リフト&シフトの先にある真の運用効率化
千葉大はなぜ「Google Cloud」を選んだか “取りあえずIaaS”からの脱却
オンプレミスからクラウドへの移行で「リフト&シフト」を採用し、IaaSにとどまるケースでは、OS管理やパッチ適用などの運用負荷は残り続ける。千葉大学の事例から、アーキテクチャ見直しの基準を解説する。
組織のシステム見直しにおいて、「オンプレミスインフラからクラウドインフラへの移行」は一般的な選択肢となった。しかし、取りあえず既存のシステムをそのまま仮想マシンに載せ替える「リフト&シフト」を採用し、IaaS(Infrastructure as a Service)を利用するだけのケースでは、情報システム部門は物理機器の障害からは解放されるものの、OSの管理やパッチの適用といった運用保守の手間は残り続ける。真の運用効率化を果たすには、マネージドサービスやPaaS(Platform as a Service)への移行を前提としたシステム構成の見直しが不可欠だ。
千葉大学も、全学で利用する学習管理システム(LMS)の運用で同様の課題に直面していた。同大学は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下(コロナ禍)のアクセス急増を機に、オンプレミスシステムからクラウドサービスに移行したものの、構成が全てIaaSの仮想マシンであったため、OS管理などの運用負荷という課題を抱え続けていた。
そこで千葉大学は、教育現場で「Google Workspace」の利用が広がっていたことを契機に、LMSを含む教育系インフラを「Google Cloud」へと全面的に移すことを決断した。単なる仮想マシンの移設ではなく、将来的なサーバレス化を見据え、データベースやキャッシュ層をPaaS化するアーキテクチャの再設計に踏み切ったのだ。
システム移行のさまざまな技術的ハードル、関係者間の合意形成やベンダーとの調整をいかに乗り越え、実運用に耐え得るインフラを実装したのか。
「IaaSの限界」から脱却するためのアーキテクチャ再考
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Google Cloudへの移行
千葉大学は、LMSの「Moodle」を他社クラウドサービスからGoogle Cloudに移行した。Googleが2026年9月30日、公式ブログで導入事例を公開した。データベースやキャッシュ層をマネージドサービスに切り替え、OSの管理やパッチ適用に伴う負荷を削減した。全体で運用工数を約20~30%減らし、費用削減と運用の効率化につなげた。今後は、LMSの利用ログを分析する「ラーニング・アナリティクス」の導入を検討する。
千葉大学は、2020年に発足した「スマートオフィス」を中核に、全学で教育DXを進めている。LMSとしてMoodleを運用し、教育活動の基盤としている。
コロナ禍前は、Moodleをオンプレミスインフラで運用していた。物理機器のトラブルやネットワーク障害、停電などからの復旧作業が必要で、それらを実施できる専門知識を持つ職員が限られていた。運用負荷に加え、セキュリティ面にも不安を抱えていた。
2020年、コロナ禍でLMSへのアクセスが急増したことを受け、まずIaaS型のクラウドサービスに移行した。ただし、構成は全てIaaSの仮想マシンであり、情報システム部門の物理機器の障害対処は減った一方、OSの管理やパッチ適用に伴う運用負荷は残った。
Google Cloudの採用を検討する契機となったのは、教育現場でGoogle Workspaceの利用が広がっていたことだ。学生向けメールを「Gmail」に移行し、同時双方向型のオンライン授業で「Google Meet」を利用する中で、アカウント認証を統合できる点を評価した。学術情報ネットワーク(SINET)とのプライベート接続におけるコストパフォーマンスも踏まえ、教育系システムをGoogle Cloudへと全面的に移すことを決めた。
移行は、事務補佐員を含む約10人の職員と4人の教員で構成するスマートオフィスが主導した。学内にはクラウドサービスに詳しい人材が十分にはおらず、「ISMAP」(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)などの評価基準が定まる前でもあった。そのため、学生の機微な情報をクラウドサービスに移す際、学内でセキュリティ面の合意形成に苦心した。
セキュリティを確保するため、商用ネットワークを経由せず、SINETから直接接続する構成を目指した。しかし、ベンダー間の調整は難航した。コンサルタントとして参画した早稲田大学アカデミックソリューションが、千葉大学、Google Cloud担当チーム、運用ベンダーの間に立って調整し、実装を支援した。
刷新後の構成は、単なるリフト&シフトではない。アプリケーションサーバは、学生が一斉にアクセスするピーク時にも性能を確保できるよう、仮想マシンサービス「Compute Engine」を3台構成で運用する。データベースには「Cloud SQL for MySQL」、キャッシュ層にはインメモリデータストアサービス「Memorystore for Redis」を採用し、OSの管理工数を抑えた。コンテナ実行環境「Cloud Run」を使ったフロントエンドの構築にも着手している。
セキュリティ対策では、Webアプリケーションファイアウォール(WAF)として「Cloud Armor」を利用する他、Cloud Firewall(Cloud NGFW)を導入した。SSL証明書の更新はGoogleマネージド証明書で自動化した。サーバ単位だった監視も、ログを「BigQuery」に転送して集約することで効率化した。
これによって、課題の締め切り直前にLMSのサーバが停止するかもしれないという学生の不安を軽減した。教員は、小テストの自動採点やオンラインでのグループワークなど、LMSの機能を生かした教育設計に取り組みやすくなった。
今後は、APIを活用した学内向けRAG(検索拡張生成)の構築や、LMSの利用ログをBigQueryに蓄積し、データ分析ツール「Looker」で可視化・分析するラーニング・アナリティクスを検討する。千葉大学の関係者は「LMSは、あって当たり前のインフラとして機能することに意味がある。学習の本質とは無関係なストレスを取り除くことで、初めてデータに基づいた教育改善が可能になる」と話す。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHUB.News」に掲載された「千葉大学、LMSをGoogle Cloudへ移行 運用工数を20~30%削減」(2026年10月2日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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