利便性とセキュリティのどちらを取るか
病院がサイバー攻撃を受けると心臓発作患者の死亡率が結果的に増加の可能性
バンダービルド大学の調査では、データ侵害に対する病院の対処と心臓発作患者の死亡率の間に関連性がある可能性を示唆している。
サイバー攻撃によって病院のネットワークが侵害されると患者の生死に関わる可能性がある。輸液ポンプやペースメーカーのような、患者の命を救う医療機器にハッカーが侵入すると、さらに多くの患者が命を落としかねない。
最近の報道で、データ侵害と年間2000人以上の患者の死亡に明白なつながりがあると報道された。だがこの報道は、患者ケアの品質に関するバンダービルト大学の研究での実際の発表内容を誤って解釈したものだった。
バンダービルド大学オーウェン経営大学院のソン・チェ氏と、同大学院の学部長を務めるM・エリック・ジョンソン氏がレポート「Do Hospital Data Breaches Reduce Patient Care Quality?」(病院のデータ侵害によって患者ケアの質は低下するか)を発表した。ジョンソン氏によると、このレポートの調査結果は、両者の因果関係を示すものではなく、統計的言語モデルに基づいて関連性を示すものだという。
併せて読みたいお薦め記事
医療現場における、セキュリティと利便性のトレードオフ
医療現場のセキュリティは今
心臓発作患者の死亡率に影響は
その調査結果が具体的に示しているのは、入院30日以内に死亡した心臓発作患者数だ。レポートによると、病院がデータ侵害を受けた場合、1年後と2年後に心臓発作患者の死亡率が増加したという。「各病院の実際の患者数から推定すると、年間2160人の患者が命を落とす恐れがある」とジョンソン氏は述べる。
「データ侵害による影響だ」という見解
データ侵害そのものが死を招いているとは考えにくい。どちらかといえば、原因は病院のセキュリティ対策手段にあるのかもしれない。「データ侵害と(その結果としての)改善努力に影響を受けている。例えば、新しいセキュリティ管理システムの導入、新しいシステムのインストール、パスワードの複雑さの増加、ダウンしたサーバからデータをすぐに利用できないことなどが挙げられる」とジョンソン氏は話す。
「データ侵害を受けた病院が実施している変更内容を具体的には指摘できない。言えるのは、(心臓発作の)死亡率に影響する変更、あるいはそれに関係する何かが2~3年の間に発生したということだけだ」(ジョンソン氏)
この調査は2017年5月に初めて公表された。調査はチェ氏によって範囲を広げて続けられ、教育機関や業界カンファレンスで発表されている。2012年から2016年までの間に3000以上の病院のデータが集められ、米国保健福祉省がこのデータを確認している。この間に305の病院がデータ侵害を受け、1400万人の患者の記録が漏えいしている。
「この調査は、医療提供プロセスに変更を加えることによって、良い結果も悪い結果も含めて予期しない結果がもたらされる可能性を示している。システムの利便性とプライバシーの間には必ずトレードオフがある」(ジョンソン氏)
病院のセキュリティを脅かし続けるサイバー攻撃
最も頻繁にサイバー攻撃の標的になっているのは、金融サービス企業ではなく、病院だ。これはForbesやAccentureの調査や、保険代理店、セキュリティ機関、医療機関へのアンケート調査で明らかになっている。ほとんどの場合、医療記録には社会保障番号が含まれている。これは盗まれたクレジットカード番号よりも高い値が付くといわれる。大半の医療システムの中には、従業員、レガシーシステム、セキュリティが確保されていないデスクトップ、モバイルデバイスが多数存在している。そのため、データ侵害が発生する機会は多くなる。
「私が訪れた病院には優れたコアインフラがなかった」と話すのは、医療機関Children's Mercy Kansas Cityで副院長を務め、CIO(最高情報責任者)とCDO(最高デジタル責任者)も兼任するデイビッド・チョウ氏だ。「収益を上げるために、コアインフラではなく、より高度なMRI装置に投資を行う傾向がある」とチョウ氏は述べる。
「病院のミッションクリティカルなサイバーセキュリティを確保することは、単にITの問題ではなく、患者ケアの問題と捉えるべきだ」とチョウ氏は話す。そうすると、責任者から個人ユーザーに至るまで、サイバーセキュリティ対策が必要になる。
「データ侵害が医療の質の低下につながる確率は100%だ。医療機器が攻撃を受けたら、誰かの命が失われかねない」(チョウ氏)
それでも予算などの理由で、病院のセキュリティシステムをすぐには変更できないことがある。「全てを慎重に実行する。特に電子健康記録(EHR)についてはそうだ。医療体制に悪影響を及ぼしたくない」とジョンソン氏は話す。
チョウ氏によれば、システムの利便性と多要素認証についての不満を抱いている医師は珍しくないという。ジョンソン氏は「利便性や実用性とプライバシーの間にはトレードオフがあり、これを慎重に管理する必要がある」と述べる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「Microsoft 365のセキュリティ運用」に関するアンケート
-
4
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
5
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
6
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
7
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
8
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
9
AIで人を減らした企業がもう心変わり 「AIブーメラン現象」の実態
-
10
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー