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I/O至上主義は危険? 見過ごしている、フラッシュデバイスの真の性能指標とは製品選定前に読んでおきたい基礎技術 NVMe編

SSDをはじめとするフラッシュデバイスの真価を発揮させるために必要な考え方とは。その中身であるNANDフラッシュメモリのこれまでの歴史、IOPSの有効性、本当に重要な性能指標とは何かについて解説する。

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 近年、フラッシュデバイス(本稿では、NANDフラッシュメモリを搭載したストレージをこう表現する)を搭載したストレージシステムの採用が増々活発になっている。

 フラッシュデバイスの特徴と言えば、まず挙がるのは、そのI/O性能だ。従来の磁気ディスクを利用したHDDに比べ、その単体のI/O性能は数十倍以上といわれている。このフラッシュデバイスの登場によって、ストレージの性能は飛躍的に向上したと言って間違いないだろう。だがその性能評価のみに頼って製品を選択し、本当に目的を達成できるのだろうか。

 筆者は2000年から十数年にわたりストレージエンジニアを務めてきた。本稿ではその経験を基に、フラッシュデバイスを利用したストレージがもたらすI/O性能について皆さんに共有する。

 最近では最大1000万IOPS(1秒間に処理できるI/O数)をうたうストレージも登場し、非常に進歩が著しい分野ではあるが、市場がIOPS重視に広がっていることについては少々危機感を抱いている。誤解を恐れずに言えば、ストレージの性能評価に使える指標はIOPSだけではない。その理由と共に、本当に重要な性能指標について解説する。

1.システム性能向上に関しての歴史

 本題に入る前に、システム性能向上の歴史について少しおさらいする。ご存じの通り、CPU(演算装置)の核となる半導体の集積率については、「ムーアの法則」と呼ばれる非常に有名な経験則がある。ムーアの法則とは、Intel創業者の1人であるゴードン・ムーア氏が、1965年に自らの論文で唱えた経験則に基づく予測指標で、一般的には「半導体の集積率は18カ月で2倍になる」という内容で知られている。この法則については、歴史的に見てもほぼ乖離(かいり)はなく、経験則通りの結果と言ってよい状況である。近年、物理的な限界もあり、今後もムーアの法則に準じた性能向上は難しいといわれているが、今回はこれまでの歴史を説明するために、あえて引用した。

 それに対し、CPUからのI/Oを受け取る(=データを格納する)ストレージ性能の基礎となるHDDの性能は、どのぐらいの成長を遂げているのか。それを示したのが図1である。


図1 CPUとHDDの性能向上比率

 CPUの性能は指数関数的(1.5年ごとにNの2乗倍)に向上しているのに対し、HDDの性能向上は横ばいと言っていいほど、なだらかな成長にとどまっている。このことからCPUの性能向上に対し、HDD(ストレージ)は全く追い付いておらず、それを補うためにHDDを複数台搭載することで、性能差を埋めてきたのがこれまでの歴史である(図2)。


図2 HDDを複数台搭載することでCPUとの性能差を埋める

 こうした性能差を急激に改善する起爆剤として期待されたのが、NANDフラッシュメモリだ。このNANDフラッシュメモリはHDDが採用する磁気ディスクに比べ、単体で数十倍のI/O性能を有している。劇的な性能の改善が見込まれたことから、さまざまな分野への採用が期待されることになった。

2.IOPSの有効性と落とし穴

 NANDフラッシュメモリの市場展開が増えるにつれ、IOPSと呼ばれる指標をよく耳にするようになった。IOPSとは、秒間のI/O処理回数を数値化したもので、NANDフラッシュメモリを搭載したストレージの性能を示す指標だ。最近では、IOPSの数値の高さそのものが製品の性能に直結するような意味で取り上げられることが増えてきた。

 「フラッシュデバイスの選び方、I/O以外に注目すべきポイントとは?」でも触れたが、確かにIOPSは性能を数値で表現する際には非常に分かりやすい指標だといえる。しかしその半面、数値の意味を正しく理解していないと、思わぬ落とし穴にはまる可能性がある。その落とし穴とは、ズバリ応答速度だ。応答時間はストレージがI/O処理要求を受けてから、処理を完了するまでにかかる時間のことを指す。

 例えば、下記のように性能の異なるストレージA、Bがあった場合、どちらの製品の方が、より性能が高いといえるだろうか。

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