企業の43%がAIを理由に「若手採用の削減」へかじを切る中、IT組織の伝統的なピラミッド構造が崩壊しつつある。AIに定型業務を奪われる時代、維持すべき組織構造と、生き残るためのスキル戦略を詳解する。
AIは、大半の企業の採用パターンを塗り替えている。コンサルティング企業のOliver Wyman Forumとニューヨーク証券取引所が415人の最高経営責任者(CEO)を対象に実施した調査によると、企業の43%がジュニア職(若手ポスト)を削減していることが分かった。これは2025年の17%から大幅に上昇している。
全ての企業がこの方針を採っているわけではない。IBMは、米国でのエントリーレベル(新人)の採用を3倍に増やす計画だと報じられた。また、調査会社のGartnerは2028年以降、AIは消失する仕事よりも多くの仕事を創出するという予測を発表している。
長期的には雇用が増える可能性があるものの、現在は採用パターンやチーム構造が激変する過渡期にある。CIOは、AIが若手人材に対する企業の短期的・長期的な見方にどう影響するかを考えなければならない。ITキャリアの進化に伴い、チーム構造やイノベーションの在り方がどう変わるかを検討する必要がある。
AIは、ITキャリアへの従来の入り口を浸食しつつある。初期のキャリアにおいて学習の基盤となる反復的なタスクは、自動化の格好の標的だからだ。例えば、ITヘルプデスクの人員をAIに置き換えようとする動きは顕著である。CNBCによると、Palo Alto Networksは2024年、ITサポートチームを約半分に削減し、最終的には8割削減する計画だと報じられた。
ジュニアレベルのソフトウェア開発者の役割も、AIに取って代わられる可能性がある。「Claude Code」のようなツールは、経験豊富な開発者よりもはるかに速く、コード生成やドキュメント作成、テストを実行できるからだ。現在の開発者の多くは、自らコードを書く時間を減らし、AIエージェントに指示を出す役割にシフトしている。
企業が若手人材の代わりにAIを使い続ければ、組織構造は一変する。多数のエントリーレベルが少数のシニア層を支える「ピラミッド型」は、中間層が厚く土台が狭い「ダイヤモンド型」へ変容する可能性がある。PwCはこの構造を「少数のリーダー、強力な中間層、そして狭い若手層」と表現している。
一方で、中間管理職が減り、AIを使いこなす若手と高度なリーダー層に分かれる「アワーグラス(砂時計)型」や、人手による高付加価値業務とAI自動化ワークフローに二極化する「バーベル型」を予測する声もある。
IBMのように、部門横断的な専門知識を持つ「ポッド」を形成する企業も現れている。同社のテクノロジープラットフォーム担当CIO、マット・ライテソン氏は「特定のビジネス成果に集中し、柔軟に適応できる『フュージョンチーム』を編成した」と話す。こうしたチームは業務部門と直結し、AIエージェントの能力を最大限に引き出す役割を担う。
若手の採用を控える企業がある一方で、逆のアプローチに価値を見いだす企業もある。調査によると、AIの投資対効果(ROI)で先行している企業は、難航している企業よりも高い割合で若手を採用している。
キャリア初期の業務が自動化される中で、若手IT人材はどのような価値を提供できるのか。経理・決算業務に特化したクラウド型プラットフォームを提供するBlackLineのCIO、スミット・ジョハール氏は「最新の技術変革に最も近いのは、新鮮なアイデアを持つ卒業生だ」と断言する。
ジョハール氏によれば、若手には生成AI以前の古い経験がないことが、かえって武器になるのだという。「20年の経験を持つシニア層は、過去に学んだことを捨てる『アンラーニング』が難しく、変化で保守的になりやすい。若手の方が変化に柔軟だ」と同氏は指摘する。
若手の採用を極端に絞ることは、将来的なリスクもはらんでいる。Gartnerのディレクターアナリスト、ケリン・ロウマスター氏は「自社で人を育てなければ、人材育成を競合他社にアウトソーシングしているのと同じだ」と警鐘を鳴らす。社内の人材パイプラインが枯渇し、後継者不足に陥る恐れがある。
現在はIT分野の求職者にとって厳しい市場だ。レイオフの状況を追跡しているLayoffs.fyiによると、今年だけで160社以上のテック企業が11万6000件以上の技術職を削減した。CNNは、表向きは強い雇用市場に見えるにもかかわらず、多くの人にとって採用されることが大きな課題になっていると報じている。
こうした環境で、「はしご」に例えられてきた従来のITキャリアパス――下のポジションからスタートし、中堅や上級職へと上り詰めていく――が変わりつつある。はしごの下の方のポジションが完全になくなるわけではないが、そこに到達するための競争は激烈だ。また、いったんキャリアを積み始めると、求められるものも変わってくる。
IBMのライテソン氏は、数年前からIT職種の定義を見直し始めた。「単なるシステム管理者はもう採用しない。サイト・リライアビリティ・エンジニア(SRE)を採用する」と同氏は説明する。AIと協力してタスクをこなしつつ、システム全体の改善を提案できる能力が求められているのだ。
BlackLineのジョハール氏も、若手への期待値を引き上げている。同氏は「技術的なスキルはいずれコモディティ化する。誰でもAIエージェントを作れるようになるからだ。鍵となる差別化要因は、業務知識(ドメイン知識)になる」と予測する。
AIがワークフローに与える影響は、AIが生み出す価値よりも先行して進んでいる。「このギャップは今後2〜3年で埋まるだろう」とロウマスター氏は述べる。ギャップが縮まる中で、CIOは業界全体の採用・解雇動向を注視できる。しかし同時に、若手人材への自社のアプローチやITチームの構造についても考える必要がある。
現在は転職が難しいため離職率が低く見えるが、潜在的な不満は蓄積している。ロウマスター氏は「離職リスクが見えていないだけだ」と指摘する。新たな人材を入れない計画であれば、既存メンバーの離職による組織崩壊への備えが必要だ。
AIツールを使わせるには、将来の役割とキャリアパスの透明性を高めることが必要だ。自分の役割がAIに奪われるのではないかという不安を解消しなければならない。
若手とシニアをペアにする、あるいは若手の成果を経営陣に披露する「ショーケース」の場を設けることが有効だ。IBMでは、新人がAIコーディングエージェントをどう活用しているかをリーダーに実演する機会を設けている。
目先の効率を優先した人員削減は、長期的な人材不足を招く可能性がある。スキル開発の停滞や後継者不在といったリスクを考慮し、持続可能なチーム構造を構築することがCIOの重要な任務となる。
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