データセンター5拠点をAzureへ統合
なぜリーバイスは「Windows担当」部門を消したのか? DC5拠点閉鎖を支えた組織再編の正体
アパレルの老舗リーバイスは、世界5拠点のデータセンター閉鎖を進めている。その結果、23%のシステムを廃止し、組織の変革にこぎ着けた。従来の運用体制を根本から見直す取り組みの全貌を紹介する。
1853年に創業したアパレル企業Levi Strauss(以下、リーバイス)は、2026年6月までに自社のプライベートデータセンター5拠点を全て閉鎖し、Microsoft Azureへの全面移行を完了する計画を進めている。同社の取り組みは、単なるクラウド移行にとどまらず、従来の運用モデルの再定義やIT部門の役割の変化を内包するものだ。リーバイスは具体的に何をしたのか?
この取り組みは、2025年11月にMicrosoftが開催した年次イベント「Microsoft Ignite」で詳細が公開された。セッションのタイトルは「How Levi’s is transforming their IT estate with Azure」。同社のエンジニア3人が登壇した。
創業約170年の企業が進めたクラウド移行の中身
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リーバイスは、9つのオンプレミスERPをはじめとするレガシーシステムを長年運用してきた。さらに、米国とアジア、欧州に計5つのデータセンターを保有していた。これらに付随する課題として、ハードウェアの更新、ハイパーバイザーやファームウェアの保守、バックアップ運用などに多くの工数を割かれるという実態があった。こうした「事業価値を生まない運用負荷」を解消するため、同社はIT基盤をMicrosoft Azureへ集約し、ゼロトラストアーキテクチャを前提とした基盤の構築を目指すことにした。同社がこの議論を始めたのは2017~2018年の間だという。
目的は「成功」よりも学習
2021年、リーバイスは初めて移行するデータセンターとして、比較的小規模なシンガポールの拠点を選択した。同社によると、このタイミングの移行は、データセンターのハードウェアの更新時期と、アップグレードで発生する費用を踏まえた判断だったという。シンガポールの拠点を選んだのは、小規模な拠点からデータセンター移行を進め、移行のノウハウを獲得するためだ。この移行が成功したことを受け、2022~2025年の間に順次別のデータセンターの移行も進めることにした。
シンガポール拠点以外のデータセンター移行と並行して、リーバイスは9つのオンプレミスERPをMicrosoft Azureで統合する作業を開始した。その際、ミッションクリティカルなSAPやOracleの基幹アプリケーションは、単純に「リフト&シフト」の形式で移行するのではなく、移行前後で「ライトサイジング」を徹底した。具体的には、オンプレミス時代の過剰プロビジョニングを見直し、Microsoft Azureの最新CPUやPaaS(Platform as a Service)を活用することで、可用性とパフォーマンスの両立を実現した。
「組織の作り方そのものを変える必要があった」。リーバイスのマイケル・ウーマック氏(テクノロジーサービス部門バイスプレジデント)は、データセンター移行についてこう述べる。同社は大規模なデータセンターのMicrosoft Azure移行を進める一方、ネットワークの構成変更と「技術サイロ型の運用体制」の解消を進めた。
ネットワークについては、VPN中心の構成から脱却し、Microsoftの「Azure ExpressRoute」(専用の閉域網で複数のインフラ間を接続し、データを転送可能にするサービス)とSD-WAN(ソフトウェア定義型WAN)を組み合わせた高速かつ安定した接続を整備した。「ハブ&スポーク」(注)型の構成を採用し、ハブで全通信のセキュリティ検査を実施する設計としたのだ。スポーク間、さらにはアプリケーション間の横方向通信も明示的に制御することで、ゼロトラストの考え方をネットワークレベルで実装することができるようになった。
※注: 各拠点(スポーク)が通信する際に、本社やデータセンターなどのハブ(中心)に集約してから実施する構成。
また、従来リーバイスでは、Windows、Linux、ネットワーク、ストレージごとに部門が配置されていた。このような技術サイロ型の運用体制を見直し、仮想マシン(VM)、ロードバランサー、データベースまでを一気通貫で扱うクロスファンクショナルチームを構成することにした。その際、Infrastructure as Code(IaC)と業務のテンプレート化を進め、環境構築や設定変更の属人性を排除した。
2023年からリーバイスは、システム運用の高度化と最適化に取り組んでいる。クラウド移行で課題になりやすいコスト管理については、FinOps(クラウド利用とコストの最適化を目的とした管理手法)を経営レベルの取り組みに位置付けた。インフラ費用は各部署の負担とし、サービスごとにオーナーと予算を設定した。月次のレビューに加え、利用状況の変化をAIで検知する仕組みを導入することで、想定外のコスト増を防いでいるという。その結果、利用頻度の低いシステムや不要な環境を整理することができ、システム全体の23%を廃止することができたという。さらに、サードパーティー製のFinOpsツールの利用をやめ、FinOps専門のエンジニアを雇用している。
リーバイスは、Microsoft Azureの「リージョンペア」を活用し災害復旧(DR)体制の構築も進めている。リージョンペアは、同地域内で300マイル以上離れた2つのリージョンをペアリングする仕組みだ。これにより、災害の発生などで1つのリージョンが稼働できなくなった場合にもう一方のリージョンを稼働させることでダウンタイムを防ぐことができる。
リーバイスの取り組みは、単なるクラウド移行の事例ではない。インフラ、セキュリティ、コスト管理、組織体制までを含めて再設計し、ITを“維持する対象”から“競争力を生む基盤”へと転換した点に示唆がある。
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