自動車開発に欠かせないCAE
コストはオンプレの10倍、それでもマツダが自動車開発にクラウドを検討したワケ(1/2 ページ)
大量のITリソースを用いる場合、クラウド利用はコストメリットに欠ける。だがオンプレミスだけに依存するとビジネス機会を損なう――そう判断したマツダは、リスクマネジメントできる範囲でクラウド利用を検討した。
今やそれ自体がコンピュータの塊のようになった自動車。その開発にはCAD(コンピュータ支援設計)など多くの技術が活用されている。計算量やデータ量が製造業の中でも桁違いに多いこと、商品開発にスピードが求められるようになったことから、コンピューティングリソースの柔軟な確保が課題に上がっている。そこでマツダは、従来スーパーコンピュータを大量投入してオンプレミスで行っていた演算の一部に「Amazon Web Services」(AWS)を導入し、その効果と課題について検証した。コストではオンプレミスに軍配が上がるとしながらも、今後クラウド活用を検討していくその理由からは、オンプレミスとクラウドの使い分けに関するヒントが見えた。
自動車開発に欠かせないCAEの演算のクラウド化をAWSで検証
マツダはAWSの年次カンファレンス「AWS Summit Tokyo 2017」において、「CAEクラウドによる大規模サンプリングを活用した次世代の車両開発のための最適設計手法の検討」というセッションを実施。同社の取り組みについて発表した。CAEとはComputer Aided Engineeringの略称で、コンピュータを使って製品の設計や製造を支援することだ。セッションではユーザーと管理者の双方が登壇し、それぞれの立場からクラウド活用の可能性について語った。先に登場したのは、ユーザーサイドであるマツダの技術研究所、先進ヒューマン・ビークル研究部門の小平剛央氏だ。
小平氏は最適化を用いた車両軽量化を研究している。大規模な並列計算によるシミュレーションを駆使して、軽量で高性能な車両を開発するのが仕事だ。「シミュレーションや統計がメインなのですが、個人的にはCAEは嫌いな方です」と話す。
CAEはあまり好きではないと言う小平氏だが、もちろんその重要性は十分に認識している。特に昨今の自動車開発で進んでいる「共通プラットフォーム化」(複数車種で共通の部品を使うこと)においては、共有すべき固定要素と車種別に開発すべき変動要素の最適配分を見極めなければならず、CAEの重要性は高まる一方だ。しかし自前で用意できるコンピューティングリソースには限りがある。
シミュレーションのため、マツダは社内に大量のスパコンを用意している。しかし最適化検討のシミュレーションでは多大なリソースを長時間占有してしまうので、いつでも使えるわけではない。「他の部門が使っていないタイミング、具体的には連休などの時間を使って演算をしていました」(小平氏)
長期連休、本来であればスパコンのメンテナンスをするタイミングに、メンテナンス時間を削って研究部門用の演算時間を確保していたと小平氏は説明する。しかしこの方法では演算実施は年に数回、しかもタイミングが限られてしまう。そこで目を付けたのがクラウドだった。必要なときに必要なだけのリソースを、すぐに用意できる。小平氏らは、早速AWSを最適化検討に取り入れる実証実験をした。
具体的には、材質αと材質βを使ったフレームの強度と軽さの最適解を求めるシミュレーションをした。1200サンプルをシミュレーションにかけ、その中から材質αと材質βの最適な組み合わせ方を見つけ出した。
演算にかかった時間は約1カ月。ソルバー(方程式を解くためのプログラム)単体をAWSで実行し、出力した40TBのデータをダウンロードして社内のポストプロセッサ(ソルバーの計算結果を可視化するソフトウェア)で処理をしたとのこと。ユーザーがクラウドの知識を持つことで、より柔軟にコンピューティングリソースを確保、活用していけるのではないかと小平氏は語る。
コストメリットでは断然オンプレミス、それでもクラウドを検討する理由
セッション後半を担当したのは、マツダのITソリューション本部、エンジニアリングシステム部の鐡本(てつもと)雄一氏。ITを利用する側ではなく、社内にITリソースを提供して管理する側の立場だ。小平氏とは違い、CAEは割と好きな方だと言う。
「CAEは好きですが、クラウドに適用するのは慎重にならなければと思っています。2015年度12月の時点では、オンプレミスに対して10倍以上のコストがかかっていたからです」(鐵本氏)
AWSは安いという印象があるが、それはあくまでも必要なときに必要なだけ使えるからだ。マツダのようにリソースをフルに使い切っても、なお足りないというほどの規模、使用率となれば話は大きく変わってくる。AWSに限らず従量課金のクラウドサービスは、利用規模が大きくなるほどコストが高くなる。マツダは2006年から2015年までに社内のコンピューティングリソースを200倍にしたというほど、スパコン増強を続けてきた。演算量もそれに見合う規模であり、自社で所有する方が、コストメリットが大きいのは明白なレベルだった。
「今後もCAEに依存する部分は増えていくだろうし、スパコンの増強も続けていく予定です」と鐵本氏は語る。ではなぜクラウドの採用を検討したのか。それは「オンプレミスでは解決できない課題があったから」(同氏)だ。
オンプレミスで解決できない課題とは、突発ニーズへの対応だ。発注から稼働まで約6カ月を要するというスパコンの増強。年次計画を立てて増強を続けているものの、急なニーズに対応できずにいた。コンピューティングリソース不足が新車開発の足を引っ張るようなことがあってはならない。かといって、ピーク時を想定して過剰な投資をするわけにもいかない。そこでクラウドを検討したのだという。
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