サーバ仮想化からプライベートクラウドへの道(1)
単なる“全社仮想化”とは違うプライベートクラウドの本質的価値
仮想化によってITシステムを統合することと、プライベートクラウドを展開することは違う。両者の違いを整理しながら、プライベートクラウドへの移行ステップを解説。プライベートクラウドの本質的な価値に迫る。
先日、社内でプライベートクラウドを構築したという某製造業のIT部門の部長に話を聞くことができた。部長いわく「確かにイニシャルコストは下げることができたが、IT部門スタッフの仕事は増え、運用コストが上がって困っている。プライベートクラウドは意味がなかったのだろうか?」という愚痴をこぼしておられた。
「どのようにプライベートクラウドを構築したのですか?」と聞くと、「全国の拠点に設置されている約100台のサーバをデータセンターに集約し、20台の物理サーバ上にVMwareを導入してサーバ仮想化環境を作った。これがわが社のプライベートクラウドだ」とのことだった。いわゆる「なんちゃってクラウド」だ。これでは、本当の意味でのクラウドのメリットを享受できない。
そこで本稿では、仮想化技術を使って「サーバやストレージなどのITシステムを統合すること」と「プライベートクラウドを展開すること」の違いを整理しながら、プライベートクラウドへの移行ステップを解説。さらには、プライベートクラウドの本質的な価値に迫ってみたい。
仮想化統合とプライベートクラウドは違う
仮想化統合とは、サーバやストレージなどのITシステムを統合することを意味する。これにより、コンピューティングリソースの稼働率を向上させ、ITシステムのコストを最適化する。
確かに、仮想化技術を駆使することで部門ごとにサイロ化していたITシステムを統合して物理的なサーバ台数を減らし、初期コストやそれに付随する維持コスト、設置スペースのコストを削減することができる。運用面では、ライブマイグレーションなどの機能を利用することでプログラムを止めずにサーバをメンテナンスできるなど、一定のメリットはある。これがいわゆる仮想化統合、IT基盤統合といわれている。
しかしながら、プライベートクラウドの神髄は、「全社共通のIT基盤(リソースプール)から、必要なときに必要なだけのITサービスを迅速に提供する」ことにある。つまり、部門ごとに点在していた個別最適化されているITシステムを、全社共通のリソースプールとして全体最適化することで、さらなるITコスト削減効果を引き出す。一方、ビジネス部門からの要求に応じて即座にITサービスを提供することで、ビジネススピードの向上に貢献する。ここでいうITサービスとは、仮想サーバだけのサービス提供にとどまらない。ストレージやネットワーク、VDI(デスクトップ仮想化)などの仮想化インフラの配備に加え、各種アプリケーションも含まれる。
もう少し付け加えると、プライベートクラウドを展開するということは、「IT部門がサービス事業者へ変革する」ことであるといっても過言ではない。パブリッククラウドでは実現できないセキュリティやサービスレベルをコントロールすることで、社内にガバナンスを効かせたITサービスを提供することができるのだ。
サーバ仮想化からプライベートクラウドへのステップ
IT部門がビジネス部門に対するサービス提供者という視点を持つと、プライベートクラウドに必要な要件が見えてくる。ビジネス部門のユーザーにとって分かりやすいITサービスメニューを準備しておき、ストレスなく快適にサービスとして利用してもらい、気持ちよくサービス料金を支払ってもらう。このような仕組みを作り上げるには、仮想化統合されたIT基盤に対して、標準化、自動化、チャージバックの3つの要素を実装していく必要がある。ここまで実装することで、初めて「なんちゃってクラウド」から脱却し、プライベートクラウドの恩恵を最大限享受することができる。
仮想化+標準化+自動化+チャージバック=プライベートクラウド
それでは、各要素をもう少し具体的に見てみよう。
プライベートクラウドへの3つのステップ
- ステップ(1)全社共通のIT基盤にするための2つの標準化
- ステップ(2)ITサービスを迅速に提供する2つの自動化
- ステップ(3)ITサービスの利用量に応じた課金
(1)全社共通のIT基盤にするための2つの標準化
全社共通のIT基盤にするためには、サービスの標準化と運用プロセスの標準化の2つが鍵を握る。サービスの標準化とは、ビジネス部門にとって分かりやすい形のITサービスのメニュー(サービスカタログ)を定義することから始める。具体的には、サービスの内容、適用範囲、提供条件(サービスレベル、セキュリティレベルなど)、利用料金などが含まれる。運用プロセスの標準化とは、ビジネス部門からのITサービスの利用申請や承認ワークフロー、ITリソースを払い出した後の運用管理ルールなどを定義する。
これまでのように、各部門からのサービス要件に個別に対応していては、個別システムを集約しただけで、全社共通のIT基盤にならない。また、各部門が勝手なルールで運用をしていては、IT部門スタッフの負荷は上がる一方になってしまう。こうならないためにも、標準化作業の段階で、ビジネス部門からの要求の最大公約数を吟味した上で、SLA(サービス品質保証契約)や運用ルールを、しっかり握っておくことがポイントとなる。
(2)ITサービスを迅速に提供するための2つの自動化
ビジネス部門からのリクエストに応じて、ITサービスを迅速に提供するには、申請/承認プロセスの自動化とITリソースのプロビジョニング(払い出し)作業の2つの自動化が鍵を握る。これまでIT部門のヘルプデスク担当者が行っていた一連の業務プロセスをできる限り自動化していくことが重要となる。そのためには、ビジネス部門からのリクエストを受け付ける玄関口、いわゆるセールサービスポータルとクラウド管理ツールの実装が有効だ。
セルフサービスポータルは、文字通りユーザー自身がIT部門スタッフを介さずにITリソースを受けるためのWebポータルで、ステップ(1)で定義したITサービスのメニューや申請/承認プロセスのワークフローが盛り込まれている。クラウド管理システムは、ITリソースのプロビジョニングの自動化を支援するソフトウェアで、仮想化されたリソースプール上で動作するもの。
このセルフサービスポータルとバックエンドのクラウド管理システムが連動することで、ヘルプデスク担当者の負荷を軽減するとともに、各種設定における人的ミスを減らし、ITリソース提供までの時間を大幅に短縮することができる。
(3)ITサービスの利用量に応じたチャージバック
チャージバックとは、ITサービスを課金する仕組みだ。当然、課金するにはITサービスを可視化して計測する仕組みも必要になる。「プライベートクラウドなのに課金?」という声が聞こえそうだが、ビジネス部門としても相応のメリットもある。ITサービスの利用状況が異なる部門間において、これまでのように全社のITリソースコストを均等割や人数割りして配分するという不均衡を解消できる。加えて、ITサービスの利用量に応じた課金という考えを導入することで、ビジネス部門のユーザー視点は「所有から利用」に変わってくる。ビジネス部門は、ITリソースの初期投資を抑え、固定費から変動費化することで、決算ごとの利益の最大化を可能にする。これはビジネス部門にとっては大きなメリットとなる。
一言で課金といっても使った分だけ支払う従量課金、月額定額、四半期、年額、グローバル企業であれば基軸通貨なども考慮する必要がある。ITリソース利用量の追跡や可視化はもちろんのこと、どこまでを共通コストとして、どこを課金対象にするかなどの課金ポリシーを策定する必要がある。
この3つの要素を実装することで、全社共通のIT基盤(リソースプール)から、必要なときに必要なだけのITサービスを迅速に提供するプライベートクラウドを初めて構築したといえる。これにより、さらなるITコスト削減効果を引き出し、ビジネススピードの向上に貢献するといった、プライベートクラウドの恩恵を最大限享受することができるのではないか。
プライベートクラウドの本質的価値=IT部門がヒーローになれる
プライベートクラウドを社内にサービス展開することで、IT部門の立場が大きく変わる。各部門にとって使い勝手の良いお抱えSIベンダーが構築してきた個別最適のITシステムを巻き取り、全社共通のプライベートクラウドとしてIT部門が主導して運営していくことになる。
標準化、自動化され、利益を生むプライベートクラウドによって、従来のようにシステムの維持管理や、ビジネス部門のユーザーからのヘルプデスク対応に日々追われることはなくなる。ここで得た人的リソースと削減コストを新規ビジネス開発やサービス開発などの戦略的な投資にシフトすることができるようになる。つまり、企業競争力の源泉になり、経営戦略を実行する上での重要なポジションに成り上がることができるのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
サーバ仮想化からプライベートクラウドへの道
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[株式会社キーエンス] PCが苦手でも自動化できる ポポラマーマなど4事例に学ぶ「ナビ搭載型RPA」活用 -
製品資料
[株式会社クレオ] IT部門を“価値創造組織”へ転換 IT管理プロセスの改革で戦略的リソースを確保 -
製品資料
[株式会社クレオ] Excel管理が限界に――ITサービス管理の脱・属人化と運用高度化を実現する方法 -
製品資料
[株式会社クレオ] 西武グループやイオングループも実践 事例に学ぶ「ITサービスデスク業務」改善 -
製品レビュー
[株式会社クレオ] 「使われないITシステム」から脱却 現場が求める業務改善を実現する方法
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
生成AIが普及しても「技術書」を手放せないエンジニアの本音
-
2
IT製品の導入に関するアンケート「サーバ&ストレージ」編
-
3
「Windows」の不要なファイルを安全に消して容量を空ける方法
-
4
世界PC出荷数が20%急減 情シスを直撃するPC先行調達の反動と価格高騰
-
5
326のIPアドレスで1200超のアクセス AIエージェント関与が疑われる攻撃の中身
-
6
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
7
「企業におけるAI導入検討度とIT投資優先度」に関するアンケート
-
8
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
9
IT業界の女性は9割が10年で消える 人材枯渇を招く“見えない壁”の正体
-
10
「企業内サーバ環境の利用実態」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
4
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
5
プログラミング不要で誰でも実現できる、ネットワーク運用管理の自動化とは
-
6
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
7
東大教授と考える、AI時代の「データ主権」「信頼性」「ガバナンス」の在り方
-
8
Linux初心者でも知らないとまずい「RHEL」「SLES」の違いとは?
-
9
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
10
ランサムウェア攻撃“究極の対策”はこれだ
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー