AI活用の成否を分けるのは管理体制
AIガバナンスの崩壊を防げ 情シスが学ぶべき成功企業の共通点
IBMは、世界33地域・19業種のテクノロジー責任者2000人を対象とした調査結果を公表した。AI導入を加速させながら管理体制の整備が追い付かない企業がある一方、成果を上げる企業にはある特徴があることが分かった。
生成AIやAIエージェントの導入が広がる中、多くの企業では「AIを導入するか」という議論から、「AIをどう管理するか」という新たな課題へと焦点が移りつつある。しかし、その変化に最も苦しんでいるのはCIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)かもしれない。
IBM Institute for Business Valueが世界33地域、19業種のテクノロジー責任者2000人を対象に実施した調査によると、回答者の約3分の2が「自分が完全には制御できていないAIシステムの責任を負っている」と答えた。
CEOからは「AI活用をさらに加速せよ」という指示が出される一方、現場ではIT部門の把握を上回るスピードでAIサービスやAIエージェントの利用が進んでいる。その結果、従来のガバナンス体制では管理し切れない「AI管理ギャップ」が生まれている。
では、この状況でもAI活用を拡大しながら成果を上げている企業は何が違うのだろうか。
AI活用を拡大しながら成果を上げている企業は“これをしている”
調査では、回答者の70%が「事業部門はIT部門が追跡できるよりも速いスピードで新しいテクノロジーを導入している」と回答した。
これまで企業システムは、IT部門が導入や運用を一元的に管理することが一般的だった。しかし現在は、各部門が生成AIサービスやAIエージェントを独自に利用し始めており、IT部門がその存在や利用実態を十分に把握できていないケースが増えている。
その結果、CIOやCTOは「管理できないシステムの責任だけを負う」という難しい立場に置かれている。
IBMのCIOであるマット・ライツソン氏は、「課題はAIをより速く導入することではない。AIを制御しながら拡大できるよう、組織やアーキテクチャを再設計することだ」と指摘している。
CIO、CTOが直面する「AI管理ギャップ」
AIエージェントの活用は今後さらに拡大すると見込まれている。調査では、2027年までに企業が運用するAIエージェント数は平均38%増加すると予測された。また、80%の企業ではCEO主導でAI変革が進められているという。
一方で、「今後1年間で想定されるAIエージェントの大規模展開に十分対応できる」と回答した企業はわずか11%にとどまった。
さらに77%は、「AI導入のスピードが現在のガバナンス能力を既に上回っている」と回答している。
つまり、多くの企業ではAI導入の意思決定だけが先行し、それを管理・統制する仕組みづくりが追い付いていないのである。
問題はAIそのものではなく「AIを管理する仕組み」
AIエージェントは、人間の指示を受けて自律的に判断し、複数のシステムやツールを操作する。そのため、従来のアプリケーション以上に運用管理や権限管理が重要になる。
調査によると、回答企業は前年に平均54件のAIエージェント関連インシデントを経験していた。そのうち17%は重大なインシデントで、封じ込めまでに4時間以上を要している。
重大インシデントの内容を見ると、37%はデータ漏えいやセキュリティ侵害、33%はシステム障害の連鎖、17%はコンプライアンス違反につながっていた。
また、59%は「セキュリティとコンプライアンス」がAIエージェント拡大の最大の障壁だと回答した。
AIの性能向上だけを追い求めても、制御する仕組みがなければリスクも同時に拡大することが分かる。
うまくいく企業は「ガバナンスを後付けしない」
一方で、AI活用で成果を上げている企業には明確な共通点があった。
それは、AI導入後に人手でガバナンスを追加するのではなく、AIシステムそのものに制御や可視化の仕組みを最初から組み込んでいることである。言い換えれば、「ガバナンスを設計段階から組み込む」という考え方だ。
IBMの分析によれば、このような企業は、手動でAIエージェントを管理している企業と比較して、
- AIエージェントを16倍多く展開している
- AI関連インシデントの発生件数が25%少ない
- 営業利益率が18%高い
- AI関連予算の消費は4分の1に抑えられている
という結果になった。
さらに、AI投資を継続的に管理できる企業は、AI・IT予算を増やさなくても2.4倍多くのAIエージェントを展開していた。
AI活用に成功する企業は、単純にAIへ多額の投資をしている企業ではない。AIを制御しながら拡大できる仕組みを構築している企業なのである。
「ベンダーロックインしない設計」が投資効果を高める
調査では、成果を上げる企業にはもう1つの特徴があった。
それは、特定のAIモデルやクラウド環境へ過度に依存しないアーキテクチャを採用していることである。
AIモデルを必要に応じて差し替えられ、ワークロードも別の実行環境へ移行しやすい柔軟な設計を早い段階から採用していた企業は、2025年のAI投資対効果(ROI)が10%高かった。
AI分野は技術革新のスピードが極めて速く、数年後にどのモデルやサービスが主流になるかは誰にも分からない。そのため、現在の特定ベンダーへ強く依存するよりも、将来状況が変われば容易に別のモデルへ切り替えられる構成の方が有利だという考え方である。
情シスに求められるのは「AIを止めること」ではない
今回の調査から見えてくるのは、AIガバナンスとはAI利用を制限する仕組みではなく、AIを安全に拡大するための基盤だということである。
現場はAIを使いたい。一方、IT部門はセキュリティやコンプライアンス、コストを管理しなければならない。この対立を解消するには、「AIを禁止するか、許可するか」という発想では不十分だ。
重要なのは、どの部門が、どのAIを、どのような権限で利用し、どのような成果やリスクが発生しているのかを継続的に可視化し、必要に応じて柔軟に制御できる仕組みを設計することである。
AI時代のCIOやCTOに求められる役割は、AI導入を推進することだけでも、利用を制限することだけでもない。AIが組織全体へ広がることを前提に、「制御と可視化を設計段階から組み込む」ことこそが、企業の競争力を左右する新たなガバナンスになりつつある。
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