「管理職は割に合わない」7割超が実感
ITエンジニアが管理職を引き受ける条件、最多は「年収100万~200万円増」
キッカケクリエイションの調査によると、25~39歳の非管理職ITエンジニアにおいて管理職を志望する割合は50.0%、志望しない割合は47.5%だった。離職率を下げ、満足度を高めるためには何をすればいいのか。
キッカケクリエイションが25~39歳の非管理職ITエンジニア428人を対象に実施した調査によると、「将来管理職になりたい」と考える人は50.0%だった一方、なりたくないと考える人は47.5%に上った。管理職志望と非志望がほぼ拮抗している状況だ。
調査対象はITエンジニアだが、この結果は情報システム(情シス)部門にとっても見逃せない。多くの情シス組織では、システム運用、セキュリティ対策、DX推進、ベンダー調整、社内問い合わせ対応など、プレイングマネジャーに多くの役割が集中しがちだ。若手・中堅人材が管理職を「割に合わない役割」と見なすようになれば、将来の情シス管理職候補の不足や、組織運営の属人化につながる可能性がある。
どの程度の報酬があれば管理職を引き受ける?
調査では、管理職を志望しないと答えた層に、管理職になりたくない理由を尋ねた。最も多かった回答は、「業務量や責任が増える割に報酬が見合わないから」で54.7%だった。次いで「上司と部下の板挟みになるストレスが大きいから」が44.8%、「残業代がつかなくなるなど実質的な手取りが減る可能性があるから」が29.1%だった。
この結果から見えるのは、管理職が「成長機会」や「権限拡大」ではなく、「負担増」として捉えられている実態だ。特にIT組織では、管理職になっても技術的な判断、トラブル対応、メンバー育成、予算管理、経営層への説明などを同時に求められることがある。
情シス部門ではこの傾向がさらに強まりやすい。システム障害やセキュリティインシデントが起きれば責任を問われ、平時にはコスト削減やDX推進の成果を求められる。にもかかわらず、報酬や権限が十分に伴わなければ、若手・中堅が管理職を避けるのは自然な反応だ。
7割超が「管理職は割に合わない」という空気を実感
管理職に対するネガティブなイメージは、個人の感覚にとどまらない。調査では、勤務先で管理職に対して「割に合わない」「なりたくない」といったネガティブなイメージが広がっていると感じるかを尋ねた。
その結果、「非常にそう感じる」が22.2%、「ややそう感じる」が50.0%となり、合計72.2%が管理職へのネガティブイメージの広がりを実感していた。
管理職本人が疲弊している姿を見れば、次の世代はその役割を避けるようになる。特に情シスでは、管理職が常にトラブル対応や調整業務に追われ、「忙しそうだが報われていない」ように見えると、後進の育成にも影響する。
管理職離れは、個人のキャリア志向の問題ではなく、組織が管理職という役割をどのように設計しているかを映す鏡でもある。
給与以外で重視するのは「柔軟な働き方」と「心理的安全性」
回答者が給与以外に重視することとして最も多かったのは、「柔軟な勤務時間や働く場所の自由度」で51.4%だった。次いで「心理的安全性のある職場環境」が40.9%、「技術的にチャレンジングな仕事への関与」が24.1%だった。
管理職になった場合、テレワークやフレックスタイムといった柔軟な働き方を選びにくくなるのではないか。部下や他部門との調整が増え、自分の裁量で働く余地が小さくなるのではないか。そうした印象が強ければ、若手・中堅エンジニアは昇進を魅力的に思いにくくなる可能性がある。
情シスでも、管理職になるほど会議や調整、承認、稟議対応が増え、技術に触れる時間が減るケースは少なくない。柔軟な働き方や心理的安全性を維持したまま管理職を担える環境を整えなければ、管理職候補は増えにくい。
「昇進」より「副業・複業」に魅力を感じる人が65.5%
キャリア観にも変化が表れている。調査では、「1社での昇進・昇格」よりも「副業・複業などを通じて技術の幅を広げること」に魅力を感じるかを尋ねた。
その結果、「非常にそう思う」が15.7%、「ややそう思う」が49.8%で、合計65.5%が副業・複業によるキャリア形成に魅力を感じていた。
理由としては、「収入源を複数持つことで経済的に安定するから」が51.4%、「1つの会社に依存するリスクを分散したいから」が50.4%だった。「自分の技術力を複数の領域で証明し、市場価値を高めたいから」も28.9%に上った。
これは、IT人材が会社内の昇進だけをキャリア形成の軸にしなくなっていることを示している。1社に依存せず、複数の仕事や技術領域を組み合わせて自分の市場価値を高める。こうした考え方が広がれば、企業は「昇進すれば人材を引き留められる」という前提を見直す必要がある。
管理職を引き受ける条件は「年収100万~200万円増」が最多
では、どの程度の報酬があれば管理職を引き受けてもよいと考えるのか。
現在の年収に加えてどの程度上がれば管理職を引き受けてもよいかを尋ねたところ、最も多かったのは「100万円以上200万円未満」で27.1%だった。「300万円以上」も19.6%に上った。一方で、「金額に関わらず管理職にはなりたくない」と回答した人も13.3%いた。
一定の報酬増があれば管理職を検討する人がいる一方で、報酬だけでは解決できない層も存在する。これは、管理職離れの原因が給与だけではなく、役割の重さ、働き方、技術キャリアから離れる不安、精神的負担などに広がっていることを示している。
管理職を魅力的にする条件は「働き方」「報酬」「専門職コース」
管理職のあり方がどのように変われば魅力を感じるかを尋ねたところ、最も多かったのは「管理職でも柔軟な働き方(リモートワーク・フレックス等)ができること」で38.1%だった。
次いで「業務量や責任に見合った報酬体系への見直し」が34.6%、「管理職にならなくても昇給・昇格できるスペシャリストコースの整備」が30.8%だった。「管理職の業務範囲や責任の明確化」は29.0%、「管理職でも一定の時間を技術業務に充てられる役割設計」は26.9%だった。
この結果は、管理職の魅力を高めるには単に手当を増やすだけでは不十分であることを示している。管理職の責任範囲を明確にすること、プレイングマネジャーに過度な負担を集中させないこと、管理職以外にも評価される専門職コースを用意することが求められる。
情シス部門にとっても、これは重要な論点だ。セキュリティ、クラウド、ネットワーク、データ基盤、AI活用など専門性の高い領域が増える中で、全員が管理職を目指すキャリア設計には限界がある。マネジメント職と専門職の両方を正当に評価する仕組みがなければ、優秀な技術人材ほど社外に機会を求める可能性がある。
管理職離れは「意欲の低下」ではなく「合理的な回避」
今回の調査から見えるのは、ITエンジニアの管理職離れが単なる意欲低下ではないということだ。管理職になることで責任や業務量は増えるが、報酬や裁量、働き方、キャリアの見通しが十分に伴わない。その結果、若手・中堅エンジニアが管理職を合理的に避けている。
情シス部門では、今後もDX推進、セキュリティ強化、AI活用、クラウド運用、ITガバナンスなど、管理職に求められる役割は増え続ける。だからこそ、管理職を「我慢して引き受ける役割」のままにしておくことは危険だ。
必要なのは、管理職を魅力的なキャリアの選択肢として再設計することだ。業務範囲と責任を明確にし、報酬を見直し、柔軟な働き方を維持し、管理職以外の専門職キャリアも整備する。こうした取り組みがなければ、次世代の情シスリーダーは育ちにくい。
管理職離れは、ITエンジニアだけの問題ではない。情シス組織が持続的に機能し、事業を支えるIT部門であり続けるためにも、いま向き合うべき組織課題である。
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