学校が知りたいIT製品選定の勘所:パスワード管理・生体認証編【後編】
「パスワード定期更新」の“悪夢”から学校を解放する認証手段とは?(2/2 ページ)
生体認証
最近になって急速に活用が広がっているのが、指紋や虹彩といった生体要素を認証要素として利用する生体認証だ。
生体認証は、それほど新しい技術や仕組みではなく、絶対的に強固なものでもないが、少なくとも学習者がエンドユーザーとなる教育機関では、非常に運用しやすい仕組みだと考えられる。傍証にはなるが、この数年でスマートフォンが指紋認証や顔認証などの生体認証を続々と採用しているのも、運用のしやすさからだろう。教育機関の間でも生体認証の導入は進みつつあり、地方自治体や教育委員会単位での採用事例もある。
セキュリティ業界の識者の間からは、生体認証で利用する生体要素は体の一部であるが故に、「再発行できない」ことが課題として挙がることがある。何らかの手段で生体要素が不正にコピーされてしまった際に、再発行ができないと、その運用自体が難しくなるといった意見だ。
生体要素の認証精度を懸念する声もある。生体認証はスキャンや照合アルゴリズムで100%の精度を実現することが難しく、正式なエンドユーザーからのアクセスを拒否したり、逆に不正なエンドユーザーの認証を通してしまったりする可能性がゼロではない。
それでも教育機関のIT活用では、運用方法の手軽さという点において、生体認証が最適な認証手段の1つだと私は考えている。生体認証は、IT活用に不慣れな教育機関でも非常に運用しやすいからだ。基本的に生体要素は、紛失したり忘れてしまったりすることを考慮しなくてよい。事故や手術などによる欠損の可能性は残るが、精密機械の故障と比べれば、頻度はそれほど高くない。
再発行ができないという課題は確かに残る。ただし生体認証で利用する生体要素は、主なものでも指紋、静脈、虹彩、顔など幾つもある。例えば指紋が使えないなら、静脈や虹彩を代替策として利用できる。むしろ再発行の手間が発生しないことで、運用の負荷軽減に貢献することにもなる。認証精度についても、教室内で学習者が利用するといった標準的な利用環境であれば、それほど高い精度が必要になる場面は多くないはずだ。
2要素認証
認証手段そのものではないが、より強固なセキュリティが必要な箇所には「2要素認証」を併用することで、より堅固なセキュリティを確保しやすくなる。前回で紹介した通り、2要素認証とは、ID/パスワードといった「知識要素」、トークンやICカードといった「所有要素」、指紋や虹彩といった「生体要素」などの認証要素から、2種類を併用する認証技術のことだ(図)。3種類以上の認証要素を併用する場合は「多要素認証」という。
外部からの攻撃に強いシステムを実現するには、次のような対策が必要だ。まず学習者の認証には可能な限り単純な認証要素を適用し、運用のしやすさを最優先にしておく。試験問題や成績などのプライバシー情報をはじめとする守るべき情報は、より強固なセキュリティ対策を実施したセキュアな環境に置く。その上で、その環境へのアクセスにはもう1つの認証要素による認証を付加する。
「使っている人が本人かどうかを確認する」――。その単純なことが、コンピュータやシステムを介すると非常に難しくなる。認証は非常に重要で、セキュリティ対策の要になることが理解できるはずだ。ただし認証に多くのコストや運用の手間を掛け過ぎると、肝心の教育がおざなりになってしまう可能性がある。教育機関のIT活用では、できるだけ単純で運用しやすい認証の仕組みが求められる。
運用のしやすさばかりを重視し、セキュリティ対策を軽視してしまうのも大きな問題であり、両者の両立が必要になる。非常に難しい課題だが、これをクリアできなければ、教育機関のIT活用が日常的なものとして浸透することが難しくなるだろう。
執筆者紹介
武田一城(たけだ・かずしろ) ラック
1974年生まれ。システムプラットフォーム、セキュリティ分野の業界構造や仕組みに詳しいマーケティングのスペシャリスト。次世代型ファイアウォール他、数多くの新事業の立ち上げを経験している。Web/雑誌他の各種媒体への執筆実績も多数あり。NPO法人の日本PostgreSQLユーザ会理事。日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)のワーキンググループや情報処理推進機構(IPA)の委員会活動に加え、各種シンポジウムや研究会、勉強会での講演など精力的に活動している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
学校が知りたいIT製品選定の勘所
IT製品の選定や活用に失敗しないために、教育機関が注意すべきポイントとは何か。基礎から解説する。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
「Microsoft 365のセキュリティ運用」に関するアンケート
-
3
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
4
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
5
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
6
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
7
IT製品の導入に関するアンケート「サーバ&ストレージ」編
-
8
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
9
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
10
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー