Column
失敗しても大丈夫――ただし、日ごろのアピールが大切
企業はハイリターンの可能性を秘めた取り組みについては、進んでリスクを負うべきだ。ただし、行動を起こす前に、まず自社の状況をよく把握しておく必要がある。
ハリウッドの映画会社は毎年のように、興行的な失敗作を出している。レコード会社も、誰も聴きたがらないようなアルバムを制作している。自動車業界も、ちっとも売れない自動車を生産したりしている。フォード社のエドセルなどは、その良い例だ。
どの垂直業界であれ、企業が革新を目指す際には危険は付き物だ。企業は、何か新しいことに挑戦するときには失敗の可能性もある、という点を理解している。だがITの世界だけは、「失敗しても大丈夫」などと余裕に構えているCIOはめったにいないのが現状だ。
石油ガス探鉱生産業を手掛けるPioneer Natural Resourcesの副社長兼CIO、トム・ハルバーティ氏は米情報マネジメント協会(SIM:Society for Information Management)が先ごろ開催したシンポジウムで講演を行い、「IT部門にとっての成功とは、価値を生み出すことだ」と語っている。
そうした価値を生み出すためには、CIOはしばしばリスクを冒す必要がある。ビジネスの手法を革新しようとしているのであれ、新たにコスト削減を図ろうとしているのであれ、プロジェクトは常に失敗のリスクをはらんでいるものだ。
もし経営陣が100%の成功率を期待しているようならば、CIOはその難しさを彼らに分からせる必要がある、とハルバーティ氏は指摘している。
そしてプロジェクトが失敗したときには、経営陣にも理解しやすい形で失敗の背景を説明することだ。Pioneer Natural Resourcesでは、ITプロジェクトの失敗は「掘ってみたら、空であることが判明した鉱泉」の数と比較できるようになっている。そうした鉱泉は「たくさん」ある。
「つまり、IT部門の成功率の方が会社の成功率よりも高いようなら、それで十分に評価できるということだ」とハルバーティ氏。そして、もしそういうことならば、IT部門のスタッフには、事務管理部門としての役割を果たすことよりも、むしろ革新的な取り組みを目指すよう、指導できる。
「革新を正しく評価している企業は通常、革新を通じて価値を生み出している。コモディティ企業であれば、そうする代わりに、コスト削減を通じて価値を生み出すことになる」とハルバーティ氏。
ただし、これは、すべてのプロジェクトに当てはまるわけではない、とハルバーティ氏は警告している。「例えば、既に何度も扱ったことのある、決まりきった給与支払いシステムを実装するプロジェクトであれば、投資対効果的に非常に高い成功率を期待できるのが当然だ。そうした場合には、失敗は許されない」
一方、海底掘削プロジェクトを動画で視覚化するシステムを開発し、それをWebで公開して世界各地のユーザーが利用できるようにする、といったプロジェクトであれば、ある程度のリスクを覚悟すべきだ、と同氏は続けている。
「これまでにまだ誰も成し遂げたことのない取り組みだし、うまくやり遂げられるかどうか、自分でも自信がない状態のはずだ。つまり私が言いたいのは、もし目標としているのが非常に革新的なことであり、大きな差別化をもたらすことであり、これまでに成し遂げられたことのないことであれば、結果については、ある程度の不確実性を覚悟すべきだ、ということだ」とハルバーティ氏。
コンサルティング企業のMidwest Consulting GroupのCIO、ジョン・F・コール氏も、CIOは時折の失敗は覚悟しておくべきだ、という意見に賛成している。
「仕事のパートナーにも、あまり期待を抱かせすぎないようにしなければならない」と同氏。「掘ってみたら、空であることが判明した鉱泉」の数と比較するというハルバーティ氏の話をほのめかし、コール氏は次のように語っている。「小売業であれ、銀行業であれ、そうした考え方を採用するといい。そして、より多くのリターンを望むのであれば、より多くのリスクを負わなければならない、という事実を皆に認識させることだ」
一方、コール氏は、CIOはプロジェクトの成功についてもしっかり伝えるべきだ、とも指摘している。
この「失敗を恐れない」という原則は、プロジェクト管理のもっと早期の段階にも適用すべきだ。つまり、プロジェクトが失敗へと向かっているのであれば、CIOはためらうことなく早目に手を引き、プロジェクトの損失を最小限に食い止めるようにすべきだ。
ハルバーティ氏は次のように語っている。「例えば、“初めてのポータルを構築しよう”といったプロジェクトだったとする。そうした場合、まずはプロジェクトを計画し、査定を行い、基盤とする製品を選ぶ。そして、その後、その製品ではうまく目的を果たせないことが分かったとする。それでも、多くの企業はその製品を使い続け、何とかその製品で事態を収拾しようとするだろう」
ハルバーティ氏自身、プロジェクトをいったん中止し、そのプロジェクトで使っている製品がなぜうまく機能しないのかを明確にした上で、ベンダーに全額払い戻しを求めた経験がこれまで何度もあるという。その後、ときには、プロジェクトを打ち切らずに済む場合もある。別のベンダーを使って、もう一度最初からやり直すことも可能だからだ。ただし、同氏によれば、そのためには誤りを認める勇気と企業内弁護士によるサポートが必要となる。
企業はハイリターンの可能性を秘めた取り組みについては、進んでリスクを負うべきだ、とハルバーティ氏は指摘している。ただし、CIOはそのための行動を起こす前に、まず自社の状況をよく把握しておく必要がある。特に、その会社に入ってまだ間もないCIOが直ちに革新をリードしたいと意気込んでいるような場合は尚更だという。
CIOは「CEOやそのほかの経営幹部らが会社に対して何を達成するよう望んでいるか」の把握に時間を費やす必要がある。そして、社内でIT部門が置かれている状況も把握しなければならない。
「IT部門は信頼されているか、それとも、嫌われているか? 尊敬されているパートナーか、それとも、スケープゴートか? 確かな基盤を備えているか? 強力なインテグレーターか? 原価作用因は明確か? そういった点を把握しておく必要がある」とハルバーティ氏。
また、コール氏は次のように語っている。「まずに理解しなければならないのは、会社がIT部門をどのように認識しているか、そしてIT部門が自らをどう認識しているかだ。その点を理解しなければならない。なぜなら、それによって、どのくらい大胆に行動していいかが違ってくるからだ。もし、IT部門がただの御用聞きと思われているのなら、ERPシステムを実装するといった戦略的な取り組みは提案しない方がいい。革新を提案する前にまず、信頼できるビジネスパートナーとしての評判をしっかりと確立する必要があるからだ」
IT部門が事務管理部門ととらえられているような場合には、リスクの高い革新的なプロジェクトを打ち出すのは難しいだろう、とコール氏は指摘している。そのような場合には、IT部門はあまり積極果敢な目標は掲げず、一部のCIOが自らの責務と感じているように、「100%の成功率」を達成する必要があるだろう。
ただし、CIOは社内でハイリスクなアイデアのアピールも続けていくべきだ、とコール氏は指摘している。またCIOは、いざハイリスクなプロジェクトへ移行する機が熟したときに、そのためのチーム体制が整っているよう、日ごろから、危険を冒せるタイプのスタッフを手厚くケアしておくことも必要という。
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