セキュリティ研究者が問題を指摘
「Android」のフルディスク暗号化に脆弱性、総当たり攻撃でパスワード解読の恐れ
Qualcommのチップセットを搭載する端末の脆弱(ぜいじゃく)性を突いて、「Android」のフルディスク暗号化が悪意ある攻撃者や捜査機関に破られる可能性のあることが明らかになった。
暗号化やロックがかけられた「iPhone」のデータへのアクセスを求める捜査機関と、それを拒否するAppleの対立は広く報じられてきたが、Android端末については、その手のニュースはあまり聞こえてこない。最近発表された新たな研究によると、Androidのフルディスク暗号化が脆弱(ぜいじゃく)性の悪用によって解除できるかもしれない。
セキュリティ研究者のガル・ベニアミニ氏は、攻撃者がQualcommプロセッサの安全な要素(TrustZone)におけるカーネルコード実行の脆弱性を悪用し、Androidのフルディスク暗号化を破ることが可能であることを示した。同氏によると、この問題は、Androidがフルディスク暗号化のためにハードウェアキーを使用する方法に起因しているという。
ベニアミニ氏は、自身のブログに次のように記している。「内部の鍵導出関数は、SHKという真のハードウェアキーを使用する。ソフトウェアを使ってこの鍵を抽出するのは間違いなく困難だろう。しかし、その利点は生かされていない。上記のコードは、ソフトウェアやファームウェアに鍵を漏らさずハードウェアキーを直接使うようなスキームを作るようになっておらず、TrustZoneソフトウェアで直接利用可能な鍵を使って、Key BLOB(binary large object)の暗号化と検証を行うようになっている」
ベニアミニ氏は、2つの脆弱性を組み合わせて悪用することで、Qualcomm Secure Execution Environment(QSEE)でのコード実行と、QSEEからTrustZoneへの権限昇格によって暗号鍵を入手することが可能になり、ひいてはこれらの鍵を使ったブルートフォース攻撃によって、パスワードの解読を試みることができることを発見した。
Black Duck Softwareのシニアセキュリティリサーチャーを務めるニール・ランキン氏は、ブルートフォース攻撃で認証を破られるリスクを軽減する1つの方法は、良いパスワードを使うことだと語る。
「このパスワード解読手法の中でブルートフォース攻撃の要素には、珍しいものは何もない。パスワードが短ければ、すぐに解読が成功するだろうし、パスワードが長ければ、解読に時間がかかるだろう」と、ランキン氏は述べる。
ランキン氏によると、Android端末では、データを保護するための画面ロックの方法として、以下の3つが用意されているという。
- PIN:4桁以上の数字
- パターン:指で簡単なパターンを描くことで、ロックを設定および解除する
- パスワード:4文字以上の英数字。例えば、16文字で設定すれば、強力なものになる
「5桁のPINは、1~2秒でクラッキングされてしまう恐れがある。16文字のパスワードなら、解読されるまでにかなりの時間がかかるだろうし、特殊な文字が含まれていれば、数年がかりになる可能性もある」
TrustZoneにおけるカーネルコード実行の脆弱性を突いて暗号化を解除しようとするこの攻撃自体は、容易なことではない。特に、ブルートフォース攻撃にかなり耐えられる長い複雑なパスワードが端末で使われている場合はなおさらだ。しかしベニアミニ氏は、これらの脆弱性の存在は、「Androidのフルディスク暗号化の解除を求める捜査機関の命令にOEMが従うということでもある」と指摘する。
「鍵がTrustZoneで利用できるので、OEMにしてみれば、KeyMaster鍵(※)を抽出するTrustZoneイメージをOEMが作成して署名し、対象となる端末にフラッシュ(バッファの内容を強制的に物理デバイスに出力)すればよいということになる。これにより、捜査機関は抽出された鍵を使って、端末のフルディスク暗号化のパスワードをブルートフォース攻撃で簡単に解読できるだろう」
※「KeyMaster」はAndroidで暗号鍵を守るためのモジュール
マルウェア対策ベンダーのBitdefenderでサイバー脅威リサーチャーを務めるリビウ・アーセン氏は、法執行機関はOEMの協力を必ずしも必要としないだろうと語る。
同氏は取材に対し、次のように述べている。「OEMの協力を求めない場合、やるべきことが増え、より多くの時間を取られるかもしれないが、結果は同じだろう。ベニアミニ氏が公開した方法は、適切なスキルがあれば、誰でも実行できる。法執行機関も、どのような攻撃者も、OEMの力を直接借りることなく、Androidのフルディスク暗号化を破れると考えてよいだろう」
ベニアミニ氏が取り上げた2つの脆弱性の本当のリスクを評価するのは難しい。多くのAndroid端末がQualcommプロセッサを搭載しているが、フルディスク暗号化がデフォルトで有効になっているのは、「Android 5.0」以降に限られる。Googleの最新のプラットフォーム統計によると、Android 5.0以降を搭載する端末は全体の5割弱にとどまっている。
この2つの脆弱性は、2016年1月と5月のAndroidのセキュリティパッチでそれぞれ修正されている。ただし、何台の端末にこれらのパッチが適用されているかは不明だ。しかも、ベニアミニ氏は、これらのパッチはロールバックすることも可能だと指摘している。
「パッチを適用済みの端末でも、攻撃者が(フォレンジックツールを使うなどして)暗号化されたディスクイメージを取得できれば、端末を脆弱性のある状態にダウングレードして、TrustZoneを悪用して鍵を抽出し、暗号解除のためのブルートフォース攻撃に使用することが可能だ。その鍵はSHKから直接導出されたものであり、SHKは変更できない。このことから、ダウングレード可能な端末は全て、いったんダウングレードされると、脆弱そのものになってしまう」とベニアミニ氏は記している。
アーセン氏は、ベニアミニ氏はそうしたダウングレードの難しさについては、あまり触れていないようだと指摘する。
「これはかなり難しい方法だ。OEMがTrustZoneに署名することが必要になるからだ。しかし、Appleだけが手掛けるiPhoneとは異なり、幅広い多くのAndroid OEMが存在することを考えると、法執行機関とそれらのいずれかのメーカーが協力するというのはありそうなことだ」(アーセン氏)
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