J-SUMMITS 連載コラム「電気羊はユーザーメードがお好き!?」
ダチョウ倶楽部の解散が病院経営を改善する!?
電子カルテシステムを導入済み、もしくはこれから導入しようとしている病院はあらためて医療情報システムの運営体制を見直し、医療情報部門の組織化と、医療情報技師などの専任担当者の採用を検討することが重要だ。
医療現場における電子カルテの導入や利用に関するエッセイ集『電子カルテは電気羊に食べられる夢を見るか』(加藤 五十六 著)を題材に、「日本ユーザーメード医療IT研究会」(J-SUMMITS)のメンバーが現場の抱える課題の解決策をリレー形式で提案する本連載。今回取り上げるのは、多くの自治体病院が抱えている問題を指摘した「ダチョウ倶楽部」の章だ。
エッセイでは、自治体から派遣される事務職員が病院の医療情報部門を担当することが、院内のIT化や運用改善を阻む要因となることもあると指摘している。本稿では、地方独立行政法人加古川市民病院機構 加古川東市民病院 事務部長である櫃石(ひついし)秀信氏が自身の経験を踏まえながら、医療情報システムの運営体制に関する改善策を提案する(編集部)。
医療現場にも存在するダチョウ倶楽部
「ダチョウ倶楽部」と聞いて、多くの人はきっと「ヤー!!」「ムッシュムラムラ」などを連呼する俗に言う“リアクション芸人”の代表格である「ダチョウ倶楽部」を思い浮かべるのではないでしょうか。
加藤 五十六先生はこの章の冒頭で『ダチョウは危機に瀕(ひん)すると頭だけ砂の穴に埋め、体の残りの部分は全く無防備で「危機が去る」のを待つそうだ。本当かどうかは知らないが』と述べている。加藤先生は自治体病院に勤務した経験から、そこに派遣されてくる自治体職員を“ダチョウ”に例え、自治体からの派遣社員で占められていた医療情報室を“ダチョウ倶楽部”と呼んでいる。また、本文中に『総務や経理なら問題ないかもしれないが、高度な技術職であるはずの医事課や電子カルテの管理担当部門までこれだからたまらない』という記述もある。全くもってその通りだと感じる。
例外はあるものの、一般的に自治体から派遣されてきた職員は3~5年で職場を異動する。病院経営を支える電子カルテの運用や保守をこういったダチョウの皆さんが担当すると、継続性がないばかりか発展性もないこともある。中には、ダチョウではない自治体職員もいて病院のシステムに詳しく、医療情報技師などの資格も取得するなどその仕事を続けたいと思っている人もいるようだ。しかし、別の部署への異動辞令により、その思いは無残にも引き裂かれていく。
厚生労働省は2001年、「保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザイン」を策定し、2006年までの医療分野のIT化戦略を打ち出した。この中で「400床以上の病院および診療所の6割に電子カルテ導入」という目標を掲げていた。しかし、2005年10月時点では21.1%と目標を下回り、2011年時点でようやく400床以上の病院で56%となった。まだ大規模な病院ですら半数近くの病院で電子カルテの導入が進んでいないのが現状である。
電子カルテに関する専門部署/専門家が必要
私は導入が進んでいない原因の1つに「病院側に専門の部署、専門の担当者がいないこと」があると考える。例えば、コンピュータ断層撮影(CT)装置や磁気共鳴画像法(MRI)装置といった診断装置を扱う部門として放射線室。その専門家として診療放射線技師がいる。また、血液検査装置や超音波診断装置(エコー)を扱い検査に関わる部署として臨床検査室があり、その専門家として臨床検査技師がいる。さらに手術室や透析室などで高度医療機器を管理する専門家としての臨床工学士など、いわゆる診療を支える高度な機器やシステムを扱う専門家は院内の各部門に存在している。
どの分野も技術革新が進んでいるが、電子カルテも同様に技術革新の流れは急速であり、この分野でも専門部署や専門家が必要だ。しかし、専門部署や専門家の確保はあまり進んでいないのが現状である。自治体病院では専門の部署、専門のダチョウ担当者がいたとしても、前述したように3~5年で変わってしまう。そのため、電子カルテシステムの継続した安定運用はもちろん、医療情報システムを経営改善ツールとして活用することなどはとても期待できない。
私が所属する加古川東市民病院では、専門部署はないものの、専任の担当者を2003年以前から配置している。電子カルテシステムを導入した2012年7月よりも前からである。
私は以前、神戸製鋼のSE(システムエンジニア)をしており、当時の神鋼加古川病院にシステム提案で訪れたことがある。そのときは医師がクライアントPCのトラブル対応をしたり、プリンタのトナーを代えたりしていた。また、神戸製鋼内ではイントラネットやインターネットが使えない部署は皆無に等しかった時期だったが、病院では一部の端末しかインターネットにアクセスできず、個人のメールアドレスすら付与されていなかった。
そこで私は、当時の事務長に全館ネットワーク敷設の提案を行い、グループウェアやPACS(医用画像管理システム)などの導入を進言し、その実現に至った。それ以降、当時の院長の理解もあってIT化が進展し、電子カルテシステムを導入する前に院内のほとんどのシステムの電子化が完了した。
医療情報システムの最適化に向けて
病院には電子カルテシステムをはじめとして、さまざまな医療情報システムが存在している。それぞれのシステムが今後ますます複雑化、多様化することは間違いないだろう。また、医療情報システムから必要なデータをタイムリーに抽出し、分析することが戦略の立案、経営改善、医療の質向上などにおいて重要な要素となっている。このようなことから、これからの病院には、医療情報システムを管理する専門の部署と適切なスキルを持った専任者が必要である。
医療情報システムを扱う専門家としては、一般社団法人日本医療情報学会が認定する「医療情報技師」という資格がある。医療情報技師育成部会Webサイトでは、医療情報技師を以下のように定義している。
医療情報技師の定義(医療情報技師育成部会Webサイトより)
保健医療福祉専門職の一員として、医療の特質をふまえ、最適な情報処理技術にもとづき、医療情報を安全かつ有効に活用・提供することができる知識・技術および資質を有する者
また、一般社団法人日本病院会が認定する「診療情報管理士」も挙げられる。診療情報管理士は、診療録に含まれるさまざまな情報を加工、分析、編集して活用することで、医療の安全管理や質の向上、病院の経営管理に寄与する専門職だ。DPCコーディング委員会の構成員としても定義されており、さらに公益財団法人日本医療機能評価機構が「診療録の管理に一定数必要」と定義したことを背景に、公的・民間病院を問わず情報管理室の設置や診療情報管理士の採用が進んでいる。
医療情報技師も同様に、最新の日本医療機能評価機構の評価版において『「データの真正性、保存性の確保」や「情報システムの導入・活用に関する計画的な対応」などの業務の品質を保つために「医療情報技師等、必要な資格を有する職員が適切に配置されている」ことが望ましい』と定義されている(「情報管理に関する方針を明確にし、有効に活用している」項目より)。
このような動きの中、医療情報技師の受検者は年々増加の一途をたどっているものの、大学病院や一部の病院を除いては医療情報部や医療情報室が組織化されていない。
私がSEをしていた2001年ごろ、ある自治体病院の院長に「情報システムの専任担当者を病院におくべきですよ」と進言したことがある。その院長は理解を示し、自治体の所管部署に掛け合ったところ、情報システム担当者の配置は必要ないと一蹴されたそうである(関連記事:医療現場の情報保護対策を強固にする「医療情報システム監査人認定制度」)。
その8年後の2009年ごろ、同じ自治体が運営する別病院の院長から電子カルテ導入のアドバイスを求められたとき、同じように進言したが受け入れてもらえなかったと聞いた。8年たってもスタンスが変わらないことにがくぜんとしたが、「仕方のないことかも」と思うようになった。最近、その自治体が運営する別の病院で医療情報技師が正規職員として採用されたと聞いたときは正直驚いたものの、やっと適正な方向に向かっていると胸をなで下したところである。
電子カルテシステムを導入済み、もしくはこれから導入しようとしている病院はあらためて自院の医療情報システム運営体制を見直し、ベンダー任せにしている場合は、医療情報部門の組織化と医療情報技師などの専任担当者の採用を検討してみてはどうだろうか。
次回は、木村映善氏(愛媛大学医学部附属病院 医療情報部副部長/准教授)がカルテデータの真正性に関する「長期データを劣化なく参照するのは困難」の章を取り上げる。
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