「まず1時間、自分で考える」
Javaの重鎮が説く若手育成 「AIは二の次」でいい理由
困ったときは、“とりあえずAIに聞く”と考えがちな時代になった。そのような時代の若手育成方法を、プログラマー歴40年で、プログラミング言語やソフトウェア設計の分野で長年活動してきた人物が語った。
生成AIを使えば、経験の浅いエンジニアでも短時間でコードを書き、エラーの原因や実装方法を調べられる。開発効率が上がる一方で、「自分で悩み、調べ、仕組みを理解する」という成長の過程までAIに任せれば、将来AIの出力を評価できる人材が育たなくなる恐れもある。
こうした問題を提起するのが、40年以上の開発経験を持ち、世界各地で開発者の教育や講演に携わってきた、ソフトウェア開発者のベンカット・サブラマニアム氏だ。
同氏は、開発者や企業の技術力、開発プロセスの向上を支援するAgile Developerの創業者で、米ヒューストン大学でも教壇に立つ。Javaをはじめとするプログラミング言語やソフトウェア設計に関する著書を多数執筆している人物だ。
サブラマニアム氏は、ソフトウェアベンダーJetBrainsが提供するポッドキャスト「The Marco Show」で、若手エンジニアの育成で重視している考え方を紹介した。
AIがすぐ答える時代、若手を熟練者にする第一歩は
生成AIは、分からないことを質問すれば短時間で回答し、コードまで生成してくれる。こうした環境では、若手エンジニアが従来経験してきた試行錯誤を飛ばしやすくなる。
The Marco Showの司会を務めるマルコ・ベーラー氏は、「AIは常に、手軽に素早く答えを提示してくれる。そのような中で、若手はどのように専門性を身に付ければよいのか?」とサブラマニアム氏に投げ掛けた。
同氏は、「AI以前にも同様の問題はあった」と述べる。その一例がIDE(統合開発環境)だ。IDEによって開発は便利になったが、ツールだけに依存すると、プログラムが裏側でどう動いているのかを理解しないまま作業できてしまう。
サブラマニアム氏は若手エンジニアに対して、IDEだけに頼らず、コマンドラインからプログラムを実行するなど、仕組みそのものを理解する経験を持つよう薦めてきたという。生成AIについても同じ考え方が必要だとしている。
「AIを使うのは構わない。ただし、基礎を学ぶことを忘れてはいけない」(サブラマニアム氏)
問題は、AIを使うことそのものではない。生成された結果だけを受け取り、「なぜその答えになるのか」を理解しようとしなくなることだ。同氏によると、成果を出すことだけを目的にし、結果がどのように生まれたのかを理解する過程を省略する若手は、将来的に苦労する可能性があるという。
AI時代ほど「答えが正しいか」を判断する能力が必要
では、なぜ基礎知識が重要なのか。サブラマニアム氏が重視するのは、AIが出した回答を評価、検証する能力だ。同氏は、AIの能力以上に「AIを使う人の能力」が重要だと指摘する。本番環境への導入やアプリケーションの保守を経験したエンジニアであれば、AIが生成したコードが適切かどうかを判断しやすいからだ。
「コードを生成できること以上に、それを評価、検証できることが重要になっている」(サブラマニアム氏)
生成AIによってコードを書くハードルが下がるほど、この違いは大きくなる。AIがもっともらしいコードを生成しても、それが要件を満たしているのか、保守しやすいのか、想定外の問題を生まないのかを最終的に判断する必要がある。そのためには、判断材料となる基礎知識や実務経験を人間側が持っていなければならない。
すぐAIに聞かせない 「1時間自分で考える」理由
サブラマニアム氏は若手を育成する際、分からない問題に直面してもすぐに答えを教えないという。一方で、長時間放置するわけでもない。同氏が学生に取り入れているのが「タイムボックス」という考え方だ。
例えば問題が解けない場合、まず1時間、自分で解決策を探してもらう。その時間内で何を調べ、何を試し、どこまで分かったのかを確認する。それでも解決できなければ、そこで初めて解き方を示す。
すぐに答えを得続けると、自分で考える力が弱まり、最終的には解決策を評価、検証する能力まで失いかねない。サブラマニアム氏はこう説明する。
「AIファースト」ではなく「AIセカンド」
サブラマニアム氏は、こうしたAIとの距離感を「AI second」(AIは二の次)と表現している。
「多くの企業が『AIファースト』と言っているが、私は『AIセカンド』と言っている」(サブラマニアム氏)
同氏が薦めるのは、問題が発生したら、まず人間が自分自身で考えることだ。その後、同僚と意見を交わし、最後にAIの分析を加える。
最初からAIに問題を渡してしまうと、人間自身が問題について十分に考える前に、AIの回答に思考を引っ張られる可能性がある。サブラマニアム氏は、まず自分で考え、同僚の考えを聞き、その後にAIを使うことで、より豊かなアイデアを得られるとしている。
サブラマニアム氏は、ポッドキャストの数日前、ソフトウェア開発者向けのワークショップを実施した。その際、参加者とAIに同じ問題を別々に分析させたという。まず開発者だけで問題の特徴を洗い出し、その約1時間後、人間側の分析結果をAIには渡さず、同じ問題を3種類のAIモデルに分析させた。
結果を比較すると、人間とAIで共通する指摘があった一方、開発者だけが見つけた論点と、AIだけが見つけた論点もあった。同氏によると、双方の分析を合わせることで、人間またはAIのどちらか一方だけで考えた場合よりも、幅広いアイデアを得られたという。
AIを使うこと自体を制限する必要はない。一方で、若手が問題に遭遇するたびにAIから完成した答えを得る環境を作れば、AIの回答を評価するために必要な経験まで失う可能性がある。
サブラマニアム氏は、「成果を急ぐあまり品質を軽視すること」も、「分析ばかり続けて成果を出せない状態に陥ること」も、どちらも極端だと指摘する。「一方の極端は、分析を続けるだけで結果を出さないこと。もう一方は、常に急ぎ、品質を気にせず、とにかく成果を出そうとすることだ。どちらもよくない」と述べ、その中間を探る必要があるとした。
本稿は、JetBrainsが2026年8月20日に公開したThe Better You Are at Programming, the Worse AI Looks-Venkat Subramaniam The Marco Showを基に作成しました。
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