ROIを証明できると答えた企業はわずか6%
生成AIで成果が出ない企業が甘く見ていた「4つの課題」
Atlassian Teamwork Labの調査によると、AIを活用して持続的な成果を上げていない部門には共通する「4つの課題」が、成果を挙げている部門には施策の「3つの柱」があった。
「生成AIやAIエージェントの導入が、生産性の向上や成果創出につながる」と期待しながら、想定したほどの成果を得られていない企業が少なくないことが調査から明らかになった。
プロジェクトマネジメントツール「Jira Software」を展開するAtlassianの「Atlassian Teamwork Lab」が実施した調査によると、経営幹部の89%が「AIによって作業スピードが向上した」と回答した一方、「AI投資のROI(投資対効果)を明確に証明できる」と答えたのはわずか6%だった。同調査は、6カ国1万2035人のナレッジワーカーとFortune 1000企業の経営幹部を対象に実施したものだ。
調査結果から浮かび上がったのは、「AIそのものをどうするか」ではなく、「AIを活用するための組織や基盤に課題がある」という現実だった。本稿では、情報システム部門(情シス)が見過ごせない4つの課題と、取り組むべきポイントを整理する。
情シスが向き合うべき4つの課題と「できる」チームがやっている施策は
1.AI導入より先に解決すべきは「データ負債」
調査では、回答者の69%が「自社のデータおよびナレッジ基盤はAI向けに最適化されていない」と回答した。
企業では、ファイルサーバやSharePoint、Wiki、チャット、メール、過去のドキュメントなどに情報が散在している。重複データや古い文書、管理者不明の資料も少なくない。この状態でRAG(Retrieval-Augmented Generation)やAIエージェントを導入しても、AIは品質の低いデータを参照し、不正確な回答やハルシネーションを引き起こす可能性がある。
情シス向けポイント
「どのAIを導入するか」よりも、「AIが参照するデータをどのように整理するか」が重要になる。データクレンジングや文書管理、ナレッジベースの整備は、AI時代のIT基盤整備そのものになりつつある。
2.「AIライセンスを配って終わり」でAI導入は迷い道に
調査では、ナレッジワーカーの85%がAIを利用している一方、「日常のワークフローに実際に組み込んでいる」と答えたのは29%、「AIをチームメイトとして活用できている」と答えたのは15%にとどまった。
一見するとAIの利用率は高い。しかし、この結果からは、「試しに使ってみた」レベルの利用者が多く、本来の業務プロセスには十分組み込まれていない実態がうかがえる。
情シス向けポイント
全従業員へライセンスを配布しただけでは、AIは「高価な検索ツール」で終わりかねない。ライセンスの死蔵を防ぐためには、プロンプト教育や業務テンプレートの整備、既存システムとの連携、現場への伴走支援まで含めた運用設計が欠かせない。
3.経営層から問われる「で、効果は?」に答えられない
AI投資が拡大する中、情シスが今後直面する可能性が高いのがROIの説明責任である。
調査では、「AI投資のROIを明確に示せると確信している」と答えた経営幹部は6%しかおらず、58%は「ROIの測定方法が分からない」と回答した。
情シス向けポイント
AI導入時には、「どれだけ生産性が向上するのか」という質問が必ず投げかけられる。しかし、多くの企業では利用率やアクセス数は把握していても、「売り上げ向上」「工数削減」「品質改善」といった事業成果との結び付きまでは測定できていない。
AIの利用状況を可視化するだけでなく、「どの業務がどれだけ改善されたのか」を示す指標を設計することが重要だ。ROIを測定する仕組みがなければ、翌年度のAI関連予算の確保が難しくなる可能性もある。
4.AI導入で広がる「チーム間のパフォーマンス格差」
調査では、経営幹部の55%が「AIによってチーム間のパフォーマンス格差が拡大した」と回答した。
AIを利用しているナレッジワーカーは85%に達しているものの、日常業務へ十分に組み込み、AIを「チームメイト」として活用できている人は15%にすぎない。つまり、「AIを導入した企業」と「導入していない企業」の差ではなく、「同じ企業の中でAIを使いこなせるチームとそうでないチーム」の差が広がっている可能性がある。
情シス向けポイント
AI活用の格差は、ツールを導入するだけでは解消しない。成功事例の共有やプロンプトの標準化、部門横断で利用できるテンプレートの整備、継続的な教育などを通じて、組織全体でAI活用のレベルを底上げすることが重要になる。
また、人間とAIエージェントが同じ情報を利用できる信頼性の高いナレッジ基盤や、AIを前提としたワークフローを整備することも、チーム間の格差を縮小するための重要な取り組みとなる。
成果を出す企業は何が違うのか トップチームが実践する「3つの柱」
では、AIを活用して持続的な成果を上げている企業は何が違うのだろうか。
調査によると、高い成果を上げるトップチームは、「コンテキスト」「ワークフロー」「文化」を軸に以下の施策を実践している。
1.コンテキスト――人間とAIが同じ情報を共有する
Atlassian Teamwork Labによると、AIを活用して持続的な成果を上げている「トップチーム」は、チーム間で明確なゴールを共有するとともに、人間とAIエージェントの双方がアクセスできる信頼性の高いナレッジ基盤を構築している。
こうした取り組みを実践しているトップチームでは、目標の認識違いや優先順位のずれが生じる割合が、他のチームと比べて約12分の1だった。
これは、人間向けのポータルサイトを整備するだけでは十分ではなく、AIも正確に理解・参照できるデータ構造やナレッジ基盤を整えることが重要であることを示している。
2.ワークフロー――AIを追加するのではなく、業務を再設計する
調査によると、トップチームでは人間とAIエージェントの役割を明確に分担し、チーム横断で作業フローを設計している。こうしたチームではAI活用の整合性が他のチームと比べて約13倍高かった。
この結果が示すのは、AIを既存業務へ部分的に追加するだけでは効果は限定的になり得るということだ。AIとの協働を前提として業務プロセス全体を見直すことが重要になる。
3.文化――継続的な学習が成果を左右する
トップチームでは、継続的な学習や実験を奨励し、人間とAIの協働を推進する組織文化を醸成している。その結果、AIを単なるツールではなく「チームメイト」として活用できる可能性が2.3倍高かった。
AI時代の情シスは「個人最適」ではなく「チーム最適」を設計する役割へ
Atlassian Teamwork Labは、AI戦略の焦点を「個人の生産性向上」から「チーム全体の連携品質向上」へ転換すべきだと提言している。その背景には、ナレッジワーカーの作業時間の80%が協働作業に費やされているという実態がある。
そのためには、人間とAIエージェントがアクセスできる共有コンテキストの整備、AIとの協働を前提としたワークフロー全体の再設計、そしてAI活用能力の格差を解消するための継続的な人材育成が欠かせない。
Atlassian Teamwork Labの調査は、2026年1月~2月米国、英国、オーストラリア、インド、ドイツ、フランスのナレッジワーカーと経営幹部を対象に実施された。この結果は、2026年6月10日に公開された。
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