被害者意識は捨てよう
ソフトウェアテスターは孤立無援ではない
テスターが「チームの誰も自分を助けてくれない」という被害者意識にとらわれると、アプリケーションの品質に影響しかねない。
最近担当したセミナーの休憩時間に、ある受講者が別の受講者にこう話しているのを小耳に挟んだ。
:テスター ひどい話だ。自作した自動テストスクリプトが全部壊れてしまってツールが使えそうにない。開発者がSSL(Secure Sockets Layer)を有効にしたからだ。これじゃ週末もずっと働かないと。
盗み聞きは良くないことだし、人の会話に横から割り込むのはなおさらだというのは承知している。だが、わたしは講師なので許してもらえるだろうと考えた。それに口を挟まずにはいられなかった。
:わたし スクリプトによるテストが終わるまでSSLを無効にしたらどうですか? 機能テストのスクリプトですよね。スクリプトを使ったテストが終わったら、SSLの有効化によって機能に支障が起きないかを抜き取ってチェックすればいいです。
:テスター われわれにはできません。
:わたし 何ができないのですか?
:テスター SSLを無効にすることができません。
:わたし 大丈夫、簡単です。Webサーバの種類によりますが、恐らくUI画面で「はい」を「いいえ」に変えるか、.iniファイルで「1」を「0」に変えるだけで済みます。
:テスター いや、われわれにはできません。
:わたし (戸惑って)サーバにアクセスできないということですか?
:テスター そうです。われわれはアクセスできません。
事情が見えてきたが、この受講者をすぐに手助けすることはできなかった。
:わたし なるほど。では確認させてもらうと、「われわれ」とは誰のことで、SSLを無効にできないのはなぜですか?
:テスター わたしがサーバにアクセスできないのです。
:わたし 誰かアクセスできる人がいますよね。電話して頼んでみたらどうですか。週末ずっと働くより、電話をする方が楽なはずです。
:テスター でも、それはしたくありません。SSLが問題の原因なのかも確かではありません。それに、どのみち彼らは「ノー」としか言わないでしょう。
そのとき、もう1人の受講者(たまたまテスターではなく、ビジネスアナリストだった)がわたしを見て、訳知り顔に笑って携帯電話を手に取った。
:ビジネスアナリスト (携帯電話で)もしもしイアン、今サーバルーム? あなたたちがリリースしたばかりのビルドのことだけど。そう、大至急お願いしたいことがあるの。SSLを1時間だけオフにしてもらえる? テストのためなの。よろしくね! (テスターに)イアンが午後4時までSSLをオフにしておくって。
:テスター そうか、OK。それじゃちょっとスクリプトを試してくるよ(研修室から出て行った。まずコーヒーか何かを飲みに行ったようだった)。
このテスターは最終的にスクリプトを試し、それらはうまく動いた。わたしがそのことを知ったのは、セミナーの後で2人の受講者と、このやりとりについて短い会話を交わしたからだ。わたしは、このテスターが明らかにSSLを短時間無効にすることを頼むのを嫌がっていたため、何か個人的な理由か組織上の理由があるのかどうかを知りたかった。聞いたところによると、このテスターは「誰の助けも期待できないといつも思い込んでいる」という。わたしは悲しく首を振るしかなかった。
悲しく思う理由は幾つかある。まず、わたしはこれまでにも、テスターが常にチームのほかのメンバーの不合理な(または不適切な)要求への対応に追われており、そうでない場合でも「自分は助けが得られず、壁にぶつかっていて役に立たないと感じる」と嘆いているように思えていた。また、誰も自分を助けてくれないと感じる人は多くの場合、ずっとそうした目に遭ってきている。さらに、彼らは往々にして被害者意識を募らせている。わたしはここ数年に多くのテスターと会ったが、今回のやりとりは「追い込まれていて誰の助けもなく、過小評価されていると感じる」とわたしに話してくれたすべてのテスターのことを思い起こさせる。
わたしは、どうして彼らがそのような心境に陥ってしまうのか理解しようと何度も試みた。テスターは、開発者の方がより高い評価(というよりも高い給与)を得る場合が多いことを知っている。また、彼ら自身がソフトウェア開発プロジェクトの主役ではなく、自分たちの提案をなかなか採用してもらえないことも知っている。さらに、テスターのバグリポートに対して、プロジェクトメンバーが顧客より先にバグを発見したことに感謝するどころか、バグを発生させたと非難するかのような反応を示す場合があることも知っている。しかし、いずれの場合も、多くのソフトウェアテスターが被害者意識にとらわれ、助けは得られないと思い込む十分なきっかけになるとは思えない。
正直なところ、そうした思い込みの根本的な原因は分からない。分かっているのは、そうした思い込みはプロジェクトやチーム、そして何よりもテスター自身にとって建設的ではないということだ。誰の助けも期待できないと思ったら、最初にすべきことは深呼吸をして「わたしは被害者ではない」と自分に言い聞かせることだろう。
結局、仕事では自分の担当分野でやるべきことをやるしかないのだ。仕事やプロジェクトのやり方が本当に嫌なら、家でお気に入りの求人サイトに履歴書を登録するという手もあるかもしれない。だが、テスターが何らかの理由でベストを尽くさなければ、担当するアプリケーションにその影響が出る恐れがある。アプリケーションの品質を確保するには、テスターが自身の役割をきちんと果たさなければならない。もし、テスターであるあなたが「自分は助けが得られず、八方ふさがりだ」と思い込んでしまうとしたら、その原因はあなた自身にあるのではなく、担当しているアプリケーションのテストにあなたが真剣に取り組んでいることに起因するだろう。だが、そうした思い込みに陥った結果として、アプリケーションに品質問題が発生した場合でも、テスターは(途中で放り出しはしないとしても)プロジェクトが終了すれば、別のプロジェクトを担当することになる。一方、そのアプリケーションの品質問題はすんなり片付くこともあれば、一筋縄ではいかないこともあるだろう。
結論として「被害者意識は禁物」ということだ。テスターがこの意識にとらわれると、アプリケーションの品質に影響しかねない。
本稿筆者のスコット・バーバー氏は、PerfTestPlusのチーフテクノロジスト。Association for Software Testingのオペレーション担当副社長兼エグゼクティブディレクターも務め、Workshop on Performance and Reliabilityの共同創設者でもある。
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