中堅・中小企業のクラウド活用とセキュリティ【第1回】
調査結果から見る中堅・中小企業のクラウドセキュリティに対する懸念
独自の調査結果を基に、中堅・中小企業のクラウド活用におけるセキュリティ課題とその解決策を明らかにする。
昨今では毎日のように「クラウド」というキーワードを見聞きするようになった。ITを自ら所有せずに利用するという新しい形態は厳しい経済環境下にあるユーザー企業にとって魅力的な選択肢であるといえる。
だが、一方で注意すべき点も多々ある。「所有しない」ということは自社の情報処理システムを何らかの形で外部に預けることを意味する。そこで生じるのがセキュリティに関する懸念だ。クラウドを活用する際は「自ら所有せず他者に預ける」ことに起因するセキュリティ課題を避けて通ることはできない。そこで本稿ではクラウド活用において留意すべきセキュリティの課題とその解決について考えていくことにする。
クラウド活用に踏み切る前にセキュリティ課題を解消しておくことが大切
まずクラウド活用におけるセキュリティ課題について、ユーザー企業がどのように考えているか、現状を確認してみよう。以下のグラフは年商500億円未満の国内中堅・中小企業1000社のうち、「既にクラウドを活用している」と回答した企業に対し「クラウド活用におけるセキュリティ懸念が導入前後でどのように変化したか?」を尋ねた結果である。
最も多くを占めるのは「サービス導入前からセキュリティ面の懸念はなく、サービス導入後も懸念は生じていない」という回答(39.8%)だ。つまり、既にクラウドを導入しているユーザー企業のうち、約4割は導入前の段階でセキュリティ課題を何らかの方法で解消しているということになる。
一方、「サービス導入前はセキュリティ面の懸念があったが、サービス導入後には解消された」という回答は24.3%にとどまっている。つまり、「実際にクラウドを活用してみたら、実はそれほどセキュリティについて心配することはなかった」というケースは3割未満にとどまっていることになる。
逆に「サービス導入前からセキュリティの懸念があり、サービス導入後にも懸念を持ち続けている」という回答は32.0%存在する。何らかのセキュリティ懸念が想定されるものの、そのリスクを認識しつつ許容しているというユーザー企業も約3割存在しているわけだ。
この結果を踏まえると、クラウド活用におけるセキュリティ面での懸念は時間の経過と共にひとりでに解消されるものはなく、活用を開始する前に解消しておくことが望ましいといえる。
多岐にわたるセキュリティ課題を1つひとつ確認していくことが重要
では、クラウド活用におけるセキュリティ課題にはどのようなものがあるのだろうか? 以下のグラフは先と同様の年商500億円未満の中堅・中小企業1000社に対し、「クラウド活用において生じるセキュリティ面の課題」を尋ねた結果である(複数回答可)。
「特にセキュリティ上の課題はない」という回答も23.4%存在しているが、残り約8割のユーザー企業はセキュリティ面について何らかの懸念を抱いているということになる。以下でそれぞれの課題を見ていくことにしよう。
1.社外からも利用可能なため、第三者による不正アクセスの危険性がある
最も多く挙げられているのは「第三者による不正アクセス」の危険性だ。パブリッククラウドではインターネットを介してクラウド環境のシステムを利用することになる。その際、認証の仕組みや運用が脆弱だと第三者にアカウントを不正利用される可能性がある。アカウントを乗っ取られてしまえば、それ以降はあらゆる操作が可能となる。懸念点として最も多く挙げられているという結果も納得できる。
2.サービス運営業者が情報漏えいなどのトラブルを起こす可能性がある
自社の情報処理システムを預けているサービス運営業者が過失または故意のトラブルによって、情報漏えいを起こす可能性はゼロではない。もちろん、こうした情報漏えいのリスクは自社内で運用する場合にも同様に存在する。しかし、クラウドの場合は以下の2点を考慮しておく必要がある。
まず1つは、サービス運営業者の事業継続が困難になるというリスクである。データセンター設備はサービス運営業者の資産であるため、万が一差し押さえなどの事態が発生した場合、預けたデータの取り扱いがどうなるかを確認しておく必要がある。2つ目はほかのユーザー企業も同じデータセンターを利用しているという点である。反社会勢力など何らかの捜査対象となる存在と自社の情報処理システムとが同じ設備内にあった場合、ストレージ機器の押収といったケースで自社のデータが安全に保護されるかという点も考えておかなければならない。
3.インターネットを介するため、ネットワーク上で傍受される可能性がある
1.で挙げられた課題と同様に、パブリッククラウドの場合は情報処理システムが扱う各種データもインターネットを介してやりとりされる。何の対処も施さなければ、ネットワーク上で傍受される可能性がある点に注意が必要だ。
4.自社と他社のデータがきちんと隔離されて管理されているかという点に不安を感じる
クラウド環境の実現にはさまざまな方法があるが、数多くの情報処理システムを柔軟かつ迅速に配備できるようにするためにハードウェアとソフトウェアを分離する「仮想化」を採用するケースが多い。つまり、サーバ機器やストレージ機器などの物理的な観点では同一筺体内に複数のユーザー企業のデータが混在することになる。もちろん技術的には個々のユーザー企業のデータはきちんと分離されるのが通常だが、自社内運用の場合と大きく異なる点であるだけに、懸念を示すユーザー企業も2割程度存在している。
5.さまざまなサービスと連携するための仕組みが脆弱性につながる恐れがある
パブリッククラウドの多くは認証連携やデータ連携を行うためのAPI(Application Programming Interface)を備えている。こうした仕組みは便利だが、セキュリティの観点では「悪意のある攻撃者が攻め込む場所」にもなり得るので注意が必要だ。
6.既存システム連携のため、自社側のセキュリティを緩めなければならない場合がある
自社内の既存システムとクラウド側システムを連携させる必要が生じることも少なくない。その際、従来は閉じていたファイアウォールのポートを空ける必要が生じるなど自社側のセキュリティを緩める必要が出てくるケースもある。連携ができるか――どうかだけでなく、そのときに必要となる自社側の対応にも注意を払わなければならない。
7.サービスの利用状況やアクセス履歴といった運用管理情報を把握することができない
情報漏えい対策などの理由で、個々の社員が業務において行った操作を記録しておきたいと考えるユーザー企業も少なくない。また、これまで自社内で情報処理システムの運用・管理をしていた情報システム部門の立場としては、「自社のシステムなのだから、いつ、何が起きたのかをすべて把握しておきたい」と考えるのも当然だ。
だが、クラウド環境においてはネットワーク、ハードウェア、OS、アプリケーションに至るすべてのシステム要素の管理権限を持てるケースは少なく、自社内運用と比べて取得できるログの種類や頻度も制限されるのが一般的だ。システムの運用・管理を自社できちんと行っていたユーザー企業の場合は、特にそうした違いを懸念として感じることがある。
このようにクラウド活用に際してはさまざまなセキュリティ課題が存在し、いずれも安全にクラウドを活用していく上では無視できないポイントといえる。次回は上記に述べた各種の課題についてどのように対処していけばよいかについて解説していく。
岩上由高
ノークリサーチ シニアアナリスト
ソフトウェアベンダー数社でソフトウェア製品の企画、設計、開発、コンサルティング、トレーニングなどに携わった後、ノークリサーチに入社。シニアアナリストとしてITのさまざまな領域の調査・分析に従事し、その成果を記事執筆やコンサルティング活動を通じて積極的に発信している。
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