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「ITバブル崩壊」の悪夢は再来するのか? 歴史が教える“AI敗者”の条件AIバブルは崩壊するのか【後編】

現在のAIブームは、過去の「ドットコムバブル」(ITバブル)と酷似している。バブルが弾けたとき、自社が利用中のAIツールを無価値な「負債」にしないためには。歴史の教訓から、生き残る技術を見極める。

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人工知能 | ROI | IT投資 | 経営


 AI(人工知能)チャットbot「ChatGPT」の登場に端を発する「AIブーム」に伴って、NVIDIAやOpenAIなど、AI関連企業への投資が熱狂している。これを受けて「AIバブルは間もなく崩壊する」との見方がある。過熱した期待と実需のギャップが広がる現状は、かつてインターネット黎明(れいめい)期に起きた「ドットコムバブル」(「ITバブル」とも)をほうふつとさせる。

 だが歴史を振り返れば、バブル崩壊は必ずしも「技術の死」を意味しない。ドットコムバブルが弾けた後もインターネットは残り、社会インフラとして定着した。ではAI技術は破滅の道をたどるのか。それとも新たな社会インフラとして定着するのか。バブル発生のメカニズムを解説するとともに、過去の歴史から得られる教訓と比較する。もしバブルが弾けたとき、何が残り、何が消えるのか。専門家の分析と過去のデータから、ITリーダーが持つべき「長期的な視座」を提示する。

なぜ「AIはバブルだ」と言われるのか

 バブルとは、資産価格がその企業の「実力」(本質的価値)をはるかに超えて高騰した状態を指す。株価のバブルを引き起こすのは、成長に対する過剰な楽観論だ。「今の株価は高過ぎるが、将来の可能性を考えれば妥当だ」――こうした「実力は当てにならない」という思い込みが、熱狂を加速させる。

 厄介なのは、それがバブルかどうかは、弾けて株価が暴落した後にしか分からない点だ。ドットコムバブル、「住宅バブル」「暗号資産バブル」などが過去に見られた。これらのバブルに共通するのは、資産価格の急激な上昇と、それに続く突然の劇的な崩壊だ。市場による価値の認識と、根底にある経済的現実の乖離(かいり)がある。

何がAIバブルを崩壊させるのか

 AIバブル崩壊の引き金になり得る要因として、以下の点が考えられる。

  • 持続不可能なバリュエーション(企業価値評価)
    • 過大評価されたAI企業が、その高い株価を正当化できるだけの収益や成長ポテンシャルを持っていない可能性がある。
  • 収益性の高い収入源の欠如
    • 大半のAIベンダーは、自社が投じた開発やインフラへの投資に見合うだけの収益成長を実証できていない。明確な収益化(マネタイズ)の道筋がないままでは、これ以上支出を続けることは経営的に不可能になる。
  • 規制面の課題
    • AI技術の安全性、倫理、データプライバシーに関する監視と規制の強化は、AI技術開発の勢いを削ぎ、企業価値に影響を与える可能性がある。
  • 景気後退
    • 広範な経済の悪化は、AI技術への投資の縮小を招き、株価下落に拍車を掛ける恐れがある。

 実際にAIバブルが起きるかどうかについては、意見が分かれている。

 「市場全体をひとくくりに語るのは難しいが、バブルの状態にあるとは思わない」と、ビジネスアドバイザリー企業Embarc Advisorsの創設者兼マネージングパートナーであるジェイ・ジャン氏は語る。その理由として、バリュエーションに多少の割高感はあるものの、将来の成長期待と大きく懸け離れているわけではない点を同氏は挙げる。

 調査会社Gartnerのバイスプレジデント兼アナリストであるチラグ・デカテ氏は、AI市場に「バブル崩壊」という例えを使うのは正確ではないと指摘する。その考え方自体が誤りであるという見解だ。

 デカテ氏は、一部の投資家やユーザー企業が、AI技術の複雑さや投資回収にかかる期間を甘く見ていたと指摘する。「実態と懸け離れた高い期待が、ようやく現実に引き戻された。その落差が激しいため、バブルとして認識されている」と同氏は付け加える。

ドットコムバブルとの比較

 IT分野でのバブルの中でも著名な例がドットコムバブルだ。

 ドットコムバブルは、ソフトウェアベンダーNetscape Communicationsが1995年に台頭するのと同時に膨張し始め、2000年にピークを迎え、2002年までに崩壊した。一部の金融専門家は、当時の状況と現在のAIブームを重ね合わせ、警鐘を鳴らしている。

 ジャン氏は、当時と現在には決定的な違いがあると言う。それは、ドットコムバブル期の高いバリュエーションは将来のキャッシュフロー(企業が実際に生み出す現金収支)に裏打ちされておらず、ほとんどの企業が明確なビジネスモデルを欠いていたことだ。「バリュエーションは将来のキャッシュフローに基づいていなければならない」と同氏は語る。

 ジャン氏の見解では、NVIDIA、Meta Platforms、Google、Microsoftといった今日の主要なAIベンダーは、すでに明確な収益化の道筋がある。ただし、非公開市場のスタートアップ(新興企業)については懸念を示す。参入障壁が低く、収益化の道筋が不明確なまま評価額が高騰している点は、ドットコムバブル期のスタートアップと類似しているという。AI分野のスタートアップは、バブルに近づいている可能性があると同氏はみる。

 調査会社Deep Analysisの創業者兼プリンシパルアナリストであるアラン・ペルツシャープ氏は、AIバブルとドットコムバブルの間に複数の類似点を見いだしている。同氏は、ドットコムバブル期の破綻の根本原因は、無謀なソフトウェアスタートアップの乱立というよりも、来るべきインターネット時代に向けたインフラ(通信ネットワーク)構築への過剰投資と、それに対する非現実的なリターンの期待にあった。

 「AIバブルが弾けても、構築されたインフラ(GPUとデータセンター)は残り、誰かがその上で次のインフラを構築するだろう。AI技術そのものが消えることはないが、投資に見合う用例が何なのかという問いに対する『正解』にたどり着くには、痛みを伴った教訓を経る必要がある」(ペルツシャープ氏)

 ペルツシャープ氏は、ドットコムバブルの崩壊はIT業界の再編や再構築を強制した点に触れる。これは痛みを伴う残酷なプロセスだったが、必要な「通過儀礼」でもあった。ほとんどのインターネット関連企業、特にスタートアップは淘汰(とうた)されたが、中堅・大手のITベンダーはイノベーションと成長を続けた。

 「技術が急速に進歩したからといって、企業への導入も急速に進むとは限らない」とペルツシャープ氏は締めくくる。業務プロセスの見直し、既存システムの技術的負債への対処、ビジネスケースの構築など、やるべきことは山積みで、それらを実施するには時間がかかる。同氏は次のように見通しを示す。「AI技術はエンタープライズソフトウェアの中核になると考えられるが、初期投資に対するリターンを得るには、投資家が想像していたよりも長い時間がかかる可能性がある」

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