人気マラソン大会でのシステム障害はなぜ起きた?
ランニング人口は推定1000万人 エントリー合戦“第0関門”の裏で走り続けるITインフラとは
日本のランニング人口はおよそ986万人。マラソンブームの裏側を支えるITインフラはますます運用が難しくなっている。数年前に人気マラソン大会のエントリーでシステム障害が発生した。問題解決に取り組んだ担当者に話を聞いた。
空前のマラソンブーム、“第0関門”を支えるITインフラとは
公益財団法人の笹川スポーツ財団が2014年に実施した調査「スポーツライフに関する調査報告書」によると、日本のランニング人口はおよそ986万人(年に1回以上ジョギングやランニングを実施)。1998年の調査ではおよそ675万人だったことから、その急成長ぶりがうかがえる。
ランニング熱の高まりに伴い、ランナーの大きな悩みの1つとなっているのが、ランニング大会へのエントリーである。人気が集中するマラソン大会では、先着や抽選が当たり前となっており、ランナーの間ではそうした大会へのエントリーを「第0関門」(マラソン大会では、指定された地点を指定された時間内に通過する関門が設定されていることが多いため)と呼ぶこともある。
そうした大会エントリーや記録計測のサービスを提供するのがアールビーズである。ランニング関連のポータルサイト「RUNNET」の運営会社といった方がなじみのある人は多いかもしれない。ランニング雑誌『ランナーズ』など幅広く事業を展開している。
アールビーズは2013年、湘南国際マラソンという人気大会のエントリーで大規模なシステム障害に見舞われたことがある。その時の経緯や改善策、今後の展開について、同社担当者に話を聞いた。
まさに悪夢だった湘南国際マラソンのシステム障害
湘南国際マラソンは、立地条件がよく景観も美しいこともあり、超人気のマラソン大会である。そのエントリー受付は開始から数時間で定員に達してしまうほどだ。大規模なシステム障害は、2013年の第8回湘南国際マラソンの1次募集で発生した。障害の原因は大きく次の3点だった。
インターネット回線のひっ迫
湘南国際マラソンのエントリー開始直前からRUNNETへのアクセスが殺到(スパイク)したことでインターネット回線がひっ迫し、通信が不安定な状態となった。順番待ちシステムを用いた待ち時間表示を取りやめるなど、システム負荷を軽減する措置などを施したが、結果として障害解消となるには長い時間を要した。
ルーターの故障
インターネット回線がひっ迫した影響によりルーターに異常をきたした。ただ、故障したルーターを早期に交換したため、これが今回の障害の主な要因にはならなかったという。
負荷分散装置のキャパシティー不足
個人情報の暗号化・復号処理を負荷分散装置(ロードバランサー)のSSLアクセラレーションで行っていたが、その負荷分散装置の処理能力を越えたアクセスが原因で装置が正しく動作しなかった。それによってHTTPS通信が不安定になり、エントリー画面まで到達していながらも途中で通信が止まってしまうという状況を招いた。
1年をかけた事前の負荷対策は奏功せず
こうした突発的なアクセスの集中について、事前に何も対策を講じていなかったわけではない。アールビーズ ネット部 部長の楠田真琴氏は次のように話す。
「Webサーバ、アプリケーションサーバ、データベースサーバを1年かけて増強し、エントリー処理がこれまでの約4倍の速度で進められる万全のシステムを構築した」
しかしながら、ピーク時のスパイク値に対するインターネット回線の不足と、ネットワーク機器へのトラフィック量増加に対する手だてが不十分だったため、結果して増強したサーバの処理能力を十分に生かすことができなかった。
順番待ちシステムもネットワーク機器への負荷を増大させる要因の1つとなった。順番待ちシステムは本来、一時的なWebアクセスの集中によって発生する負荷を分散し、システムの不安定化、セッションエラーなどを防ぐ仕組みだ。アールビーズは、2013年3月に順番待ちシステムを変更し、エントリーの処理速度を従来の3~5倍に改善したが、湘南国際マラソンでは想定を超えるアクセスが殺到し、処理しきれなくなってしまった。
ちなみに楠田氏によると、順番待ちシステムは、マラソン大会の主催者になることが多い地方自治体からのニーズが高く、公平性やフェアの精神を尊重するスポーツ界ならではの必要な仕組みなのだという。
アクセス集中対策とクラウド移行を見据えた今後の展開
アールビーズは湘南国際マラソンでのシステム障害を受けて、次のようなアクセス集中対策を講じた。インターネット回線とネットワーク機器を補強し、システム全体の安定化を図っている。
- インターネット回線を補強
- ルーターを上位機種に交換
- SSLアクセラレータを交換し、最大接続数を適正値に調整
- 混雑画面を軽量化し、トラフィックを削減
これらのシステム強化策と運用により、湘南国際マラソンの2次募集とそれに続く、複数の人気マラソン大会でのエントリー受付を無事に乗り切ることができた。
ただ、アクセス集中負荷に関する課題は依然として残っており、エントリーシステムの改善と安定稼働は今後も最重要案件であると、楠田氏は話す。
その一環として同社は現在、Amazon Web Services(AWS)の利用を始めている。実際に、ランナーの記録や走っている位置が分かる「応援navi」など、一部サービスをAWSで構築し、運用している。
楠田氏は、クラウド活用の経験やノウハウを積み重ねた上で、いずれどこかのタイミングでクラウドへの全面移行を行いたいとした。
アールビーズは、出走権を譲渡できる「ゆずれ~る」や校内マラソン向け簡易計測システム「Runners School Timing」、ランナーを導く市民ランナーを育てる「ランナーズマイスター養成講座」など、さまざまな取り組みを積極的に展開している。RUNNETは国内最大級のランニングポータルであり、ランナーを支える重要なITインフラであると言っても過言ではない。今後の動向にも注目したい。
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