IFRSを会計×業務×ITで理解する【第2回】
財政状態計算書(1):固定資産管理の影響を見る
日本企業の実務との差が大きく、会計処理や業務プロセス、ITシステムに大きな影響を与えると考えられるIFRSの固定資産会計。業務プロセスやITシステムを適切に構築するための情報をお届けする。
これからIFRSの適用を目指す日本企業に影響が大きいと考えられる会計基準のポイントと業務プロセスへの影響、ITシステムの対応方法を解説する新連載の2回目。今回は日本基準との差が大きく、また日本企業の実務と影響も大きいと考えられる有形固定資産を取り上げる。なお、以下の文中における見解は特定の組織を代表するものではなく、筆者の私見である。
本連載は下記の構成にてお送りする。該当パートを適宜参照されたい。
IFRSのトピックス概要と日本基準との差異を解説する。
会計基準に対応するための業務サイドへの影響と対応方法を解説する。
Part3:ITへのインパクトと対応(本稿)
会計基準によるITサイドへの影響と対応方法を解説する。
第2回は、財政状態計算書(貸借対照表、以下では便宜的にB/Sとする)の項目のうち
- 有形固定資産(IAS第16号)
- 無形固定資産(IAS第38号)
- 投資不動産(IAS第第40号)
- 固定資産の減損(IAS第36号)
- 借入費用(IAS第23号)
について取り上げる。
固定資産管理の対応方法
第1回と同様の枠組みにて、IFRSへの対応方針を類型化する。
ここで「B.単体組替対応」「C.連結組替対応」の採用は現実的ではない。固定資産管理は原則として物件データ単位で行われ、償却計算もまた同様である。従って単体決算や連結決算の段階で組み替えを行うとした場合でも、個々の物件単位での振替計算をしなければならない点は共通していることになる。
そこで、以下では「A.個別業務対応」を基本として、固定資産管理システム上でIFRS対応を行う上での指針について解説する。
固定資産管理システムの概要
IFRSにおけるITへのインパクトと対応を検討する前に、固定資産管理システムの概要について押さえておこう。
固定資産の費用化(減価償却)を行うためには下記の変数が必要となる。
- 資産ID
- 資産名称
- 取得価額
- 取得日
- 事業供用日
- 償却方法
- 耐用年数
- 残存価額
- 減損計上履歴
これらを基に、
- 減価償却費の計算
- 減価償却費の仕訳生成
- 減損損失の仕訳生成
を行う。
税法と会計の関連を理解する
ここで、ITの観点から少しだけ離れて会計基準の側面から見てみたい。
日本の会計をつかさどるルールとして「期間損益計算」を目的とした「企業会計原則」(および関連する会計基準)と「課税所得計算」を目的とした「法人税法」(および関連法令や施行規則)が併存している。これにより制度上は目的に応じた異なる決算情報が作成されることになる。
一方で、日本では歴史的に税法と会計のバランスが取られてきた。具体的には、法人税法の規定するルール(税法ルール)に合わせる形で会計上の処理を行うという方法が主流になっている。例えば固定資産管理においては、減価償却の計算に当たって採用する「耐用年数」「残存価額」については、法人税法の規定に準じて会計処理をするという「税法ルールに合わせる」アプローチが大半の企業で採用されている。
また法人税の確定申告決算書を作成する段階でも、会計上作成された決算書から課税所得を誘導的に算出する方法が採用されている。
会計ルールが税法ルールに極力歩み寄ることで、課税所得の計算に必要な作業を軽減できることから、このような方法が広く取られてきた。
例えば「耐用年数」について。税法で定められた耐用年数は「法人税法取扱通達」において「法定耐用年数」として細目ごとに規定されている(これは定期的に見直しが行われる)。
本来的には、会計上の耐用年数(つまり、固定資産の取得原価を何年かけて費用化していくのか)と税法上の耐用年数は異なって当然で、税法が定めた「課税所得を計算する上で妥当と考える年数」は「期間損益計算をする上で妥当と考える年数」(経済的耐用年数)が一致しないことは不自然ではない。
実際のところ、ドイツやフランスでは課税所得用の決算書と会計決算用の計算書を別々に作成しており、それぞれの法や制度の要請に合わせて決算書を使い分けているのが実態だ。
しかし、日本では「税法耐用年数に基づく減価償却計算の結果を会計上も利用する」という考え方が広く採用されている。実務上は、会計と税務で同じ耐用年数を採用することで作業負担を下げる軽減することができる。
IFRSにおいては、「経済的耐用年数」を企業が独自に定めて減価償却を行う。そのときに採用する耐用年数が「税法耐用年数」と一致する保証はない。従って、決算書の作成目的に応じて固定資産の減価償却方法も使い分ける余地が出てくるのだ。
まとめると、IFRSへの移行に伴って異なる目的ごとに固定資産の台帳管理を切り分けて実装する必要性が出てくる。
再評価モデルの落とし穴
Part1・Part2で解説した通り、IFRSでは再評価モデルと取得原価モデルの選択適用が認められている。ここで注意したいのは、
「再評価アプローチを採用している場合においても、『取得原価アプローチに基づく償却計算を行っている場合の帳簿価額』を併せて開示する必要がある」
という点だ。つまり
再評価アプローチの採用=償却計算する必要なし+公正価値を収集する
ではなく
再評価アプローチの採用=償却計算を継続する+公正価値を収集する
ということになり、いずれのモデルを採用した場合でも取得原価モデルに基づく減価償却計算の結果は把握しておかなければならない。
これは、IFRSへの移行に伴って「取得原価モデルに基づく償却計算」を放棄してまったく新しい計算モデルを実装するのではなく、「取得原価モデルに基づく償却計算ビジネスロジック」に加えて「再評価モデルに基づく期末簿価算定のビジネスロジック」を追加実装する必要があるということだ。
この点は台帳管理の二重化と併せ、留意しておきたい点である。
固定資産管理システムにおける検討事項
以上を踏まえて、IFRS移行に伴う固定資産管理システムでの検討事項について解説する。Part2も併せて参照されたい。
1.管理区分の変更
IFRSにおいては、保有区分によって処理が異なり、それぞれ取得原価や公正価値情報を保持して振替時に対応可能としておく必要がある。
これらを台帳登録する前の段階で、固定資産を保有目的ごとにどのように分類するかの社内ルールを明確にし、マスター情報に反映する。
また管理単位の見直しも必須となる。コンポーネント アカウンティングを前提とした場合、固定資産の管理単位は従前より詳細な粒度にて台帳登録する必要があるため、これらの見直しとマスター情報への反映も忘れずに行いたい。
2.取得原価の算定
取得原価に集計された固定資産データを明細項目単位でマスター定義して台帳登録できるよう準備しよう。
台帳登録時には、期末時評価を日本基準に基づくものとIFRSに基づくものを切り分けて計算できるようにするため、固定資産台帳は日本基準とIFRSでの二重に管理するのが台帳化がより効果的である推奨される。
またIFRSでは開発段階の支出について、一定の要件を満たした場合には資産計上を強制される。従って、支出項目のそれぞれについて判断できる粒度でデータを保持している必要がある。開発段階の支出項目をマスター定義することも忘れずに行いたい。
資産除去債務への対応においては、見積もりキャッシュフロー情報などのマスター定義、資産除去債務の計算に必要な収集データの登録ルート確認などを行う。
借入費用への対応においては、「物件データと借入金残高との関連」「借入目的」など、資産化率を算定するための根拠情報が必要となる。
ただしこれらの計算は期末に外部で計算することでも足りるため、無理にシステム化する必要はない。
3.期末時の評価
前述の通り、再評価モデルによる場合でも従来の減価償却計算を継続した上 で、再評価モデルに基づく減価償却計算のビジネスロジックを追加実装する。
再評価価額のデータ追加入力のための画面設計や、償却計算テーブルの二重保持など、この局面におけるシステム改修インパクトは大きい。
IFRSでは「耐用年数」や「残存価額」の定期的な見直しが求められるため、これらを変更したことの履歴をデータとして保持しておく点も留意されたい(これらの見直しによって償却計算の金額インパクトを計算する必要があるため)。
4.減損テスト
IFRSではボトムアップテストとトップダウンテストの併用が採用されている。いずれのテストの場合においても、資金生成単位でのグルーピングとキャッシュフロー情報の把握が必要となる。
ただし、これも基礎データを基に期末ごとに計算することで足りるため、無理にシステム化する必要はない。減損タイミングや物件データの多寡によって自社でのシステム化方針を決めていこう。
以上、「固定資産管理」におけるITの対応方針について解説した。固定資産管理におけるIFRSの影響は相当に大きいため、早めの検討が求められる。まずは固定資産管理システムの現状調査を行い、IFRS移行に伴う影響を調査するところに着手してはいかがだろうか。
原 幹 (はら かん)
株式会社クレタ・アソシエイツ 代表取締役、公認会計士・公認情報システム監査人(CISA)
井上斉藤英和監査法人(現あずさ監査法人)にて会計監査や連結会計業務のコンサルティングに従事。ITコンサルティング会社数社をへて、2007年に会計/ITコンサルティング会社のクレタ・アソシエイツを設立。
「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識および会計/IT領域の豊富な経験を生かし、多くの業務改善プロジェクトに従事する。翻訳書およびメディアでの連載実績多数。
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