大規模AI運用を支えるプロトコル
MCPが過去最大のアップデート ステートレス化によるメリットと影響
AIエージェントの標準規格「MCP」がステートレス化へと大きくかじを切った。スケーラビリティとセキュリティが向上する一方、既存システムには12カ月以内の改修が求められる。情シスが今備えるべき変更点とは。
AIエージェントによるツールやデータセットの利用を容易にするオープンソースプロトコルが、業界で広く採用されている。専門家によると、2026年7月28日にアップデートされた内容は、エンタープライズAIの成熟に向けた重要な一歩になるという。
MCP(Model Context Protocol)は、Anthropicが開発したプロトコルで、サーバがツールやデータ、プロンプトをクライアントへ提供するための標準形式を定義したものだ。2025年末にLinux Foundation傘下のAgentic AI Foundation(AAIF)に移管されている。
ステートレス化でどう変わる?
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従来、MCPのサーバとクライアントはスティッキーセッションを利用していた。つまり、通信には特定のサーバインスタンスをコードで明示的に指定する必要があった。今回のリリースでは、ステートレスなトランスポートアーキテクチャへと移行した。
これにより、クライアントと特定のバックエンドサーバのひも付けが解消された。サーバ群をロードバランサー配下に置くことが可能となり、スケーラビリティが向上した。この構成は、企業向けアプリケーションの運用形態に近い。
MCPゲートウェイベンダーArcade.devの創設者で、MCPのコントリビューターであるネイト・バーベッティーニ氏は次のように話す。「MCPの初期設計は、ローカル環境での利用を想定したLanguage Server Protocol(LSP)の影響を強く受けていた」
バーベッティーニ氏によると、MCPがローカルだけでなくリモートやHTTP経由で利用されるようになったことで、プロトコルの進化が必要になったという。「今回の変更は、MCPが成熟期に入ったことを示す象徴的な出来事だ」(バーベッティーニ氏)
セキュリティとパフォーマンスの両立
特定のサーバ情報の指定が不要になったことは、企業のAIのパフォーマンス向上とセキュリティのベストプラクティスに合致する。あるFortune100企業のDevOpsエンジニア、スレシュ・ガングラ氏はそう指摘する。
ステートを保持する場合、リクエストのたびにセッションIDを運び、サーバとクライアント間でハンドシェイクを行う必要がある。「これはサービスにとって大きな負担だ」とガングラ氏は話す。新しいステートレス方式ではメタフィールドのみを扱うため、より安全で高速になるという。
ガングラ氏によると、メタフィールドの利用は攻撃者からサーバやセッションの情報を隠すことにもつながり、バックエンドシステムへの侵入を防ぐ効果がある。リクエストに情報を直接記述せず、より安全なシステムから供給する手法は、企業にとって好ましいものだ。
認証仕様の改善と安定性の確保
業界アナリストは、今回のリリースを大きな節目として評価している。AIエージェントのインフラで、MCPは大きなシェアを占めるようになった。完全な成熟には、迅速な開発が必要だった。
Smuget Consultingの創設者であるロブ・ストレチャイ氏は、MCPが現代のWebシステムの動作に合わせて再設計されたと述べている。プロトコルレベルでのセッションを排除したことで、水平方向へのスケールアウトが可能になったという。
今回のリリースでは、OAuth 2.0やOpenID Connectの認証プラクティスとの整合性も強化された。バーベッティーニ氏によると、以前はこれらの仕様の文言があいまいだったという。Arcade.devの運用でも、一部のクライアントが仕様を厳密に守っていないことによる不具合が見つかっていた。
成長に伴う「産みの苦しみ」
ステートレス化は歓迎されているが、今回の更新は破壊的変更を伴う。12カ月の移行期間が設けられているが、この期間を過ぎると、最新バージョンに更新していないクライアントとサーバ間では通信が失敗する可能性がある。
IDCのアナリストであるジム・マーサー氏は、メリットを享受するにはリファクタリングが必要になると指摘する。MCPの利用が各所に広がっているため、移行期間終了後に問題が発生する恐れがあるという。
バーベッティーニ氏は、更新作業に伴う混乱や、バージョン間の断片化の可能性も示唆している。「カスタムクライアントを持つ企業は、新プロトコルへの対応が必要だ。これは決して簡単な作業ではない」と同氏は話す。
ただし、今後の更新による混乱を最小限に抑える仕組みも導入された。機能の廃止から削除まで少なくとも12カ月の期間を設けるライフサイクルや、独自の拡張機能の開発を認める仕組みだ。
成熟に向けた通過点
調査会社Omdiaのアナリスト、トーステン・ボルク氏は、破壊的変更の影響は限定的だとみている。移行期間中は両バージョンが共存可能で、サーバの修正もSDKに基づいた再構築で対応できるためだ。予算設定や制限値の修正は必要だが、困難な課題ではないという。
「12カ月の移行期間を設けることは、企業向けソフトウェアとして当然の対応だ。これもMCPが成長する過程の一部といえる」(ボルク氏)
一方でボルク氏は、MCPにはまだ改善の余地があるとも指摘する。現状は人間のユーザー権限を委譲しているが、将来的にはエージェント固有のアイデンティティーをサポートする必要があるという。エージェントには、必要な権限のみを付与すべきだからだ。
ボルク氏は、エージェントがユーザー権限の一部だけを持ってMCPを利用し、適切に応答を受け取れる仕組みが必要だと語る。AIエージェントが企業環境で完全に定着するには、こうした権限管理の精緻(せいち)化が次の課題になりそうだ。
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