ベテランCTOに聞く
データベース管理者は消える? AIが強いる職務再編、カギは「ビルダー」台頭
AI導入で成果が出ない企業は、技術ではなく組織構造に課題がある。従来の職能が統合され「ビルダー」へと進化する中、旧態依然とした調達プロセスはもはや通用しない。高額な従量課金や「請求書ショック」のリスクを回避し、真のROIをたたき出すために情シスが今すぐ見直すべき、意思決定とガバナンスのポイントを明かす。
進行中のAIによる変革は、企業のあらゆる側面に根本的な変化をもたらしている。しかし、この変革はまだ初期段階にすぎない。企業は新しい役割やプロセス、そして増大するコストという課題に向き合う必要がある。
Checksum.aiのCTO(最高技術責任者)で、Super{set}のゼネラルパートナーを務めるピーター・デイ氏は、機械学習とAIのベテランだ。同氏はリバプール大学で機械学習の博士号を取得後、UBS投資銀行を経て、現在はサンフランシスコを拠点とするデータ・AIベンチャーのSuper{set}に身を置いている。
2026年5月4日から5日にかけてニューヨークで開催された「AI Agent Conference 2026」で、同氏にインタビューを実施した。組織にAI変革が根付く中で、CIO(最高情報責任者)が考慮すべき難解な課題について話を聞いた。
※編集注:以下のインタビュー記録は、読みやすさを考慮して要約・編集されている。
AI導入のROIの難しさ
―― AIは革新的な技術といわれるが、多くの企業がROI(投資対効果)の実現に苦労している。なぜか?
ピーター・デイ シリコンバレーで過去20年間に学んできた技術企業の構築手法を、多く捨て去らなければならないからだ。企業リーダーたちは今、不安を感じている。取締役会や従業員からAI導入を強く迫られ、GeminiやClaudeを導入して適性評価を行う。だが、期待したリターンは得られない。
AIは「誰が何を行うか」や「意思決定がどのようになされるか」を変える技術だ。単にサブスクリプションを契約するよりも、組織を変えることの方がはるかに難しい。これまでは、製品マネジャーやエンジニア、データベース管理者といった専門職を置いて組織を構築してきた。だが今のAI企業には、そうした役割はない。
現在の役割は「ビルダー」だ。彼らは問題を理解し、自ら解決策を構築して運用し、その成果を確認することが求められる。個人の裁量と自律性はかつてないほど高まっているが、意思決定の所在は少し混乱している状況だ。
AI導入の障壁は技術か組織か
―― 企業が直面している課題は、主に技術的な問題か、それとも組織的なビジネスの問題か?
デイ 現時点では混在しているが、基本的には技術の問題ではない。多くの企業は初期段階で、これをIT部門に予算を割り当てれば解決できる技術課題だと誤認した。これはインターネット革命が起きた際のブロックバスターと同じだ。
彼らは技術に巨額を投じたが、インターネット企業が意思決定の主体やスピードを根底から変えることに気付かなかった。結果として、意思決定の仕組みが異なるNetflixのような企業に完全に追い抜かれてしまったのだ。
現在、一部の企業で同じ過ちが繰り返されている。ある大手コンサルティング企業はAIインフラに数億ドルを投じたが、最前線のコンサルタントには恩恵が届かなかった。AIを導入して財務プロセスを迅速化したいなら、IT部門に頼るのではなく、業務を深く理解した優秀な人材を見つけるべきだ。彼らにインセンティブを与え、2週間かかる月次決算を2日で終わらせる方法を考えさせる方が、AI技術のROIははるかに高くなる。
AIが浸透する領域と役割の変化
―― AIは企業のどこに組み込まれ、どのような役割を担うようになるのか?
デイ 現時点での最先端はソフトウェアエンジニアリングだ。コーディングエージェントの導入は、あらゆる職務の未来を予見させている。かつてはフロントエンドやバックエンドで分かれていたが、今後は「ビルダー」という1つの役割に集約されるだろう。
ビルダーには、コードを書くだけでなく、コーディングエージェントを指揮する能力も求められる。システムを設計しつつ、人間が使える解決策を構築できなければならない。同様の変化は営業部門でも起きるだろう。
これまでは営業支援や製品マーケティング、アカウントエグゼクティブなどの役割が分かれていた。だがこれからは、1人の担当者がAI技術を駆使して、フォローアップの自動化から会議の記録、さらにはCFOへのメール作成までをこなすようになる。これらを少しずつ、全て実行できる人が勝者となるはずだ。
AIは雇用を奪うのか
―― 昨今のテック業界のレイオフ(一時解雇)はAIのせいなのか。今後、さらに仕事が奪われるのか?
デイ 企業が確実に制御できるのはコストだけだ。ROIを証明する最も簡単な方法はコスト削減である。コスト削減によってAIの価値を示そうとする動きは避けられない。
例えば、Super{set}の関連企業にソフトウェアの自動テストを行う会社がある。そこでは以前40人が従事していた業務を、現在はAIが完全に自動化している。ただし、その40人全員が解雇されたわけではない。多くはエージェントを使いこなして新しい解決策を構築するエンジニアへと役割を変えた。役割そのものが変化していくのだ。
CIOが考慮すべき新たなガバナンス
―― CIOが変革に取り組む上で考慮すべき重要な事項は何か?
デイ 今後数年間は非常に混乱した状況になるだろう。ソフトウェアの購入方法が変わりつつあるからだ。かつてはCIO組織を通じ、調達主導で時間をかけて意思決定を行っていた。だがAIは、個々の担当者が自ら技術を導入することを可能にしている。変化が速すぎるため、意思決定を遅らせることは得策ではない。
また、課金体系もトークンベースに移行している。これは企業にとって導入リスクを抑える一方で、請求額が予測外に膨らむ「請求書ショック」を招く可能性がある。CIOとCFO(最高財務責任者)は、どの技術がどれだけ使われ、どのような価値を生んでいるかを注視しなければならない。導入状況を把握し、コストを統合的かつ予測可能なものへと管理していく必要がある。
AI変革に伴うコストの真実
―― 企業は変革にかかるコストを十分に理解しているか?
デイ いいや、理解しているとはいえない。LLM(大規模言語モデル)は、従来のクラウドインフラに比べて非常に高価だ。LLMの運用は、ソリューション提供の最大のコスト要因になる。
API経由で利用する場合も、その上で独自のソフトウェアを構築する場合も、全てが従量課金となる。現在はテスト用の予算があるため問題になりにくいが、数年以内にはコストの問題に答えを出さなければならなくなるだろう。
AIが導く未来の姿
―― まだ初期段階だが、今後の展開をどう予測するか?
デイ LLMを活用した次世代のUI(ユーザーインタフェース)がどのような姿になるか、模索が続いている。価格モデルや収益性、そして人間の役割についても多くの疑問が残っている。
1つ確かなのは、ソフトウェアが遍在し、人間が自然な言葉で対話できるようになることだ。ソフトウェアは私たちに仕事を与えるのではなく、タスクを肩代わりしてくれる存在になる。その時期や正確な形を予測するのは難しいが、そのような未来が来ることは避けられないだろう。
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