先駆者として伝えたいこと
リクルート流 深層学習でビジネス成果を得るための方法論(2/2 ページ)
これからディープラーニングに取り組む企業へ3つの提案
リクルートグループはディープラーニングの先進企業として成果を出しているが、運用を続ける中で見えてきた課題もある。今後ディープラーニングに取り組もうとする企業に向け、石川氏がアドバイスするのは次の3つだ。
まず1つ目は、良い教師データをいかに集めるか。最近では、少ない教師データでいかに精度の高いモデルを作るかが研究論文の主要テーマの一つになっているが、やはり教師データが用意できる方が成果を得やすいと石川氏は話す。しかも、きれいな教師データであること、つまり事前に人が精査した品質の高いデータがあることが機械学習では不可欠だという。
「リクルートの場合、人間が入稿前にチェックしているテキストや、プロのカメラマンが撮影した写真のように、扱いやすいきれいなデータが大量にあることがモデルの精度向上に貢献しました」と石川氏は語る。
2つ目のアドバイスは、R&D(研究開発)予算はできるだけ確保することだ。例えば高性能なGPU(画像処理プロセッサ)環境を予算の制約なく自由に使うことができれば、さまざまなトライアルが可能になる。単純に早く結果が分かることもあるが、条件の違う複数のモデルから最も優れているものを選ぶといったことも容易にできるようになる。人材育成やスキルの獲得が早くなる効果も見逃せない。
3つ目のアドバイスは、現場の理解を得ることだ。リクルートテクノロジーズにおいても、ディープラーニングを使った画像やテキスト解析は、トップからの指示で始めたわけではない。「既存のやり方の延長線では限界があるので、運用する現場と伴走しながら新しい仕組みを考える必要があります」と石川氏は訴える。トップの理解は必要だが、同時に現場へ提案し、かつ実際に運用する中でのフィードバックも不可欠だ。
まずは小さく始めて実際に動くものを作る
現実的には、特にプロジェクトの初期において、必要なリソースが確保できないこともあるだろう。ここをどうすれば乗り切ることができるのか。石川氏は、最初は自分でコントロールできる範囲内のところから始めてみることを推奨する。具体的には、データの候補がそろっている領域か、ビジネス課題が明確な領域のどちらかだ。
データ解析においては、よくいわれているように、モデリングやチューニングよりもデータセットの準備をはじめとする前処理に最も工数を要することが多い。使えるデータが最初からそろっていれば、前処理の工数が少なくなる分、モデルの精度を早く上げることができる。もしくは、難しくても成果を出さなければいけないビジネス課題に絞るやり方でもいい。ディープラーニングは手段の一つにすぎないので、別の技術が適切と分かれば、そちらを選ぶのももちろんありだ。
いずれにせよ、「施策導入を見据えて実際に動くものを用意して、現場に提示することが重要」と石川氏は話す。ホットペッパービューティーの場合も、現場の担当者にネイル画像を使ったデモプログラムを見せ、行けそうだと判断してから、予算と人を確保したのだという。
単に担当者へ「やりたいこと」のご用聞きをするだけでは、要求を明確にすることは難しい。その点、実際に動くものを早期に見せることで、相手も意見を言いやすくなり、建設的な改善のヒントが得られる。
現場に見せるデモは、完璧なものである必要はない。あくまでも改善課題を引き出すためのものと割り切り、作っては修正を繰り返すサイクルをできるだけ早く回すことを石川氏は提案する。
最大の危惧はAIに失望されてしまうこと
リクルートテクノロジーズは2017年3月から、機械学習のAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)群「A3RT(アート)」を無料公開している。A3RT自体を事業化しようというのではなく、先駆者として培ってきた知見を広く公開することで、他社においてもこの分野をビジネスに積極的に取り入れる流れを作りたいという思いがあるからだ。もちろん、「外部からデータや知見、フィードバックを得ることも重要」と石川氏は述べる。自分たちにも外部にもメリットがあるエコシステムの形成を重視しているのだ。
人工知能(AI)技術や機械学習のブームは現在やや過熱気味だ。この分野に関心が高まること自体は歓迎すべきことだが、うまく効果が出ないままブームが終わってしまうのは今後の発展の障害になる。AIバブルがはじけ、人材が採用できなくなったり、優れたサービスが出てこなくなったりしてしまえば、開発者だけでなくエンドユーザーにとってもマイナスにしかならない。
最悪のシナリオを回避し、この領域が中長期的にさらなる発展を遂げるため、リクルートテクノロジーズでは今後も成功事例を積極的に発信し続けていく。
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