日本の情報システムリーダー50人【第2回】
他部門と協調しながらシステム開発を行う東レ
企業の情報リーダー達が、どのような目標を抱き、どのような活動によって企業を変革しているのかを探っていく本特集、第2回は、株式会社東レ 情報システム部門長 重松 直氏のケースだ。
CIOや情報リーダー、情報システムリーダーには、どのような資質が求められるのだろうか。従来、米国におけるCIOの定義、活動などは紹介されてきた。しかし、日本の企業内におけるCIOや情報リーダーの実際の活動、求められる資質やスキルに関しての情報は極端に少ないのが実情である。そこで本企画では、日本企業における情報リーダーのさまざまな実例を通して、各人がどのような目標を抱き、どのような活動により企業を変革しているのかを探っていく。第2回は、株式会社東レ 情報システム部門長 重松 直氏のケースである。情報システム部門の取り組みをいかに全社的に知ってもらうかの工夫や人材育成の考え方を紹介する。(記事提供:ソフトバンククリエイティブ株式会社)
※文中、敬称略
業務のシステム化をリードしてきた東レ
東レについて、多くを語る必要はないだろう。合成繊維のイメージが強いが、ファッションだけでなくスポーツ、医薬・医療、航空・宇宙分野も手がけるメーカーだ。「研究/技術開発こそ、明日の東レを創る」という信念に基づき、私たちの生活に貢献する技術開発に力を入れる。
新しい価値と高い品質の追求を行う東レの情報リーダーは、情報システム部門長の重松直だ。重松は、1969年、東レに入社。約30年間、工場の制御、測定、電力などの生産設備を担当してきた。その後、情報システム関係に移り、システム企画開発部長を経て、情報システム部門長に就任している。情報システム部門は、システム企画開発部とシステム運用部の2つの組織で構成されている。それぞれの工場にも数名ずつシステム担当がおり、合わせて約100名を重松が統括していることになる。
東レ社内のIT化は、素材メーカーゆえ、早くから進んでいた。それは重松の入社前の時代から続くもので、メインフレームなどの汎用大型コンピュータも積極的に導入されてきた。最初は経理のシステムが入り、次は営業、人事といった形でシステム構築が進んだように、ある1つの業務を効率的にするために、情報システムを主体にやっていくという流れが自然とあった。「だが」と重松は言う。
情報システムの利用部署と「起案」することが大切
「システム化は、情報システム部門だけでは、とてもできないわけです。したがって、『こういうことが効果としてあるのではないか』という提案をして、しかるべき決済を受け、仕事を始めるときにはできるだけ、そのシステムを使う部署と我々が共同で起案していくことが大切になります。ただ、利用部署から『言ってこなかったからやらない』というのでは話にならないので、『こういうふうにしたら、うまくいくのではないか』という提案ができる部門になりたいと思っています。」
他部門と連携し提案していくためには、双方が理解し合うことが大切になるが、他部門から情報システム部門への理解はなかなか得られていないのが現状だ。情報システム部門が戦略的にいかに重要な役割を担っているかを理解してもらうこと、そして適切な権限移譲が行われることが、東レに限らず、多くの企業で課題となっている。その解決方法のひとつとして、東レでは情報システム部門の全体像(ビジョン)と、その取り組み(仕事)をまとめた「情報システム白書」を発行している。じつは、白書自体は10年以上前から手がけているのだが、あまり見てもらえていないのが実情だった。そこで、2002年からエグゼクティブサマリー(要約版)を作るようになった。
「情報システム白書」で取り組みを可視化する
「10年以上前から『情報システム白書』を作っています。1年間にどういうことをしたのかに加え、今のシステムの資産の状況などをまとめたものです。しかし、苦労して作ったわりには、あまり見てもらえない。それでは意味がないので、2002年から両面印刷で5枚ぐらいにまとめた『エクゼクティブサマリー』を作るようになりました。それでも『字が書いてあるだけだと読む気がしない』と言われたりして、その次の年からは半分図表で、半分文章という構成に変えました。
私自身が感じる情報システム部門の一番の弱みは、実績が目に見えないことなんです。以前は設備関係を担当していて、それこそ『電気は目に見えない』と言われていましたが、それでも電気の場合には、電気の配線があったり、電気パネルがあったり、その操作するツマミがあったりするわけです。しかし、システムは本当に何にも見えないですよね。進捗状況もよく見えないし、できあがったものの品質が外から見て分からない。ですから、いかに可視化するか、ということが我々自身にとっても大切ですし、会社全体が情報をどう活用していくかを考えるためにも大切なことだと思っています。その施作のひとつが『情報システム白書』というわけです。今のところ、あまり良い手段がないので、まだいろいろと模索しているところですね」と重松は「情報システム白書」の趣旨を説明する。「情報システム白書」は、現在役員や本部部門長、工場長などに配布されている。
他部門の業務を比較し、共通性を認識せよ
業務システムを情報システム部門からの一方通行で導入することにしないため、関連部門との共同提案を重視する東レ。一緒にプロジェクトを進めていくためには、情報システム部門の人間が会社の業務を知っている必要がある。しかし、彼らは実際に経理や人事を担当するわけでない。それでは、情報システム部門の人間は、会社の業務をどのあたりまで知る必要があるのだろうか。重松は判断基準をこう語る。
「システムを導入する部門の業務を知っていないと話にならないわけですが、知っているだけではなくて、ある業務とある業務との比較ができるぐらいの知識を持たなくてはいけないと思っています。ですから、あるときは経理の勉強をし、次は営業の勉強とか、今度は生産のことを勉強するとか……。そうして、業務の仕事を勉強していくと、そこには必ず共通性があり、そこからいろんな提案のネタみたいなものが出てくると思います。」
そのようなことができる後継者育成のために、重松はキャリアプランを作り、意図的に経験を積ませることにしている。そこで、各自の向き/不向きの判断をしていくという。その際の上司の役割はどうあるべきなのか。
意図して経験を積ませるのが上司の役目
「成り行きで経験を積ませるのは、ダメだと思います。上司がすべき一番重要なことは、部下にチャンスを与えること。それで、たとえば部下に与えた3つのチャンスのうち、2つはうまくいったとしますよね。そのときは、そっちが得意なんだなと判断し、それに沿った形で育てていきます。
それから、チャンスというのは突然にはやってこないんですよね。上司は『こういうような仕事が来るはずだ』と、仕事全体を頭に入れておく。そして『彼にはこういうチャンスを作ろう』と日頃から考えておく。そうでないと、チャンスは生まれません。突然仕事が来て、さぁ誰がいいかな、と考えていたのでは遅いわけです。だから、計画的にどういうキャリアを積ませたらいいのかが前提にあり、チャンスが来たときにスポッとはめて育成していくんだと思います。
上司が部下に仕事をうまくやらせようと思うと、ついつい口出ししてしまうものですが、そういうのが上司の悪いクセかもしれません。ある程度は、そのまま黙って見ているぐらいでないと、中途半端な経験になってしまって、本当にその人のためにならないかもしれませんね。」
失敗から学ぶことは多い。失敗させること、そして適切なフォローを入れること、それが先達として大切なのではないだろうか。後進を長い目で見守ろうとする重松の姿勢は、リーダーが担うべき役割を教えてくれる。
※この記事はソフトバンク クリエイティブ株式会社より刊行の「日本の情報システムリーダー50人~ビジネス戦略とIT活用の実例」より転載しています。
会社データ
東レ株式会社
代表者名 代表取締役社長 榊原 定征
設立年月日 1926年1月
資本金 969億3,723万771円(2005年3月末現在)
売上高 4,760億5,600万円(2005年3月期)
本社所在地 〒103-8666 東京都中央区日本橋室町2-1-1 日本橋三井タワー
従業員総数 6,638人(2005年3月末現在、関係会社除く)
電話番号 03-3245-5111(代表)
ホームページ URL http://www.toray.co.jp/
事業内容
繊維、プラスチック/ケミカル、情報/通信材料・機器ほか。
情報システムリーダー
情報システム部門長
重松 直(しげまつ・なおし)
1969年、東洋レーヨン株式会社(現・東レ)に入社。繊維/フィルム/ケミカル工場の電気計装や自動化設備全般、エレクトロニクス機器事業の膜厚計や欠点検査装置開発などを経て、1988年、システム企画開発部長。以降、同社の情報システムの企画/管理/開発全般に携わる。2002年6月より現職。
「日本の情報システムリーダー50人~ビジネス戦略とIT活用の実例」
ソフトバンク クリエイティブ株式会社
ITを使えば、企業は強くなる。しかし、正しくITを理解し、適切な活用方法を行っていけるかどうかが問題だ。 本書では、幅広い業種の情報リーダーの成功事例を取材、構成。真の情報リーダーの役割と、必要なスキルや知識を、それを明らかにしている。
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