企業の不安をよそにAWSを採用
CIAが“あえて空気を読まずに”クラウド移行を進める理由
クラウドではセキュリティ侵害が懸念されているが、一方でクラウドに移行する政府機関や民間企業は増加の一途をたどり、CIAもAWSクラウドへの移行と投資に踏み切った。そこから何が読み取れるのか。
クラウドサービスのセキュリティに関する議論が続く中、米中央情報局(CIA)は、ビッグデータやグローバルインテリジェンス(諜報)のニーズ増大に対応するため、米Amazon Web Services(AWS)のクラウドサービスに約6億ドルを投資することを公式に認めている。
最近では米Appleの「iCloud」で多くのハリウッドセレブの個人アカウントからヌード写真が流出し、クラウドをめぐる新たなスキャンダルとして大騒ぎになった。だが、クラウドに移行する政府機関や民間企業は増える一方だ。
政府による監視は怖いがクラウド移行は止められない
2013年以降、クラウドなどに保存された情報に対する米国家安全保障局(NSA)の監視活動が暴露され、多くの企業役員やエンドユーザーが、クラウド利用時に政府にプライバシーを侵害される可能性を懸念している。そんな矢先に、CIAがクラウドサービスへの移行という大きな賭けに踏み切ったのは皮肉なことだ。
実際、特権ID管理(PIM)ソリューションプロバイダーの米Lieberman Softwareが実施した調査「2014 Cloud Security Survey」(2014年クラウドセキュリティ調査)では、回答者の33.21%が、政府による監視がデータをクラウドに置く妨げになっていると答えた。また、回答者の79.64%は、機密データをクラウドではなく、自組織のネットワーク上に置いているという。それでも、機密データを自組織のネットワーク上に置く回答者の割合は、2012年の86%よりも減少している。
また、クラウド運用ソリューションを手掛ける米RightScaleの調査「2014 State of the Cloud Survey」(2014年クラウド情勢調査)からは、クラウドの導入率の高さが浮き彫りになった。回答した組織の94%が、IaaSでアプリケーションを運用しているか、IaaSを試していると答え、87%がパブリッククラウドを使っていると答えている。さらに、回答した組織のほぼ4分の3(74%)がハイブリッドクラウド戦略を持っており、半分以上がパブリックとプライベートの両クラウドサービスを利用していることも分かった。
RightScaleはクラウド中心のビジネス展開を行っているため、これらの数字にはやや偏りがあるかもしれない。それでも、これらの数字が、「セキュリティ問題が後を絶たないにもかかわらず、多くの企業や政府機関の意思決定者がクラウドの取り組みを進めている」ことを示しているのは確かだ。
クラウドに期待するのはコストだけじゃない
このように着実に進展してきているクラウドへの移行で特に興味深いのは、コスト削減だけを目的としているわけではないという点だ。
CIAの最高情報責任者(CIO)を務めるダグ・ウルフ氏は2014年6月、米ワシントンD.C.で行われた公開イベントで、CIAが取り組んでいるクラウドへの移行では、増大する不確実性に対応できるアジリティを高めることが、目的の1つとなっていると説明した。「われわれは、サーバを立ち上げる方法のイノベーションを利用するだけでなく、アプリケーションに関しても、民間セクターのイノベーションを業務に導入する方針だ」。英Financial Times紙によると、ウルフ氏はそう述べたという。
一部のITマネジャーは、クラウドに移行すると管理が行き届かなくなるのではないかと心配している。だがウルフ氏は、AWSクラウドを利用することで、CIAは業務コストをより適切に管理できると考えている。米Washington Post紙は、同氏が次のように語ったと報じている。
「もしあなたが政府機関のIT担当者で、いくらでも好きなだけITを購入することに慣れていて、注文し過ぎる傾向があっても(これはありがちなことで、政府機関のIT担当者はピーク時のニーズに合わせて注文することが多い)、AWSは従量制なので、使った分だけ請求されることになる。そのおかげで、IT利用コストを正確に認識し、問題発生時にサーバのストレージにどのような処理が適用されたかなど、稼働状況を詳細に把握できるようになる。このため、われわれはAWSを利用することで、メリハリの利いたIT運用を行い、効率を高める大きな機会になると考えている」
CIAはAWSとサービス調達契約を結んでいるが、AWSの通常のクラウドサービスを利用するわけではない。AWSはCIAの極めて高い基準を満たす特殊なサービスを開発、提供する。このサービスは、CIAをはじめ全米17の情報機関が利用することになっている。
米The Atlantic紙は、ある情報機関の元幹部の発言として、次のように伝えている。「われわれはこう自問した。『われわれは民間の大企業のように、欲しいものを買えるのか。製品の更新サイクルについていけるのか。どの組織もデータセンターを構築することはできるが、われわれは追加投資して随時拡張していけるのか』と。そして、自前で設備を持つのではなく、クラウドサービスの購入によってイノベーションを取り入れていく必要があると判断した」
当然のことながら、クラウドサービスを特別なニーズに合わせてカスタマイズしてもらうのに数百万ドル出しても構わないという購買力を持つ組織は、CIAなどの大規模政府機関や有名企業など、ごく一部に限られる。中小企業は、パブリッククラウドサービスの使い勝手が良くなるように特定の条件を定めることすらできず、歯がゆい思いをしている。
しかし、今日のクラウドサービスのメリットの1つは、要求の厳しい特定の顧客のために実現されたイノベーションを、同様の要件を抱える他の顧客も共有できることだ。実際、現在の基本的なクラウドサービスは、ほんの1年ほど前と比べてもはるかに進化している。
クラウド業界では、激しい競争を背景にイノベーションのペースが加速している。私が経営するコンサルティング会社、米THINKstrategiesでは、こうした動きを“クラウドラッシュ”と呼んでいる。この動きは、AWSのようなサービスプロバイダーが市場シェア獲得に全力を挙げる中で、CIAのような大口顧客に積極的に協力し、その厳しいニーズに対応しようとしている表れだ。そしてこの動きは、クラウドのセキュリティを懸念してきた企業の意思決定者にとっては、「AWSなどの大手クラウドプロバイダーが、セキュリティリスクを軽減するイノベーションを継続していくことが期待できる」ということを意味する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[横河レンタ・リース株式会社] AIの全社活用が加速 トヨタ・コニック・プロに学ぶ「AI PC調達」の秘訣 -
製品資料
[横河レンタ・リース株式会社] 人材不足時代の「PC調達」ガイド:知っておきたいリースとレンタルの違い -
製品資料
[横河レンタ・リース株式会社] PC調達に「レンタル」を選ぶことのメリットは? リース・購入との違いも解説 -
技術文書・技術解説
[セコムトラストシステムズ株式会社] SCS評価制度時代の「SASE選定」ガイド -
比較資料
[セコムトラストシステムズ株式会社] なぜ「SASE選定は難しい」と言われるのか? 多くの人が陥る失敗パターンを解説
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
2
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
3
パッチなしで「今すぐサーバを落とせ」 Kiteworks異例警告の波紋
-
4
LINEヤフーはなぜ「社内の管理者」すら信用しないインフラを作ったのか
-
5
「企業におけるAI導入検討度とIT投資優先度」に関するアンケート
-
6
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
7
OpenAIやAnthropicでさえ制御不能 2026年夏「3大サイバー攻撃」の衝撃
-
8
「契約業務のAI活用」に関するアンケート
-
9
【基本情報技術者試験】メモリ不足でもアプリが動くのはなぜ? OSを支える「仮想記憶」
-
10
Copilot導入で陥る“目的化”の落とし穴 定着の鍵は「作り込まない」こと
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
2
Microsoft 365のメールセキュリティ、3つの“死角”と追加で検討すべき対策とは
-
3
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
4
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
5
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
6
プログラミング不要で誰でも実現できる、ネットワーク運用管理の自動化とは
-
7
Linux初心者でも知らないとまずい「RHEL」「SLES」の違いとは?
-
8
東大教授と考える、AI時代の「データ主権」「信頼性」「ガバナンス」の在り方
-
9
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
10
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー