JUAS専務理事に聞いた情シス”3つの資質”
情シス957社調査から分かった「守りから攻め」の課題とリーダーの資質
「守り」から「攻め」へとかじを切りつつある情報システム部門。同部門はどのような課題を抱え、リーダー層はどのような資質を持てばいいのか。JUASで専務理事を務める島 健夫氏に話を聞いた。
情報システム部門(情シス部門)にとって「最も苦しく、最も面白い」時代が到来している。物価高、円安、人件費高騰という不可避なコスト増加、深刻な人材不足など、課題だらけのIT領域。しかし「この30年で、今ほどITが経営を左右し、注目されている面白い時期はない」と話すのは、一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会(以下JUAS)で専務理事を務める島 健夫氏だ。
JUASは1994年度から「企業IT動向調査」を実施している。2026年2月に公開された「企業IT動向調査2026」(957社が回答)を基に、「現代のIT環境において、情シス部門のリーダーが直面する課題」と、「リーダーがこれから持つべき“3つの資質”」を島氏に聞いた。
数字が語る“情シス部門のリーダーが直面する課題”
IT予算は「守りから攻め」へ 投資評価は厳格化
2024年度調査「企業IT動向調査2025」によると、「既存事業のコスト削減」を最も重視していると答えた企業は全体の42.1%と半数に迫る状況にあったが、2025年度調査では36.1%と減少傾向に転じた。
一方、「新規事業や新たな事業領域への進出」は13.5%(前年11.3%)、「顧客サービス価値向上」は12.2%(前年8.6%)、「既存事業の収益力向上」は20.3%(前年17.1%)だった。この結果からは、多くの企業が、守りから攻めへのシフトチェンジを始めていることが読み取れる。
さらに、企業のIT予算を「増加する」と回答した割合から「減少する」割合を差し引いた指標である「IT予算DI値」は、2025年度に43.3と、2012年度以降で最高値を記録した。主な要因は「既存システム・基盤の刷新」(66.3%)、「円安・人件費高騰・ベンダー提供価格の値上げ」(46.6%)といった、企業努力だけではコントロールしにくいコストの増加だ。
企業IT動向調査では、過去数年間にわたり企業における「現行ビジネスの維持・運営」向け「ランザビジネス予算」と、「ビジネスの新しい施策展開」向けの「バリューアップ予算」の予算比率を調査している。2021年度から2025年度までの予算比率は、ランザビジネス予算が75~76%台、バリューアップ予算は23~24%台と、過去5年間ほぼ横ばいの状態が続いている。この結果について島氏は、限られたリソースを無駄にしないために「IT投資の事前・事後評価を厳格化することで、安易な新規投資が抑制され、結果として予算比率が横ばいに留まっている」と指摘する。
IT投資効果の評価状況を尋ねた質問では、2025年度に「実施していない」と答えた企業の割合は、事前評価で23.2%(前年35.0%)、事後評価で31.8%(前年42.8%)だった。2024年度と比べて、それぞれ11ポイント以上も減少している状況だ。
この結果について島氏は、経営会議などで「何にいくら使うのか」をしっかり審議するプロセスが重視されるようになっていると説明する。「コスト増という不可避な現実に直面し、評価を厳格化して無駄を削りつつ、各企業が『攻め』への転換を鋭意模索している状況」だという。
つまり情シス部門の担当者は、既存コストの適正化、バリューアップにつながる積極的なIT投資という攻守一体の施策を求められている。
内製化と人材不足の壁
ベンダーに依頼していた業務を自社で担う「内製化」を進めている企業は増加傾向だ。一方、「システム開発の内製化を進めるうえでの課題」を尋ねた調査結果の通り、「プロジェクトマネジメント人材」「開発人材の量」「開発人材の質」は不足しているのが現状だ。
「IT組織の運営や管理にかかわる機能・能力の充足状況」を尋ねた質問では、73.9%の回答者が、「IT人材の採用・育成」を「不足している」と答えた。続いて、「データ活用・データマネジメント」が71.9%、「新技術の探索・評価」は69.5%だった。これらの結果からは、IT組織の貢献度を高めるために必要な3要素(人材、データ、新技術)が不足していることがうかがえる。2024年度調査と2025年度調査を比較しても顕著な増減がないことから、不足している機能・能力は短期的な改善が難しい機能・能力といえる。
内製化の対象は、システム企画や要件定義といった上流工程が中心となっており、プロジェクトを推進できるマネジメント能力を持つ質の高いIT人材の需要は高まっている。経験豊富な人材を中途採用で確保することが難しい昨今、内製化を実現するには、OJTや研修を組み合わせた育成を推進し、社内人材のリスキリングを促進し、育成した人材の流出をいかに防ぐかが鍵だ。
「離職を防いで人材を定着させる方法」について島氏は、従業員エンゲージメントの向上を挙げる。この他の施策として同氏は、企業理念の浸透、心理的安全性の確保、適正な人事評価、キャリア支援などについて言及する。
近年では、専門的なスキルを持つスペシャリストに対して、本来の給与体系に縛られず市場価値に見合った高い報酬を設定する企業も現れた。優秀なIT人材の確保に向けて、各社がしのぎを削る状況が続いている。
変革期のリーダーに求められる「3つの資質」と育成のための土壌
守りと攻め、どちらかに偏重することなく施策を打ち出し、最新技術を取り入れながら、経営と一体となって変革期を推進する――。情シス部門のリーダーに期待される役割は多岐にわたり、求められるスキルも多角的だ。
変革期のリーダーに求められる資質として、島氏は「言語化能力」「メタ認知能力」「共創力」を挙げる。
言語化能力は、施策の解像度を高めるために不可欠だ。単に具体化するだけでなく、施策立ち上げの背景から始まり、目指すゴールに至るまでのストーリーとしての整合性を持たせ、納得感を醸成しながら周囲を巻き込むことができる。
メタ認知能力を身に付ければ、目の前の作業に飛びつく前に「今、何を考えるべきか」を客観的に定義できるようになり、マネジャーとしての役割を見失うことがなくなる。
共創力は、自前主義に固執せず、社内外の力を借りて大きな挑戦に向かうために欠かせない能力だ。異なる強みを持つ人材や組織と対話し、お互いの価値を掛け合わせることで、一社では成し得ない変革を起こす。
また、変革期にリーダーが育つ組織について島氏は、「失敗を許容する風土」があるかどうかが決定的な差となる、と語る。「『失敗してもいい、そこから学んで次に生かせばいい』という風土を、経営陣や情シス部門のリーダーが本気で示せている組織では、人材がチャレンジし続け、急速に育っています。優れたリーダーは、部下とゴールを共有し、並走して解像度を上げていきます。こうした仕組みや風土を醸成している企業が今後も日本に増えていってほしいと思います」(同氏)
続けて、「情シス部門のリーダー自身が『自分たちで考えたことを、自分たちの手で形にし、ビジネスを動かしていく』という強い意志とマインドを持つことが大切です。JUASとしても、そうした志を持つ会員企業の皆さんが、会社の枠を超えて悩みを共有し、共に学び、切磋琢磨できる場をこれからも提供し続けたいと考えています」と結ぶ。
「情シス部門の皆さんが、自信を持って『変革の主役』として打席に立ち続けることを、心から応援しています」(島氏)
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