「壊さず変える」で進めた情シス改革 岩塚製菓 情報システム、DXリーダー 関 隆志氏に聞く:情シスキャリアをアップデートする【第5回】
岩塚製菓の関 隆志氏は、レガシーなITインフラを基盤とする社内システムの中で試行錯誤を繰り返してきた結果、情報システム部門の変革とDXの推進をけん引する立場にある。何に注力し、逆に何を「しなかった」のか。
連載:情シスキャリアをアップデートする
情報システム部員は、日々の運用・問い合わせ・トラブル対応といった"目の前の業務"に追われがちだ。その中でも、評価され、次の役割を任されている人もいる。そのような人は、何をしてきたのか? 逆に何を「やらない」と決めてきたのか? この視点から、評価される情シスになるための、業務の取捨選択や判断軸を整理する。
企業が歴史を重ねる中で、これまでの業務やシステムが蓄積され、結果として現在の環境との調整が求められるケースも少なくない。こうした状況に対応し、時代の変化に適応していくために、多くの企業はシステム刷新やDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む。一方で、情報システム部門(以下、情シス)は「守り」と「攻め」のはざまで判断に迷い、変革が進まないケースもある。
岩塚製菓で20年以上にわたり改革を推進してきた、同社情報システム部部長兼DX推進室室長の関 隆志氏は、この壁を「やること」と「やらないこと」を両立させることで乗り越えてきた。本稿では、「守りの情シス」を「攻めの組織」に変える中で、関氏が「やらないこと」「やらなかったこと」を紹介する。
「完璧な合意形成」はしない
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連載:情シスキャリアをアップデートする
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2003年に入社した関氏は、製造現場の理解を深めるために1年間の工場勤務を経験。その後、情報システム部へ配属される。当時の社内システムは汎用(はんよう)機によるスクラッチ開発が主流で、仕様書の整備や管理体制は不十分な状態だった。メンテナンスも属人化していたという。
そのような体制に改革の必要性を感じたという関氏。しかし、ベテランの社員で構成されている同部門で、若手として大きな変革に踏み出すのは難しい状況だった。
そこで関氏がまず着手したのは、ウイングアーク1stが提供するデータ分析基盤「Dr.Sum」の導入だった。社内の理解を得るため、既存のシステムを変更するのではなく、データを活用する形での改善を目指した。その功績が認められ、財務会計、人事・給与、勤怠などのパッケージソフトを順次導入していった。
既存の体制を尊重しながら、手堅く推進していたシステム改革だったが、情報システム部を長年支えてきた社員からの懸念もあったという。
「長年の経験からの意向は理解できます。しかし、目まぐるしく変化するIT領域に対応していくためには、組織の姿勢を『守り』から『攻め』に転じる必要がありました。変化に前向きな組織にするため、上司などに掛け合い、数年かけて組織変革を進めました」(関氏)
全ての合意を待つのではなく、変革を前提に組織を動かす。この判断が、停滞を打破する転機となった。
「守りだけの情シス」にとどまらない
岩塚製菓が最初にDXに取り組んだ際は、情報システム部が推進を主導していた。社員へのデジタル教育を実施し、社内での評判や成果も上々だった。しかし、情報システム部の業務負担は増加し、継続が困難な状況になったことから、DX推進室が新設された。
「別部門がDXを推進しても、導入した新しいシステムを把握し、管理するのは情報システム部です。連携におけるコミュニケーションコストや、業務遅滞のリスクなどを考えると、同一部門内で推進できるのがベストだと考えましたが、業務範囲の拡大に対応するための体制作りが、十分とは言えない状態でした」(関氏)
DX推進委員会やDX推進プロジェクトとして設置する案もあったが、部門別に策定される予算と人員を確保するために独立組織として設立させたという。情報システム部とDX推進室で明確に役割を分離しながらも、関氏が両部の責任者を兼任することでスムーズな連携を図っている。
DX推進室のメンバーは、現場経験を重視して選ばれた。データベースの設計など、ITに関する知識は情報システム部がフォローする体制だ。
DXは業務効率化やイノベーションを促進する一方、セキュリティリスクも伴う。そのため、DXの推進に慎重な姿勢を示す情シスも少なくない。この点について関氏は、「企業のシステムを守る部署から、システムで会社を発展させる部署へ変化していく必要があります。情シスの存在意義は変わりませんが、人員や予算の確保を希望するのであれば、一歩踏み出すことが大切です」と語る。
「全てを理解してもらうこと」をしない
予算の策定においても、コミュニケーションは重要な要素だ。
「本来、情シスはしっかりと予算を取れる部門だと考えています。お金や時間といった企業のリソースを充当してもらうためには、十分なコミュニケーションが必要という考えです。情シスへの予算を、単なる経費ではなく投資として捉えてもらうためには、説明の機会を増やすことが重要です。社内のさまざまな会議にも積極的に出席して説明の機会を作ってきました」(関氏)
ただし、心得ておきたいのは「全てを理解してもらおうとしないこと」だと関氏は話す。システムの導入といった施策に対する費用対効果やリスクなどの情報は経営層も理解しやすい。一方、情シスと同等のITの知識が必要な内容を平易な言葉で伝えようとするのは手間がかかる。説明する側も、される側も負担が大きい。そこで、日頃のコミュニケーションと実績で信頼を積み上げておくことが重要になる。
関氏は、周囲の信頼を獲得する効果的な手段として「現場に行かなければ拾えない小さな困りごと」の解決を挙げる。情シスにとっては簡単に解決できるトラブルでも、現場にとっては想像以上に大きな悩みであることが少なくない。改善を諦めていた困りごとを拾い上げ、先回りして解決し、分かりやすい成果をもたらす。その蓄積が情シスに対する肯定的な印象を醸成し、未経験の施策であっても「信じて任せておけば間違いない」という、投資に値する信頼へとつながる。
信頼を生んだのは「やらないこと」ではなく「積み重ね」
入社以来、システム改革、組織改革、DX推進など数々の実績を積み、着実に実施してきた関氏。その原動力は「社内の経営層・現場とのコミュニケーションや、社外とのつながり」だという。
関氏が入社した当時、情シスの20代の社員は珍しい存在だったという。若手として各部門へ足しげく通い、「PCが壊れた」「マクロを書いてほしい」といった依頼にも、関氏は迅速かつ真摯に対応した。社内のITインフラを支える情シスは、経営層とも関わる機会が多い。関氏は当時の自分を「御用聞き」と振り返るが、その頃のコミュニケーションで築かれた信頼関係は、改革への後押しとなった。
「現場に直接出向いたからこそ拾える課題、築ける関係性があります。情シスの業務はPCがあればさまざまな場所で遂行できます。積極的に外に出て各部署とコミュニケーションを取ることが、情シスとしての成果、成長につながっていくと考えています」(関氏)
関氏は、ウイングアーク1stが主宰するユーザーコミュニティ「nest」で新潟県を中心とする信越エリアのリーダーを務めている。社外との交流から他社の課題を学び、自社の立ち位置を客観視することは、変革への原動力となった。
企業規模や組織体制は違っても「情シスの悩みは似通っている」と関氏は言う。悩みや情報を共有しながら他社の取り組みを学び、自社の現在地を自覚し、自身が取り組むべき課題を明確にできるコミュニティは、関氏の功績を支えている。
情シスの価値を、まずは自分が認識する
DXは、情シスが攻めに転じるチャンスであり、企業へ貢献するための手段でもある。「守りに徹する情シスは、危機感を持つべき」と関氏は言う。企業のシステムを守るのは大前提であり、重要な業務だ。しかし、情シスとして評価され、社内での価値を高めていくには、情報をキャッチアップし、適切に変化していく必要がある。
「情シスがもたらす成果は可視化しにくい、評価されにくいものもあります。しかし、企業にとって不可欠な存在です。守りから攻めへ転じるきっかけをつかめず悩んでいる情シス担当者は、まず『企業の根幹を支えている』という事実に対して自信を持ってほしいですね」(関氏)
ITを最も理解している部門としての自負を持ち、勇気を持って経営や現場へ一歩踏み出すことが、情シスの存在意義と社内価値を高める鍵となる。
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