オープンソースの「クラウド基盤ソフトウェア」を比較する【第1回】
機能を徹底比較! ~Eucalyptus、CloudStack、OpenStack
IaaSを構築するための「クラウド基盤ソフトウェア」は、Amazon Web Services登場以来、数多くの製品が開発されている。今回はその中でもオープンソースで知名度の高い3つのプロジェクトを比較する。
「クラウド基盤ソフトウェア」の基本機能とは
まずは比較を行う前に、「クラウド基盤ソフトウェア」が提供する共通の機能について見てみよう。クラウド基盤ソフトウェアは以下のような機能を備えている。
サーバ管理
サーバ管理とは、利用者がWebインタフェースやWeb APIなどを通じて仮想サーバの作成、起動、停止、削除などの操作を行うことができる機能を指す。ここでいうサーバとは、コンピュータのCPUとメモリ、HDD(ブートデバイス)の組み合わせであり、Amazon Web Services(AWS)の「Elastic Block Store(EBS)」からブートした「Elastic Compute Cloud(EC2)」の「インスタンス」に相当する。LinuxやWindowsなどのマシンイメージから用途に応じたスペックの仮想サーバを作成することができ、設定を変更した状態をカスタマイズイメージとして保存することも可能だ。不要となり削除されたサーバはリソースプールに戻り、再利用される。
ストレージ管理
仮想サーバのブートデバイスとは別に追加容量が必要な場合は、新たにボリュームを追加することができる。仮想サーバに取り付けたボリュームは、物理的なHDDのようにブロックデバイスとして使用できるため、フォーマットやパーティションの作成、別のサーバへの取り付けも自由に行うことができる。
また、昨今ではAWSの「Simple Storage Service(S3)」のようにオブジェクトストレージと呼ばれる分散ファイルシステムを取り入れたストレージ機能を有しているものも多い。Webインタフェース経由でマシンイメージをアップロードしたり、バックアップデータの保存先として使用でき、アップロードしたイメージから仮想サーバを作成することもできる。このストレージはHTTP接続が可能なため、仮想サーバだけでなく外部からのアクセスも可能だ。
ネットワーク管理
仮想サーバにはグローバルIPアドレスを付与し、外部との通信ができる。これはAWSのElasticIPに相当し、グローバルIPアドレスを別のサーバに割り当てることもできるため、サーバの移行時もIPアドレスを変えることなく瞬時に切り替えが可能だ。またグローバルIPとは別に、仮想サーバにはプライベートIPアドレスが付与されるため、サーバ間でのセキュアな通信を確保できる。
セキュリティ管理
仮想サーバは外部からアクセスが可能となるため、攻撃や改ざんを防ぐためには特定の条件にて通信をフィルタリングする必要がある。AWSでは「セキュリティグループ」機能がこれに該当し、利用者がWebインタフェースを使用して開放するポートや送信元のIPアドレスなどの設定を行い、許可しない通信を遮断することができる。
仮想サーバへの認証機能としては、ログインの際のパスワードや鍵を管理する機能が実装されている。
その他
上記の他に、スナップショットやロードバランサを組み込んでいたり、モニタリングや監視機能を有するものも増えてきている。
またWeb APIを利用するプラグインや専用のツールもさまざまなものが展開されている。
「クラウド基盤ソフトウェア」を比較する
以上の機能を実現するために、今回紹介する3つのプロジェクトがどのような経緯で誕生し、どういったコンセプトに基づき開発が進められているのか、またどんなコンポーネントで構成されているのかなどを解説していく。
AWSと完全互換! 「Eucalyptus」
Eucalyptusは、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究プロジェクトとして誕生し、現在はその開発者らにより設立された米Eucalyptus Systemsによって管理および運営が行われている。
もともと、AWSと同様の環境を学内クラウドとして作ることを目的に開発されたため、課金システムやモニタリングなどを除いてはAWS EC2と完全に互換性のあるAPIを備えており、AWSと同様の環境をオープンな技術で構築できることが強みだ。
EC2の仮想サーバのイメージ「Amazon Machine Image(AMI)」は変換せずにそのままEucalyptus上で動作するため、AWSで作成したAMIを用いてプライベート環境でサーバを起動したり、プライベート環境で構築したサーバのイメージをAWSのパブリック環境で使用できる。
また、米RightScaleの「RightScale」などのクラウド管理ツールと連携させることによって、AWSとのハイブリッド環境を容易に構築することも可能だ。
Eucalyptusは、図1のようなコンポーネントで構成される。
Eucalyptusは今回比較する3つのソフトウェアの中で最も歴史が古く、最も導入事例数の多いプロジェクトである。かつては冗長性やスケーラビリティの面で商用利用には十分でないといった見方もあったが、Eucalyptusの商用版ではひと足速くコンポーネント障害時の自動復旧機能などを実装したバージョン3.0がリリースされ、今後の動向に期待が高まっている。
新体制で心機一転! 「CloudStack」
CloudStackは、旧サン・マイクロシステムズの開発責任者らが設立した米VMOpsにより開発され、2010年5月にCloudStack 2.0のCommunityエディションとしてオープンソース化された。オープンソース化とともにVMOpsは社名を米Cloud.comに変更したが、2011年7月に米Citrix SystemsがCloud.comを買収、その後コミュニティー版と商用版の2つのリポジトリが統合され完全なオープンソースソフトウェアとなった。
最近のニュースとしては、2012年4月3日にCitrix SystemsがCloudStackをApache Software Foundation(ASF)に寄贈し、CloudStackプロジェクトをより拡大していく方針を示していることがある。
CloudStackの最大の特徴は、安定した機能と操作性の高いWebインタフェースを提供していることだ。NTTコミュニケーションズなどのクラウドサービス事業者や、米Zynga、韓国Korea Telecomなどエンタープライズ分野で数多く導入されている(関連記事:CloudStackを導入したZyngaの事例と北米クラウド最新動向)。
CloudStackは図2のようなコンポーネントで構成される。
CloudStackはグラフィカルなWebインタフェースを有しており、WebブラウザからVNC(Virtual Network Computing)のリモートコンソールが利用できるため、設定誤りなどでリモート接続ができなくなった際にも便利だ。
また、「アカウント」と呼ばれるユーザーグループ単位に仮想ルータが構築され、ソフトウェアロードバランサやVPN機能を標準実装している点も大きな特徴である。
ユーザー管理機能は、商用目的としてクラウド事業者が再販用に切り出すことを想定して設計されており、新しいバージョン3.0からはさらに複雑な管理も可能となっている。
待望の新バージョン登場! 「OpenStack」
OpenStackは、米NASA(アメリカ航空宇宙局)の独自クラウド基盤である「Nebula」が発端となっている。
NASAは当初、巨大なインフラ上でデータ処理や画像配信を行うためのクラウド基盤としてEC2互換であるEucalyptusをベースにシステムを構築していた。しかし、スケーラビリティの問題や完全なオープンソースではないといった理由により独自で開発を行うことを決め、同時期にクラウドファイルシステムの開発を行っていたRackspaceと共同で開発することを発表した。
2010年3月、Rackspaceは自社で使用している「CloudFiles」というストレージサービスの管理用ソフトウェアのベースを「Swift」という名称で公開、また2010年5月にNASAは「Nebula」を「Nova」という名称で公開した。これがOpenStackプロジェクトの始まりである。
OpenStackでは、開発したコードを完全なオープンソースとして公開すること、また特定企業にロックインされないような標準仕様のクラウド基盤の開発を目指すことが指針とされており、今後も商用版のようなクローズエディションを作らないことを明言している(関連記事:注目のOpenStackプロジェクトの全体像)。
OpenStackは図3のようなコンポーネントで構成される。
OpenStackは4月5日、最新版となる「Essex」を公開した。
今回のアップデートは、200人以上の開発者と多数のテスターによる6カ月間の開発期間を経て新たに約150の機能が追加され、各コンポーネントの安定性や相互連携、ユーザビリティが大幅に強化された。
クラウド基盤ソフトウェアの比較
上記で紹介した3つのプロジェクトの開発経緯や機能の概要をまとめたのが次の表だ。
| プロジェクト名 | Eucalyptus | CloudStack | OpenStack |
|---|---|---|---|
| コンセプト | EC2/S3とのAPI互換のプライベートクラウドを簡単に構築できるようにする | オープンで柔軟なクラウドの構築を支援し、ハイパーバイザーに依存しないプラットフォームを提供する | ベンダーロックインを回避する唯一の方法はオープンソースであることという指針を掲げ、シンプルな実装とスケーラブルな基盤を構築可能とすることを目指している |
| プロジェクト運営/開発主体 | Eucalyptus Systems | Citrix Systems | Rackspace |
| 提供エディション | オープンソース版、商用版(Enterpriseエディション) | オープンソース版(Communityエディション)、商用版(Enterpriseエディション) | オープンソース版のみ |
| ライセンス | GPLv3 | GPLv3(3.1以降はApache License, Version 2.0に完全移行される) | Apache License, Version 2.0 |
| 最新バージョン | 2.0.3(stable)、商用版:3.0 | 3.0.1 | 2012.1 Essex |
| 次期バージョン | 3.0.99 | 3.0.2 Bonita (2012年4月予定) | 2012.2 Folsom (2012年秋予定) |
| ドキュメント | 英語、日本語ともにドキュメントやブログが充実(公式ドキュメント) | 3.0からは日本語のインストールガイドも掲示(公式ドキュメント) | 英語のみ(公式ドキュメント)(wiki) |
| ユーザー会(日本) | 日本ユーカリプタスユーザズグループ。2012年3月17日に開催されたオープンソースカンファレンスのセミナーは100人を超える動員となった | 日本CloudStackユーザ会。2012年2月23日に第6回CloudStackユーザ会が開催され、100人を超える参加があった。特に元Cloud.comのVicePresidentであるKevin氏によるCloudStackアーキテクチャの解説に注目が集まった | 日本OpenStackユーザ会。2012年3月23日に第3回OpenStack勉強会が開催され、Essexのコードリーディングや最新動向の紹介などが行われた |
| 公式Twitter | @eucalyptuscloud(Santa Barbara,CA,USA)、@jEucalyptusUG(日本Eucalyptusユーザーズグループ) | @CloudStack | @OpenStack |
| 言語 | Java、C(コンポーネントによって異なる) | Java | Python |
| ハイパーバイザー | KVM、Xen、商用版はVMware vSphere/ESX/ESXi | KVM、 Xen、VMware vSphere | KVM、LXC、QEMU、UML、VMware ESX/ESXi 4.1 update 1、Xen |
| 対応ディストリビューション | RHEL/CentOS 5.5、OpenSUSE 11.2、Ubuntu、Debian squeeze、Fedora 12(ハイパーバイザーにより推奨ディストリビューションは異なる)。Ubuntuは 9.10~UEC(Ubuntu Enterprise Cloud)としてEucalyptusを標準実装 | RHEL 5.5~5.x、CentOS 5.5~5.x、CentOS 6.0、Ubuntu 10.04、Fedora 16(KVMの場合) | OpenSUSE 12.1、SLES11 SP2、Fedora 17、Fedora 16、EPEL 6、Ubuntu 12.04 LTS、Debian wheezy |
| 最小構成 | 「ノードコントローラー」をインストールしたマシンとそれ以外のコンポーネントをインストールしたマシンの2台構成 | 「Management Server」と「Computing Node」の2台構成 | 「Nova」(管理部分)+「Glance」と「Nova」(Compute部分)の2台 |
| 仮想マシンイメージ | EC2のAMIは変換せずにそのままEucalyptus上で動作 | qcow2 | Raw、AMI(kernel/ramdisk outside of image)、VHD(Hyper-V)。VDI(VirtualBox)、qcow2(Qemu/KVM)、VMDK(VMware)、OVF(VMware、others) |
| ファイアウォール/セキュリティグループ | AWSと同等のセキュリティグループ機能を実装 | セキュリティグループ、ファイアウォール機能を実装 | AWSと同等のセキュリティグループ機能を実装 |
| ロードバランサ | なし | あり | なし |
| オブジェクトストレージ | あり「Walrus」 | なし | あり「Swift」 |
| GUIインタフェース | Eclipseベースのツール「tAWS Tanacasino」、Firefoxアドオン「HybridFox」などがある | 操作性に優れているグラフィカルなWebインタフェースが実装されている | コンポーネント「Horizon」にて提供 |
| Web API | EC2/EBS/S3互換APIを装備。「Euca2ools」というコマンドラインツールが提供されている | 独自API。一部のAPIはCitrix Systemsの「CloudBridge」にてEC2 APIに変換可能 | 独自API。EC2/EBS/S3互換APIを装備。「Euca2ools」を使用可能 |
| 導入事例 | NASAのデータ解析用クラウド基盤「Nebula Cloud」、PUMAのWebサイト「Puma.com」、InterContinentalHotelsはRightScale「myCloud」を使ったハイブリッドクラウドを構築 | NTTコミュニケーションズ「Cloud(n)」、KT「ucloud」、IDC Frontier「NOAH」、Tata Communications「InstaCompute」などパブリッククラウド基盤としてだけでなく、SCSKのプライベートクラウドソリューション「CloudSystemEnabler」や北海道大学のアカデミッククラウドなど多くの採用実績がある | HP「hp on hpcloud」、Rackspace「Cloud Servers」、Rackspaceのプライベートクラウド「Rackspace Cloud:Private Edition」 |
| 強み | EC2/S3とのAPI互換により、プライベートクラウドとして世界で最も数多く導入されている | 機能性と拡張性に優れており、多数の商用導入実績がある | Debianにならったフルオープンな開発スタイルと多くの企業が参加する活発なコミュニティー |
クラウド基盤ソフトウェア比較表のダウンロード
- 今回紹介した3プロジェクトの比較表をPDFで提供しています。「クラウド基盤ソフトウェア比較表 ~Eucalyptus、CloudStack、OpenStack」からダウンロードしてください。
競争が激化するプロジェクト
今回紹介した3つのプロジェクトは、今まさに激烈な戦いが繰り広げられている。
2012年3月22日に、AWSとEucalyptusが提携を発表した。これにより、AmazonのパブリッククラウドとEucalyptusで構築したプライベートクラウド間のシステム移行も容易になると考えられる。
しかし、AWSとの親和性を重視したプライベートクラウド環境を導入したい場合、Eucalyptus以外に選択肢がないということではない。AWSとEucalyptusの提携は、EucalyptusがAWS互換のAPIを開発する公の権利を手にした(AWSによる知的財産権の行使を免れた)ということであり、技術提携ではないのだ。
また、前述したCloudStackのASFへの寄贈が発表されたのは、OpenStackの新バージョン「Essex」リリースの2日前であり、開発方針や内容が議論される「Design Summit」の直前だった。今後さらにコミュニティーが活発となり、他のオープンソースソフトウェアとの連携も進むことが予想されるCloudStackのニュースは、OpenStack関係者に十分なインパクトを与えたであろう。
一方で、OpenStackは2012年4月12日に米Red Hat、米IBMら19社とともに「OpenStack Foundation」を発足した。これまでの開発主体であったRackSpaceは、ベンダー中立というオープンな姿勢に徹底的にこだわっており、かねてより独立した財団の設立を望んでいたが、今回ようやくその新しい一歩を踏み出したといえる。
OpenStack Foundationには、もともとOpenStackコミュニティーのメンバーであったCitrix Systemsの名前がないことも話題となっている。Citrix Systemsは2011年5月に「Project Olympus」というXen+OpenStackベースの商用製品開発プロジェクトを発表しており、Cloud.comの買収後もCloudStackとのAPI共通化やマイグレーションによる互換性の確保を進めプロジェクトを充実させていく方針を示していたが、昨今ではCloudStackをサービスの中核として位置付けており、CloudStackの独自APIを拡張させていく方向性を明らかにしている。
クラウドサービスを利用する側としては、APIやマシンイメージなどの規格の統一や標準化が行われ、ハイブリッドクラウド化による分散配置やクラウドサービス間の相互連携も容易になるようなソリューションを望むところであるが、現状はそれぞれのプロジェクトが互いにしのぎを削りながら優位性をアピールしているといった状態にあるといえる。
オープンソースクラウド基盤ソフトウェアの戦いは、今まさに新たな幕開けを迎えたのではないだろうか。
第2回は今回比較した3つのプロジェクトについて、最小構成におけるベンチマーク結果や操作性について取り上げていく予定だ。
大削 緑(Midori Oge)
NTTコミュニケーションズ株式会社勤務
NTTコミュニケーションズが提供するクラウドサービスCloud(n)の企画、開発、ユーザーサポートなどに幅広く従事している、通称「うどんの中の人」。
CloudStackを始め、OpenStack、AWS、RightScale、OSSコンソーシアムなど多数のユーザー会に参加し、インフラ系の女子会のコアメンバーとしても活躍中。
Twitter:@star76popin
個人ブログ:http://star76.jp
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