「ベンダーロックイン」への誤解

AWSの恩恵を自ら放棄? クラウドの「乗り換え自由」はリスクを生むだけなのか

特定ベンダーへの依存を避けるマルチクラウド戦略は、理想として扱われてきた。しかし、それがかえって運用負荷を増大させ、インフラを破綻させるリスクをはらんでいる。“起こらない災害”に備えることの無駄とは。

 クラウド戦略において、「ポータビリティ」は理想の姿として語られてきた。コンテナオーケストレーションツール「Kubernetes」などのコンテナ技術の導入によってインフラを抽象化し、特定ベンダーから別のベンダーにいつでも乗り換えられるようにするという考え方だ。特定ベンダーに縛られることを回避し、インフラの選択肢を確保するための戦略として、ポータビリティを重視する企業が後を絶たない。

 しかし、実際の運用現場において、ポータビリティの追求には大きな落とし穴がある。「特定のクラウドサービスに縛られないこと」を最重要課題として構築されたシステムは、運用に膨大な費用と手間がかかり、負荷が高い「質の悪い自社データセンター」に変貌してしまう。

 IT担当者は、これまで“誤った災害”に備えてきたと言える。起こるかどうか分からない「クラウド移行」のために膨大な時間と費用をかける一方で、日々の煩雑な運用という目の前の深刻な災害を見過ごしている状態に陥っている。真のロックインとは、特定のAPIやマネージドサービスそのものにあるのではない。エンジニアが蓄積した「そのシステム構成に対する運用スキル」にこそ、企業は深く縛り付けられている。

 なぜポータビリティの追求がインフラ運用を破綻させるのか。その真実と現実的な解決策を解き明かす。

ポータビリティという名の「質の悪いデータセンター」

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