ツール費用は“推進室持ち”
高性能でもなぜか敬遠される…… キヤノンITSの「Amazon Q Developer」普及策
生成AIは強力だが、利用費用の負担や操作への戸惑いから、現場の開発者に敬遠されるケースが後を絶たない。キヤノンITソリューションズはこの障壁をどう突破し、「Amazon Q Developer」を全社に普及させたのか。
システムインテグレーター(SIer)が競争力を維持する上で、生成AIの活用は不可欠だ。しかし、ツールを導入しても現場への定着が進まないという問題は、企業に共通する課題になっている。
キヤノンITソリューションズ(以下、キヤノンITS)は、全社的な生成AIの利用を推進するため、AIコーディングツール「Amazon Q Developer」を採用した。費用面での予測のしやすさに加え、既存のAmazon Web Services(AWS)インフラでアカウント管理が完結できる運用性、生成能力の高さなどが選定の決め手となった。
導入に当たり、キヤノンITSは生成AIビジネス推進室を中心とした推進体制を構築した。3カ月間の業務適用検証には57人の技術者が参加し、実際の業務において効果を測定した。その結果、参加者全体で累計数千行のコードが生成され、開発スピードは約3倍に向上、工数は67%削減されるという明確な定量効果を創出した。
単なるツール導入にとどまらず、現場の技術者を巻き込み劇的な生産性向上をもたらした「AI駆動開発の仕組みづくり」の詳細に迫る。
予算の壁と現場の不安をどう解消する?
併せて読みたいお薦め記事
社内にAIツールをどう根付かせるか
キヤノンITSが成果を上げた背景には、ツールを利用してもらうための入念なオペレーション整備がある。事業部門での予算制限によって積極的な利用が控えられる懸念があったため、検証期間中は生成AIビジネス推進室が利用費を負担した。経営トップである社長からの直接の支援と声掛けを実施し、全社的な取り組みとしての重要性を明確にした。
技術的な不安を払拭するための学習支援も手厚い。「Microsoft Teams」に「生成AI交流広場」を開設して活発な情報交換を促すとともに、定期的なオフィスアワーや実践的なハンズオン研修を提供した。この一連の取り組みを単発のイベントで終わらせず、年間ロードマップに基づいた継続的な施策として展開したことが、高い参加継続率(95%)につながっている。
実際のプロジェクトにおいても、生産性向上の効果が実証されている。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)のバズ検出システムを開発するケースでは、SNSが提供するAPIや可視化技術といった担当エンジニアにとって未経験の技術要素が含まれていたが、Amazon Q Developerを活用することで技術習得が加速した。通常であれば2週間かかる作業が3日で完了し、工数も10人日が3人日に短縮され、低予算での迅速なプロトタイプ開発に成功している。
インフラ構築の領域では、インフラのコード化(IaC)における品質確保の課題を解決した。アーキテクチャ図やパラメーター設計を基に、IaCツール「Terraform」用のコードを自動生成し、AIツールによるレビュー支援を組み合わせることで、エラーの早期発見と修正の効率化を実現した。その結果、人は課題抽出やロジック検討といった、より上位の設計業務に集中できるようになったという。
システム開発の構造自体を変革する試みも進んでいる。小規模なツール開発においては、仕様書を起点としてAIツールにタスク分解や設計を委ねる「仕様駆動開発」の手法が実践された。AIエージェント実行環境および運用管理ツール「Amazon Bedrock AgentCore」を活用した開発環境の構築事例では、AIツールを「正解を出す存在」ではなく「協働する相棒」として運用する体制を確立し、アプリケーションの実装からテストの大部分を自動化している。
キヤノンITSは今後の展望として、本検証で得られた知見を社内で共有し、生成AIを活用できるプロジェクトの範囲をさらに拡大する方針を示している。今後はAWS社と連携しながら新機能の検証などを進め、現場の開発体験の改善と顧客への提供価値向上に向けた取り組みを継続する構えだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
TechTarget ニュースプラス
国内のIT業界ニュースを迅速に報道します。企業動向から導入事例、市場トレンドまで幅広く取り上げ、実務に直結する情報をタイムリーに提供する連載です。
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
-
4
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
5
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
6
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
7
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
8
BMWも導入 78兆円市場に化ける「フィジカルAI」の衝撃
-
9
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
10
「AI活用を前提とした業務PCへの移行」に関するアンケート
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー