「AI導入を急ぐな」 JPMorganのCEOが警告する“社内暴動”級の組織崩壊リスク“無謀なDX”への警告

企業が「AIで業務効率化、人員削減」を推し進めている中、JPMorgan ChaseのCEOは「AI導入の減速」を提言する。IT部門が直面する“無謀なプロジェクト”を食い止め、経営リスクを回避するための措置とは。

2026年02月10日 05時00分 公開

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 2026年、企業におけるAI(人工知能)技術の活用は「実証実験」のフェーズを終え、「人員整理」「費用削減」の直接的な手段として使われ始めている。経営陣は「競合に遅れるな」と現場を急かすが、現場は悲鳴を上げているのが実情だ。

 そうした中、金融持ち株会社JPMorgan ChaseのCEOジェイミー・ダイモン氏が「AIファースト」の潮流に一石を投じた。2026年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に登壇したダイモン氏は、AI技術が「より生産性の高い社会を実現し、がん治療などの分野にも貢献する」可能性を認めつつも、導入のペースを落とすべきだと主張した。

「現実から目を背けるな」 ダイモン氏が語る“不都合な真実”

 「現実から目を背けてはならない。AI技術の進化は止まらないし、それによって雇用は失われ、仕事の内容も変わる。これは変えられない事実だ」とダイモン氏は語った上で、次のように述べた。「しかし、変化のスピードに社会がついていけなくなってしまえば問題だ。政府と企業が協力して介入し、人々のリスキリング(再教育)や、段階的な人材の再配置を進めなければならない」

 ダイモン氏は、米国の物流を支える約200万人の商用トラック運転手を例に挙げた。AI技術を用いた自動運転車が一度に普及すれば、彼らは年収15万(約2300万円)ドルの職を失い、次は年収2万5000ドルの仕事に就かざるを得なくなる可能性がある。「これを一夜にして行えば、間違いなく社会不安が起きる。だからこそ、段階的な導入が必要だ」と同氏は強調する。

 JPMorgan Chase自身もAI技術の活用によって、2031年ごろまでに従業員数が減少する可能性があることを認めている。その上でダイモン氏は政府に対し、技術によって職を追われる労働者を支援するためのリスキリング、所得支援、配置転換プログラムなどを今すぐ計画するよう求めた。企業がAI技術の導入速度を緩め、所得支援を確実に提供するための新たなインセンティブ(動機付け)を政府が策定する必要があるとも付け加えた。

 「工場が閉鎖されれば、町ごとその影響を受ける。社会を守るために、所得補償や移住支援、早期退職制度、リスキリングといった全ての施策を実行しなければならない事態は起こり得る」(ダイモン氏)

 インタビューを実施した経済誌『The Economist』の編集長ザニー・ミントン・ベドーズ氏は、グローバル化で職を失った人々への救済策である米国の貿易調整支援制度(TAA:Trade Adjustment Assistance)が「信じられないほど効果が薄かった」と指摘した。ダイモン氏もこれに同意し、「過去の失敗を教訓に、今度こそ機能する仕組みを作らなければならない」と応じた。

競争力の維持と雇用のジレンマ

 JPMorgan Chaseは、これまでに各事業部門で約500件のAI技術活用例を生み出している。「AI技術のメリットは明らかだが、技術の進化はビジネスの在り方を根本から変える可能性もある」とダイモン氏は指摘する。

 「次のステップとして、高度なタスクを自律的にこなすAIエージェントが実用化されれば、業務の処理速度や、サービスの利用体験は一変する」とダイモン氏は予測する。特に近年台頭してきたFinTech(金融とITの融合)企業に対抗し、金融業界で生き残るためにも、AI技術の活用は避けて通れない。

 ダイモン氏は次のように語った。「現実を直視しなければ敗北する。30年前もそうだったが、2026年の今日ではその真実味が増している。金融分野への人材と資金の流入はすさまじい。迅速に動かなければ、われわれはすぐに負けてしまうだろう」

IT業界で始まった人員削減

 雇用の喪失はすでにIT業界で始まっている。世界中の企業がAIツールにますます投資する一方で、人員削減を進めている。例えば2025年10月、Amazonは1万4000人の従業員解雇に踏み切った。この決定は、同社のAI分野に対する集中的な投資が要因になっている。

 英国労働組合会議(TUC)は2025年8月、AI技術を重視した経済成長が労働者を置き去りにしていると警告する報告書を発表した。職場でのAI技術導入が進む今こそ、労使交渉(団体交渉)の重要性が増しているという。

 TUCの報告書は、一部の経営者が事業拡大やイノベーションではなく、単なる費用削減や業務自動化のためにAI技術を利用する可能性がある懸念を指摘している。そうなれば、労働者のスキル向上や業務拡張の機会は失われ、人が排除されるだけになることをTUCは危惧している。

 報告書は、機械がより多くのタスクをこなし、熟練労働者の需要が減れば、労働者が生産性向上による利益の正当な分配を要求する力は弱まると分析する。その結果、余剰利益はますます経営者やAI関連企業に独占されることになるという見解だ。

政治的介入の必要性

 2023年11月、英国のシンクタンクAutonomyは、大規模言語モデル(LLM)を用いた業務の自動化についての提言を公開した。LLMによって給与や生産性を維持したまま労働時間を大幅に短縮できる可能性があるものの、そのためには政治的な介入が不可欠だという。

 生産性向上の恩恵は、放っておけば経営者と従業員の間で公平に分配されない。その理由としてAutonomyは、地理的条件や経済サイクル、労使交渉の有無といった要因に左右されることを挙げる。

 労働者と経営者の双方がAI技術のメリットを享受するため、Autonomyは「自動化ハブ」の設立を推奨する。これは労働組合と各産業の業界団体の合意に基づき、公平な形でLLMの導入を進めるための拠点になるものだ。

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