”離職率が高い”と言われる情シスの定着を進めるためには何をすればいいのか。本稿では、情シス担当者の離職要因と、定着率を改善している企業の特徴、AI時代に求められるスキルを整理する。
「また辞めてしまって引き継ぎも間に合っていない」「次の人を採用しても、またすぐに辞めるかもしれない」「そもそも何で辞めるのかよく分からない」――。
情報システム部門(情シス)の中には、こうした会話が繰り返されているところがある。情シス担当者の離職を、個人の忍耐力や適性ではなく、環境の改善で避けることはできないか。本稿は、情シス担当者を離職に導く要因と、定着を進めるために今すぐできる取り組みを紹介する。
離職が繰り返される背景には、情シス部門にひも付く内的要因と外的要因がある。
従来の情シスは社内システムの運用・保守が中心だった。しかし近年は、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、クラウドサービスの管理、セキュリティ対策、生成AI(人工知能)の活用検討と、業務の範囲は急速に広がりつつある。
一方、仕事の量と質は変わっても、組織の設計は変わっていない企業がある。ソフトクリエイトが2024年12月から2025年1月に実施した「情報システムの現状とITシステム活用実態アンケート2025」では、情シスが新たに取り組んでいることとして「DX推進」(48.7%)、「生成AI活用」(27.0%)が上位に挙がった。
「ITはとりあえず情シスに」という文化が根付いている企業では、あらゆる問い合わせが情シスに集まってくる。前例ができると、次からも同じ窓口に問い合わせが来るようになる。本来業務と付随業務の境界が曖昧なところであれば、業務処理の優先順位を付けることは難しくなりやすい。
ソフトクリエイトの調査によれば、情シスが最も時間を費やしている業務の1位は「問い合わせや障害対応」(26.7%)だった。問い合わせや障害対応に忙殺されていては、本来注力すべきコア業務に時間を割きにくくなる。
情シス部門の中には、障害が発生すれば責任を問われたり、システムが停止すれば夜間対応を迫られたりするところがある。一方、システム導入の最終決裁権や予算の権限がないという企業もある。
つまり、「求められる責任は大きいが、権限は小さい」という状態になりやすい。
経営層と現場の板挟みになりやすいのも情シスの特徴だ。「コストを削減したい」経営層と「業務効率のためにツールを導入したい」現場、「セキュリティを強化したい」経営層と、「制限を減らしてほしい」現場といった具合だ。この対立を調整する役割が情シスに集中しやすい。
情シスの仕事では「何も起きない状態」が理想だ。しかしシステムが安定稼働していることは、成果として認識されにくい。社内でもコストセンター(直接利益を生まない部門)として扱われてしまい、その結果予算の確保が難しくなる場合もある。
情シスに予算や人員を配分することの効果を経営層に説明できないと、情報システム部門は縮小方向へ向かいやすい。しかし情シスが縮小すれば、残った担当者の負担はさらに増える。この悪循環が、離職につながる要因の1つになっている。
DXや生成AIの活用に関心を持つ情シス担当者が増える一方、情シス部門には従来通りの運用保守を担ってほしいという企業の構図もある。「新しいことをやりたいのに、できる環境がない」という閉塞感が、転職への動機になる場合がある。
ソフトクリエイトの調査では、情シス担当者として新たに取り組んでいることの上位にDX推進や生成AI活用が入っていた。「情シス担当者の関心は高い一方、関心を受容できる環境が整っていない企業」と、「情シス担当者の関心を受容する環境が整っている企業」では、定着率に差がつくのは避けられない状況だ。
インターネットサービスプロバイダー(ISP)のIIJが2024年8月に実施した「全国情シス実態調査2024」(有効回答363件)では、情シス部門の課題の上位に「人材が足りない」「属人化している業務がある」など人員関連のテーマが並んだ。特定の担当者にしか分からない業務が積み上がると、担当者が辞めた瞬間に業務が止まるリスクが生まれる。引き継ぎが追い付かず、残った担当者への負担が増え、さらに離職を招くという連鎖が起きやすい。
IIJの調査では、今後強化すべきこととして「セキュリティ強化」が1位に挙がり、「社員のITリテラシー向上」と「情シス内の人材育成」が同数で続いた。取り組むべきことは認識されている。しかし、最も時間を費やしている業務の1位が「既存システムリプレース・検討支援」であることが示すように、日々の対応に追われる中で、人材育成やリテラシー向上への投資が後回しになりやすい構造ができやすい。「重要だと分かっているのに手が回らない」という状態が、組織の疲弊と担当者の閉塞感を同時に生み出している。
情シスは、AIやSaaS、クラウドなど、常に新たな情報や技術についてキャッチアップし続けないといけない状況に立たされている。しかも、新たな情報や技術を、“社内で最も理解している立場”であることを期待されてしまう場合もある。結果として、通常業務をこなしながら勉強を続けざるを得ない。
近年、ITエンジニアや情シス担当者の転職市場は拡大しつつある。現職で悩みを抱えている情シス担当者にとっては、「なぜこの企業で働き続けるのか」という疑問が生まれやすい状況だ。クラウドやAI(人工知能)に関わるスキルを持つ人材への需要は特に高く、待遇や環境への不満を持っている人にとっては転職の判断につながりやすい。
では、情シス人材が定着している企業にはどのような共通点があるのか。
定着している情シス部門に共通するのは、情シス担当者が担う業務とそうでない業務の境界が明確に設計されている点だ。ヘルプデスクのアウトソーシングや他部門への業務移管によって、情シス部門本来のコア業務に集中できる環境が整っている。
やらないことを決めることは、残る業務への集中度を高めるだけでなく、担当者が「自分は何をすべき人間か」を認識しやすくする効果もある。
生成AIや業務自動化の推進に情シス担当者が参画できる企業では、担当者の成長実感が生まれやすい。DX推進担当や社内AIエンジニアとしてのキャリアパスが見えることで、「この企業でキャリアを積む理由」が明確になる。
情シス担当者採用の難しさを背景に、育成にシフトしつつある動きは広がっている。それが定着につながるかどうかは、育てた先のキャリアを提示できるかどうかにかかっている。
情シス担当者が不足している企業では、担当者が休むことも、辞めることも、成長することも難しい。
そこで、複数人体制に移行したり、システムの信頼性をエンジニアリングで担保するアプローチであるSRE(サイト信頼性エンジニアリング)の考え方を取り入れたりするなど、情シス部門の組織設計そのものを見直すことで定着率を改善できる可能性がある。何を情シス部門で内製化し、何を外注し仕組み化するか、方向性を明確にし、情シス担当者が専門性を磨ける環境を作ることが人材の定着につながる。
AIと自動化の普及によって、情シスに求められる役割は「運用担当」から「業務とITをつなぐ存在」へと変わりつつある。単純な監視業務や定型的なトラブル対応は縮小し、「なぜこのシステムを選ぶのか」「業務とITをどう接続するか」を判断する役割の比重が高まっていく見通しだ。
つまり、運用保守の専門性だけでキャリアを構築しようとすると、情シス担当者としての市場価値と社内評価の両方は下がるリスクがある。この変化は脅威でもあるが、新しいキャリアに踏み出す起点にもなり得る。以下に、AI時代に具体的に求められる5つのスキルを紹介する。
経営層や現場に対してITの価値と必要性を言語化できること。障害ゼロの成果も、投資対効果も、伝えられなければ評価されない。
システムの話をする前に、その業務がなぜ存在し、どこに課題があるかを把握していなければ、経営層や現場に適切な提案はできない。情シスが現場の業務を知っているかどうかで、説得力は大きく変わる。
個別のトラブル対応ではなく、問題が起きにくい仕組みを作る力だ。ツールの選定から権限設計、運用フローの整備まで、問題が起きにくい構造を設計する視点が求められる。
情シスは経営層、現場、外部ベンダーの間に立ち、利害の異なる関係者を動かす役割を担う。技術の正しさだけでは物事は進まない。
着地点を描く力も重要だ。議論を収束させ、合意を形成し、実行に落とし込む。情シスが企業にとって不可欠な存在になれるかどうかは、最終的にこの力にかかっている。
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