※この記事はソフトバンク クリエイティブ株式会社より刊行の「日本の情報システムリーダー50人~ビジネス戦略とIT活用の実例」より転載しています。
会社データ
株式会社ラストリゾート
代表者名 代表取締役社長 高橋 透
設立年月日 1997年1月16日
資本金 2億7800万円( 2005年3月末現在)
売上高 25億9780万円( 2005年3月期)
本社所在地 〒160-0023 東京都新宿区西新宿6-5-1
従業員総数 134人(2005年3月31日現在)
電話番号 03-5325-5190(代表)
ホームページ http://www.lastresort.co.jp/
E-mail hello@lastresort.co.jp
事業内容
-海外生活サポート事業
-留学サポート事業
-その他サポート事業
情報システムリーダー
情報システムグループ チーフ
名取 和高(なとり・かずたか)
IT系企業勤務を経て、2003年にラストリゾート入社。基幹業務システムのアウトソーシングから社内運用への切り替えを皮切りに、IT資源調達フローの確立、セキュアなイントラネット/IP電話内線網/IT資産管理システムの構築、プライバシーマーク取得、業務改革/基幹業務システム刷新に携わる。
「日本の情報システムリーダー50人~ビジネス戦略とIT活用の実例」
ソフトバンク クリエイティブ株式会社
ITを使えば、企業は強くなる。しかし、正しくITを理解し、適切な活用方法を行っていけるかどうかが問題だ。 本書では、幅広い業種の情報リーダーの成功事例を取材、構成。真の情報リーダーの役割と、必要なスキルや知識を、それを明らかにしている。
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