あるプロジェクトマネジャーの“つぶやき”【第3回】
Windows 7のリリースに見る「システムリプレースの難しさ」
Vistaの反省を生かしたといわれる「Windows 7」。そこにはシステムのアップグレードや移行を実施する際に参考となる点があるかもしれない。今回は、システムの仕様変更や移行時の注意点を考えてみる。
Windows XPが使い続けられている現状は「対岸の火事」ではない
2009年10月に発売された「Windows 7」を既に使用されている方も多いのではないでしょうか? 「Windows 7の販売本数、初速はVistaの234%――米NPD調査」と報道されたように、好調なスタートだといえるでしょう。わたしの自宅PCはVistaですが、Windows 7へのアップグレードを思案中です。
Windows 7へのアップグレードの理由として、「パフォーマンスの改善」やユーザーインタフェース(UI)の変更による「使い勝手の向上」を期待するユーザーもいるでしょう。
しかしながら、あくまで私見ですが「それでもWindows XPでいい」と考え、移行しないユーザーも多いのではと思います。Windows XPは2014年にその延長サポートが終了する予定ですが、そのユーザーはいまだに多く存在します。Windows XPが使い続けられる理由には「現状に満足しているので、変更する必要がない」「お金を掛けるほどではない」「新しいOSで何ができるのかよく分からない」などがあると推測します。
こうしたユーザーの意識はマイクロソフトだけの問題ではなく、プロジェクトマネジャーであるわたしにとっては「対岸の火事」とは思えない深刻な問題です。なぜなら、わたしたちがシステムをリリースする際に、同様の問題に取り組まなければならない場合があるからです。
「以前の方が良かった」という不本意なユーザー評価
既存のシステムに新規で追加される機能やサービスであれば、既存システムはそのままの形で残ることになるため、ユーザーは「使うか使わないかの選択が可能」なので問題ありません。気に入らなければ使わないでしょうし、それが有用な機能であれば勉強してでも使いたいと考えるでしょう。
問題は「既存サービス自体のリプレースや、大幅なサービス仕様の変更がある場合」です。ここでは「システムリプレース」という言葉の方がピンとくる人も多いでしょうか。システムのリプレースでは、エンドユーザーが使い慣れた既存の機能を盛り込んだ上で新しいサービスや機能を提供するシステムであればよいのでしょうが、実際にはなかなかそうもいきません。
システムを提供する側としては「ユーザーの要求を満たし、かつ業務の変更要件を反映させたことで、以前のシステムよりも改善されている」と考えるわけですが、エンドユーザーからは「以前(のシステム)の方が良かった」といわれてしまうこともあります。
では、なぜこのような不本意な評価をされることになるのでしょうか。1つは「事前の分析が不十分であった」という点でしょう。さらに「十分に業務分析をしていたとしても、それがユーザー要求を反映できていなかった」という場合も考えられます。
エンドユーザーの声をより反映させるためには
その解決策としては、アジャイル開発で提案されるような「ユーザーを交えたレビューをまめに開催する」策が最も効果的でしょう。実際のエンドユーザーに確認してもらえれば、「ユーザー要求を反映させたシステムの変更になっているか」がすぐに分かります。これ以上分かりやすいレビューはありません。
しかし、実際にはユーザーレビューの実施が難しい場合があります。例えば「個人向けのサービスだったり、β版としてのリリースが難しい環境だったりする」などが該当します。当社の場合、「実際のシステム稼働では外部機関との連携が必要になったり、お金の移動が発生する」などの理由からユーザーに簡単に確認してもらうわけにはいきません。そのため、ユーザーになり替わり「わたし自身がユーザーの立場になって、機能面や画面レイアウトなどをレビューする」という必要があります。
このとき、実際のシステム移行時にユーザーから「以前の方が良かった」といわれないように、以下の点に気を付けたレビューを行っています。
- 以前のシステムでユーザーが頻繁に使用していた機能がなくなっていたりしないか。また、その場合はユーザーに回避手段や代替手段などを提供しているか
- サービス仕様が既存システムを上回るものになっているか
- 既存システムと比べて、ユーザーの使い勝手が悪くなってはいないか。(ユーザーの使用感として)パフォーマンスが劣化していないか
- 現行システムの機能やサービスについて、ユーザーからの要望・苦情はあったか。また、それらの仕様変更についてユーザーからの理解を得られるものになっているか
- 「完成イメージ」をプロジェクトメンバーと共有できているか。また、ほかのメンバーに相談するなど、常に第三者としての新しい視点を持ち続けているか
上記の項目は“わたし自身が気を付けている”というよりも、正確にはまだ“気を付けたい”というレベルのものかもしれません。やはり、仕様を考えているときは「あくまで開発側の人間であり、利用者ユーザーにはなり得えない」からです。
また、プロジェクトマネジャーであるわたしは「コストがどの程度掛かるか」ということも頭に浮かんできます。それ自体悪いことではなく、プロジェクトマネジャーとして常に配慮しておくべきものだと思っています。しかし、その部分に固執しすぎると「完成したシステムがサービスとして一歩足りないものになる」危険性もあります。
その理由は「プロジェクトマネジャーが、開発コストが多く掛かることや完成するために必要な作業量が大きいことを嫌う」からです。また、「こう変更した方がユーザーにとっては良いことかもしれない」というような判断に悩むことは多々ありますが、わたしの職務上、「コストとのバランスを見て総合的に判断する」ことがとても重要になるからです。とはいっても、システムの開発側として「ユーザー要求を可能な限り実現する」ことも重要です。その場合には「“システム開発者またはプロジェクトマネジャーとしての自分”と“ユーザーの立場にある自分”を上手く切り替える」ことが、バランスの取れた判断をするための助けになるとも考えています。
ユーザーからの評価は素直にウレシイ
もちろん苦労して完成させたシステムですから、ユーザーからの称賛の声や高い評価を得たいものです。しかし「ほんのわずかな修正で喜ばれることもあれば、ものすごく苦労したリプレースでも予想していた評価を得ることができなかった」こともあり、なかなか思うようにはいきません。このあたりに「システム開発に従事する」面白みがあるのかもしれません。しかし、映画やゲームなどのエンドロールのクレジットや最近スーパーでよく見掛ける“生産者表示”が付いている商品のように「システムを開発した裏方たちの存在を、少しでもいいからユーザーに伝えられれば」とも考えたりします。そう思うのは、わたしだけでしょうか。
ところで、わたしは「Windows にデフォルトで搭載されている壁紙は、昔から味があるというか、見ていて飽きのこないものばかりだ」と思います。そんなわたしにとって、「Windowsのバージョンアップとは、Windowsの壁紙が変わることとイコールだ」というイメージもあります。エンドユーザーにとって、見た目の良い壁紙を提供することも“システムリプレースの重要な機能改善の1つ”といえるのではないでしょうか。
<筆者紹介>
小崎敬介(こさき けいすけ)
カブドットコム証券株式会社システム本部システム統括部システム開発課
2005年カブドットコム証券株式会入社。広島県出身。オンライン証券取引システムの設計開発運用業務に従事。主に発注系システムを担当する。座右の銘は、「『負けました』と言って頭を下げるのが正しい投了の仕方」(棋士:谷川浩司)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣 -
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
2
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
3
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
4
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
5
「中堅・中小企業のネットワーク・セキュリティ運用実態」に関するアンケート
-
6
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
7
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
8
情報漏えいはなぜ繰り返されるのか 今すぐ見直すべき「境界」
-
9
情シスの約8割が転職や退職を意識 調査で分かった“辞めたくなる最大の理由”
-
10
【漫画付き】ひとり情シス協会が明かす、RAG導入でしくじる企業「2つの共通点」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
4
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
5
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
6
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
9
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー