IFRSを会計×業務×ITで理解する【第3回】
考え方の転換が必要な財務諸表の表示と作成プロセス
投資家の視点から作られ、現在の日本基準からの考えの転換が求められるIFRSの財務諸表の表示。業務プロセスやITシステムを適切に構築するための情報をお届けする。
これからIFRSの適用を目指す日本企業に影響が大きいと考えられる会計基準のポイントと業務プロセスへの影響、ITシステムの対応方法を解説する連載の3回目。今回は財務諸表の利用者にとって影響が大きく、作成者にとって考え方の転換を求められる「財務諸表の表示」を取り上げる。なお、以下の文中における見解は特定の組織を代表するものではなく、筆者の私見である。
本連載は下記の構成にてお送りする。該当パートを適宜参照されたい。
IFRSのトピックス概要と日本基準との差異を解説する。
会計基準に対応するための業務サイドへの影響と対応方法を解説する。
Part3:ITへのインパクトと対応(本稿)
会計基準によるITサイドへの影響と対応方法を解説する。
第3回は、財務諸表の作成において中心的な
- 財務諸表の表示(IAS第1号)
- キャッシュ・フロー計算書(IAS第7号)
- 売却目的の非流動資産及び廃止事業(IFRS第5号)
について取り上げる。
財務諸表作成プロセス
まず、会計業務における財務諸表作成プロセスをおさらいしよう。ここでは最も現行業務からの変更負荷が低いと考えられる「日本基準に基づく決算書を基に、IFRSに基づく決算書への組替えを行う」という前提で説明する。
日本基準における標準的な財務諸表の作成プロセスは以下の通りである。
- 試算表作成
- 決算修正仕訳
- 精算表作成(日本基準)
- 表示組替仕訳(日本基準)
- 決算書作成(日本基準)
IFRSに移行することで、「日本基準からIFRSへの組替仕訳」が追加される。
- 試算表作成
- 決算修正仕訳
- 精算表作成(日本基準)
- 表示組替仕訳(日本基準)
- 決算書作成(日本基準)
- 日本基準からIFRSへの組替仕訳
- 精算表作成(IFRS)
- 表示組替仕訳(IFRS)
- 決算書作成(IFRS)
このケースにおいては、従来の日本基準に基づく決算情報は、日本基準での並行開示や税務申告での利用を想定し、そのまま使い続ける。IFRSに移行してからも当面は保全しなければいけない情報になるので注意したい。
「日本基準からIFRSへの組替仕訳」には
- 「会計処理の違いによる日本基準からIFRSへの組替仕訳」
- 「(IFRSにおける)表示組替仕訳」
の2つの方法がある。
1.「会計処理の違いによる日本基準からIFRSへの組替仕訳」とは、文字通り日本基準とIFRSの取り扱いの違いによる金額の変更を仕訳に反映する方法である。この組替仕訳は「手動入力」のものと「自動化できるもの」がある。
例えば固定資産の評価をIAS第16号に定める「再評価アプローチ」(公正価値に基づく評価)に移行した場合、組替仕訳は以下のようになる。
日本基準の仕訳(A1):取得原価アプローチによる償却費が1000とする
|(借方)減価償却費|1000|(貸方)減価償却累計額|1000|
|---|---|---|---|
IFRSの仕訳(B1):再評価アプローチによる償却費が1500とする
|(借方)減価償却費|1500|(貸方)減価償却累計額|1500|
|---|---|---|---|
日本基準からIFRSへの組替仕訳(C1):
|(借方)減価償却費| 500|(貸方)減価償却累計額| 500|
|---|---|---|---|
取得原価アプローチによる仕訳(A)は取得原価や耐用年数などの変数に基づいていて自動計算が可能だが、一方の再評価アプローチによる仕訳(B)は公正価値情報を別途収集して作成するため、(A)とは関連なく作成する。従って、日本基準からIFRSへの組替仕訳(C)も「手動入力」となる。
「会計処理の違いによる日本基準からIFRSへの組替仕訳」のうち「自動化できるもの」は、特定の判断ロジックに基づいてIFRSの仕訳を自動生成できる性質を持っている。
仮に収益認識を「出荷基準」から、IFRSへの移行に伴い「検収基準」に変更したとする。この影響は期末日付近の取引に表れる。
出荷日=3月30日
検収日=4月2日
といった取引の場合、検収日付(IFRSで売上計上するタイミングと判断する日付)が会計期間末(3月31日)をまたいで翌会計期間(4月1日~)になった場合には、日本基準で計上していた売り上げの金額を振り戻す必要がある。
このような「期末をまたいだ検収日付を保持する売上取引」を判別し、勘定科目単位で集約することで次のような振替仕訳を作成できる。
日本基準の仕訳(A2):
|(借方)売掛金|45万|(貸方)売上高|45万|
|---|---|---|---|
日本基準からIFRSへの組替仕訳(C2):
|(借方)売上高|3万|(貸方)売掛金|3万|
|---|---|---|---|
このケースでは「IFRSの仕訳」(B2に相当)を独自に作成することはなく、「日本基準の仕訳」(A2)からの差分として仕訳を作成するので注意しよう。
2.「(IFRSにおける)表示組替仕訳」とは、精算表の勘定科目体系に基づく金額から、表示向け勘定科目体系への組替えを行う処理のことで、例えば
- 重要性の判断による科目の集約
- 純額表示の容認
などがある。この種類の組替仕訳は金額の大小などに基づき担当者による判断が介在するため、一般的には自動化が困難である。
財務諸表の作成における対応事項
財務諸表の作成という局面における、主なシステム上の検討事項は以下の通りである。業務上の検討事項についてはPart2も併せて参照されたい。
ここでは大きく
- 表示様式の変更対応
- キャッシュ・フロー計算書作成方法の見直し
の2つについてポイントを解説する。
| 業務上の検討事項 | 検討内容(太字部分がシステム上の検討事項) |
|---|---|
| 1.表示様式の変更対応 | 金額集計単位の見直し |
| 勘定科目体系の見直し | |
| 表示様式の見直し | |
| 勘定科目マスターの変更 | |
| 組替仕訳対応 | |
| 出力帳票の再設計 | |
| 2. キャッシュ・フロー計算書作成方法の見直し | 直接法導入の検討 |
| 営業収入・営業支出の直接把握 | |
| 各社別のキャッシュ・フロー情報の集計 | |
| 表示区分の見直し(利息・配当金) | |
| キャッシュ・フロー修正仕訳への対応(簡便法から原則法へ) | |
| キャッシュ・フロー修正仕訳への対応(間接法から直接法へ) | |
| 出力帳票の再設計 | |
| 3. 非流動資産の管理区分見直し | 継続使用目的と売却目的の識別 |
| 売却可能価額と売却費用の集計 | |
| 継続事業と非継続事業の識別 |
1.表示様式の変更対応
勘定科目マスターの変更
金融庁より公表された「国際会計基準に基づく連結財務諸表の開示例の公表について」の「別紙」ひな型などを参考に、IFRSに対応した新たな勘定科目体系を定義してシステムの勘定科目マスターに変更をかける。
同ひな型における(日本基準にない)固有の勘定科目は以下の通りである。
【期末財政状態計算書で追加されている項目】
「投資不動産」
「売却目的保有資産」
「非支配持分」
「売却目的で保有する資産に直接関連する負債」
【包括利益計算書で追加されている項目】
「金融収益」
「金融費用」
「非継続事業からの当期利益」
「その他の包括利益」の各内訳項目
「当期利益の帰属」
「当期包括利益の帰属」
なお、IFRSへの移行直後も日本基準との並行開示が必要になるため、IFRSに存在しない勘定科目体系でデータを保持している科目については勘定科目マスターから削除せず、当面保持しておく必要がある。
組替仕訳対応
前述の財務諸表作成プロセスにおける
- 「日本基準からIFRSへの組替仕訳」
- 「(IFRSにおける)表示組替仕訳」
の「組替仕訳」を元帳データに保持する。元帳データを日本基準に基づくものとIFRSに基づく元帳とで二重に管理する場合、下図のように組替仕訳を反映する。
前述のIFRS用の勘定科目マスターを定義した上で、旧勘定科目から新勘定科目への組み替えを行うことになる。組替処理を自動化する場合には、組替前の科目から組替後の科目への変換プロセスを実装する必要がある。
前述の「収益認識基準の変更による組み替え」の変換プロセスについていえば、
- 「期末をまたいだ検収日付を保持する売上取引」を判別する
- 取引を勘定科目単位で集約する
- 集約した金額と勘定科目コードをもとに仕訳を生成する
といったシステム機能を実装する。
一方で、
- 売却目的非流動資産への組み替え
- 表示用科目の集約
- 重要性判断による組み替え
などについては人間の判断が介在するため、システムによる自動化が困難である。自動仕訳を行う範囲を明確に定義して実装方針を決定しよう。
出力帳票の再設計
IFRSへの対応を行う過程で、帳票レイアウトは根本的に変わるものと考えよう。包括利益計算書については日本基準がほぼ同等になったためあまり影響はないが、そのほかの帳票については以下のような変化がある。
財政状態計算書:非流動配列法を採用するのであれば勘定科目の配置を見直す。
所有者持分変動計算書:日本基準は1期分を表示するがIFRSでは2期分を表示するため、2期分を表示するレイアウトに拡張する。
再定義した勘定科目マスターに基づき、新しい帳票レイアウトを決めていく。このとき、「試算表」や「精算表」のように出現する勘定科目を固定的に定義できるものについては帳票レイアウトも固定できる。だが、重要性によって区分表示するかしないかを判断する項目(帳票レイアウトが可変となる項目)については、固定的レイアウトを使用できない。
2. キャッシュ・フロー計算書作成方法の見直し
キャッシュ・フロー計算書の作成に当たり、IFRSでは基準の中で選択可能なルールを提示するにとどまっているが、導入企業が自主的に採用するルールの内容によってIFRS導入に向けたITサイドのハードルは大きく変わるため注意しておきたい。
キャッシュ・フロー修正仕訳への対応(簡便法から原則法へ)
原則法を採用した場合、会社ごとにキャッシュ・フロー計算書を作成するための基礎情報(具体的には固定資産の増減明細や未収金の内訳明細など)を追加的に収集する。子会社からの決算書情報を収集する入力書式(紙への記入やワークシートへの入力が一般的)を「連結パッケージ」と総称するが、この「連結パッケージ」への入力を子会社側で正しく行うための環境整備がまず必要になる。グループ会社の会計システムの導入状況や親会社システムとの連携について現状把握をしておきたい。
子会社によっては貸借対照表や損益計算書以外の追加情報を集計して親会社に送付するプロセスが確立していないケースや、不正確なデータを送付することによる余計な負担が掛かるケースがある。簡便法においてもこれらのデータを収集することには変わらないが、キャッシュ・フロー計算書作成作業自体は連結財務諸表の確定後となるため、子会社からの追加データ入手のリードタイムには時間的余裕がある。
原則法においては各社別のキャッシュ・フロー計算書を作ることになり、より早い段階で正確な追加データを収集する必要がある。手作業やワークシートでの収集から、ITを活用した連結パッケージ収集業務の自動化を検討しよう。
キャッシュ・フロー修正仕訳への対応(間接法から直接法へ)
直接法を採用した場合、キャッシュ・フロー計算書を作成する作業はより煩雑になる。具体的には、仕訳の生成単位ごとに営業キャッシュ・フローへのインパクトを集計するための修正仕訳(キャッシュ・フロー修正仕訳)を作成する。
キャッシュ・フロー修正仕訳の作成方法は
- 「キャッシュ・フローへの影響額を会計期間末に総額で把握して作成」
- 「キャッシュ・フローへの影響額を仕訳生成単位ごとに把握して作成」
の2つがある。後者での作成を想定した場合、日々の業務の中で都度作成する(=仕訳作成のたびに対応するキャッシュ・フロー修正仕訳を作成する)のは非常に煩雑なため、システムによる自動化対応が求められる。
通常の仕訳:売上計上
|(借方)売掛金|1200|(貸方)売上|1200|
|---|---|---|---|
キャッシュ・フロー修正仕訳:
|(借方)売上債権の増減|1200|(貸方)売掛金|1200|
|---|---|---|---|
このように仕訳生成のたびに対応するキャッシュ・フロー修正仕訳を作成できるように、仕訳相互の関連付けを行う。
なお、元帳データは「キャッシュ・フロー修正仕訳入力前」と「キャッシュ・フロー修正仕訳入力後」のそれぞれの状態で勘定科目ごとの金額が把握できるように、作成する仕訳の階層を区別して識別しておこう。
直接法への対応はシステム化の観点ではより複雑だ。前述の「原則法」と併せて「直接法・原則法」を採用することは導入のハードルを最大限高めることになる。そのため開示に必要な財務経理機能と費用対効果を分析し、導入の可否について慎重に検討されたい。
出力帳票の再設計
キャッシュ・フロー計算書においても出力帳票の再検討が必要だ。特に「原則法」を採用した場合には「会社単位での表示」と「通貨単位の切り替え」機能をシステムに追加実装する必要がある。
「会社単位の表示」は、原則法では会社単位でのキャッシュ・フロー計算書を作成することになるため、会社名を切り替えて帳票を作成・表示できるようにする機能である。
「通貨単位の切り替え」は、海外子会社のキャッシュ・フロー計算書の場合、「現地通貨」から「機能通貨」「表示通貨」への換算を行い、それぞれの通貨での表示を切り替える機能が必要である。これらの表示の切り替えで、換算に伴う、為替調整額の集計・表示も再検討する。
以上、「財務諸表の作成」におけるITシステムの対応方針について解説した。最終形の表示に至るまでの対応事項は多岐に及ぶため、システムによる対応範囲を早めに見極めておきたい。
原 幹 (はら かん)
株式会社クレタ・アソシエイツ 代表取締役、公認会計士・公認情報システム監査人(CISA)
井上斉藤英和監査法人(現あずさ監査法人)にて会計監査や連結会計業務のコンサルティングに従事。ITコンサルティング会社数社をへて、2007年に会計/ITコンサルティング会社のクレタ・アソシエイツを設立。
「経営に貢献するITとは?」というテーマをそのキャリアの中で一貫して追求し、公認会計士としての専門的知識および会計/IT領域の豊富な経験を生かし、多くの業務改善プロジェクトに従事する。翻訳書およびメディアでの連載実績多数。
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