DX推進の近道
なぜ府中市の職員は「使ってみたい」と言ったのか AI-OCR定着の裏側
自治体や企業で課題となる紙書類のデータ化が、現場のITへの抵抗感から頓挫するケースは少なくない。広島県府中市が「完全なペーパーレス化」にこだわらず、現場主導のDXに成功した舞台裏とは。
自治体や伝統的な企業において、ペーパーレス化は目標であり続けている。しかし、万人に向けた行政サービスや、高齢の顧客を抱えるビジネスでは、紙の手書き申請書をゼロにすることは非現実的だ。
そこで、AI技術を活用したOCR(光学文字認識)である「AI-OCR」の利用が視野に入る。ここでIT部門が直面するのが、「現場のITアレルギー」という壁だ。高機能なデータ抽出ツールを導入しても、「事前の設定が複雑」「使い方が分からない」と現場から敬遠され 、結局IT部門が日々の読み取り設定やエラー対処に追われるケースが後を絶たない。
持続可能な自治体運営を目指してデジタル化を推進してきた広島県府中市は、紙とデジタルを両立しながらいかに業務を効率化するかという課題に直面していた。このジレンマを解消するため、同市はAIツールベンダーのジンベイが提供する生成AI型AI-OCR「GenOCR」の導入実証を開始した。同ツールは、達筆な文字や独特の癖がある文字、枠からはみ出したチェックマークなどを高精度にデータ化できる。
特筆すべき導入効果は、これまでシステムに詳しくなかった現場職員から「このような業務で使ってみたい」と前向きな声が上がり、自発的な活用が進んだ点だ。なぜ府中市の現場職員は、新しいITツールに対するアレルギー反応を示さなかったのか。GenOCRが発揮した効果と、実務に即した運用戦略を紹介する。
現場がシステムを敬遠しない「運用の切り分け」とは
広島県府中市は、人口減少や少子高齢化を見据えた持続可能な自治体運営を目的に、GenOCRを採用した。2026年7月9日、同サービスを提供するジンベイが発表した。住民の手書き申請書を高精度に読み取ることで職員の入力ミスや負担を軽減した他、ITに詳しくない職員でも直感的に操作できるシステムを整え、庁内におけるデジタル文化の醸成につなげている。今後は過去の類似事例を迅速に検索できるナレッジシステムとしての発展や、個人情報を扱う業務への拡大を目指す。
自治体では人口減少や少子高齢化が進む中、行政サービスの質を維持しながら業務を効率化することが共通の課題となっている。府中市も持続可能な自治体運営を目指してデジタル化を推進してきたが、高齢者への配慮などの理由から紙の申請をゼロにすることは難しく、紙とデジタルを両立しながらいかに業務を効率化するかが問われていた。こうした現場の課題を解決するため、同市は広島県主催のオープンイノベーションプログラムを通じてジンベイの提案を選定し、2026年に実証を開始した。
このような背景から府中市は、最も頻度が高い住民の手書き申請書を対象とした検証を実施した。達筆な文字や独特の癖がある文字も高い精度でデータ化できることを確認した他、選択項目に付けられた丸の位置がずれたり枠からはみ出したりしていても正しく判別できた。これによって、従来職員が手作業で実施しておたデータ入力時間を削減した。手書き書類だけではなく、建築や土木系の部署で扱う細かな図面からの情報抽出や、既存システムが出力した数値帳票の読み取りにも活用し、入力ミスの防止に役立てている。
GenOCRは複雑な範囲指定やソースコード記述を必要とせず、画面上で普段使っている日本語のプロンプトを入力するだけで読み取りの指示ができる。このシンプルな操作性によって、ITに詳しくない職員でも迷わず利用でき、事前の職員向けオンライン説明会でも前向きな意見が複数寄せられた。実証を通じて、同ツールで正確に文字を読み取った後の複雑な計算や処理は別のツールに任せるという、実務に即した運用の切り分けが進んだことも大きな収穫になった。
府中市 総務部DX推進課 プロセス改革担当監の伊藤健志氏は、効果を次のように述べる。「GenOCRは作りが非常にシンプルなので、システムに詳しくない職員でも直感的に理解できます。この『最初の一歩でつまずかない』ことは本当に重要です。現場と導入側の双方に寄り添ってくれるツールであり、私たちが目指す『DXの文化』を根付かせるのに一役買う存在になってくれると期待しています」
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHUB.News」に掲載された「広島県府中市、手書き申請書のデータ化を効率化 現場主導のDX推進」(2026年7月12日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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