なぜ日本の学校にITが必要なのか【前編】
「学校IT活用・IT教育」が日本の“救世主”になり得る理由(2/2 ページ)
世界のIT人材の中心はシリコンバレー
ITの世界で忘れてはならないのは、米国のシリコンバレーだ。シリコンバレーのITエンジニアの平均収入は、日本のITエンジニアの約2倍。物価も違うし、イノベーティブな人材が数多く集まるシリコンバレーは非常に特殊なエリアだということもあり、単純な比較はできないものの、この高収入を目指して前出の各国や世界中から猛勉強をしたITエンジニアが集まってくる。いわばITの最高峰だ。
シリコンバレーは、米国西海岸のカリフォルニア州北部にあるサンフランシスコ・ベイエリアの南部に位置しているサンタクララバレー、およびその周辺地域の名称だ。つまり「シリコンバレー」という地名はない。この名前の由来は、もともとこの地域にIntelをはじめとする半導体メーカーが集っていたこと(半導体の主原料はシリコン)と、渓谷の地形から生まれた造語だ。ただし、現在は半導体にとどまらず、アプリケーションやWebサービスといったIT全般のスタートアップ企業がここで起業している。
そんな歴史を持つシリコンバレーから大成功を収めたのが、AppleやGoogle、Yahoo、Cisco Systemsといった大企業だ。
シリコンバレーにITスタートアップ企業が集まる理由
シリコンバレーに成功したIT企業が多数生まれ、今でも続々とITスタートアップ企業が集まり続けているのはなぜか。それはベンチャー企業が起業しやすい環境が整備されていることが大きい。
起業したばかりのベンチャーであっても企業には変わりなく、「ヒト」「モノ」「カネ」といった経営資源が重要になる。シリコンバレーには、世界の優秀なITエンジニアという「ヒト」が集い、多くのスタートアップ期の企業が必要な資材を調達するので、さまざまな「モノ」がそろう。そして、極めて大事な「カネ」が集まりやすい仕組みがある。
シリコンバレーにはSequoia CapitalやKleiner Perkins Caufield Byers (KPCB)など世界最大クラスの有名ベンチャーキャピタル(VC)が数多く存在する。VCは、見込みがありそうなベンチャー企業に対して投資する事業者だ。用意するのは「カネ」だけではない。ベンチャー企業が早期に収益が上げられるさまざまな支援もする。VCの投資事業のゴールは、新規株式公開(IPO)か買収されるまでで、これが成功すると数百~数千億円の収益を上げることができる。
日本にもVCはあるが、“本場”であるシリコンバレーのVCは、投資額が桁違いだ。もちろん、会社の状況や経営方針、ビジネスモデルなどによりいろいろなパターンがあるが、一般的な例だと次のようになる。投資額はステージごとに別れており、シードステージ(会社設立前)は10万~100万ドルだ。その次のアーリーステージ(会社設立直後)で100万ドル~1000万ドル、グロースステージ(会社成長期)で1000万ドル~5000万ドルという規模になることが多い。これに対して、日本のVCの投資額は、私の知る限り総額でも数千万円~数億円程度がほとんどである。この違いは、投資事業のゴールであるIPO時のキャピタルゲイン(株式売却益)が、日本では非常に小さいことが理由だ。
国内外を問わず、ベンチャー企業がIPOというゴールに到達するためには、アイデアや技術力が一定数あって、さらに株式上場するまでの期間の経営力まで必要となり、非常にハードルが高い。しかも日本で起業したベンチャー企業の場合、IPOのゴールに到達してもリターンがシリコンバレー起業組のそれと比べて格段に少ないのだ。もう1つのゴールである買収についても、株式持ち合いをはじめとする日本の商習慣の影響で、そもそも企業買収自体が少ない。つまり、日本での起業はハイリスクでローリターンな環境なのだ。2000年ごろに日本で起こった起業ブームが長続きしなかったのは、これが原因だろう。
もちろん、日本のベンチャー企業が全て失敗に終わっているわけではない。中には、IPOや買収といったゴールにたどり着き、その後も市場からの評価を上げ続ける企業も存在する。最近では、セキュリティ製品を研究開発・販売するFFRIがその好例だ。同社は2014年9月30日に東京証券取引所マザーズ市場に上場し、公募価格の1450円に対して、初値は2.8倍の4010円となった。2016年2月の現在でも、株式相場の乱高下の影響は当然受けているものの、株価は上向いている。もちろん、今では日本を代表するIT企業にのし上がったソフトバンクや楽天も、創業当初は当然ながらベンチャー企業だった。
各社が成功することができた理由はさまざまだが、卓越としたアイデアや技術力といった人的要素によるところが大きいことは、紛れもない事実だ。文化や商習慣の壁を乗り越え、日本で成功例がより生まれやすくするためにも、IT人材の育成が不可欠なのである。
日本にIT教育が必要な理由
ITはイノベーションを実現するために、現在最も有効な手段だといえる。ただし、そのメインステージは、これまでずっとシリコンバレーという“金の卵を産む鶏”を抱えた米国だった。私自身がそうなので自虐的になってしまうが、日本のIT業界はこれまでその米国のおこぼれをもらってきただけの存在にすぎない。
これこそ、日本の教育機関にIT活用やIT教育が必要な理由だ。この取り組みが成功すれば、1990年代のバブル崩壊から20年以上の低成長を続け、労働人口も減少し続けている日本にイノベーションが起こせる可能性がある。政府が掲げる日本再興戦略が実を結び、1970年代のような成長期に近い状況を、日本でもう一度実現することも不可能ではない。
「コンクリートから人へ」。2009年の総選挙のときに民主党が掲げたこのスローガンは、日本が本当に教育という投資を実現できれば、夢物語にはならないかもしれない。もちろん上述の通り、個別の教育機関にとってのIT活用やIT教育の目的は、必ずしもIT人材育成だけではない。それでも、IT活用やIT教育を早期から始めることは、IT人材育成のための効果的な手段になると考えられる。
本稿では、日本の教育機関におけるIT活用やIT教育の必要性を、海外のIT業界の事情を交えて説明した。次回はIT活用やIT教育の具体的な内容に踏み込んでいく。
執筆者紹介
武田一城(たけだ・かずしろ) 日立ソリューションズ
情報セキュリティ、システムプラットフォーム、オープンソースなどさまざまな分野のマーケティング業務に従事。現在は特に学校IT分野における市場調査や企画に重点的に携わる。2011年より日本PostgreSQLユーザ会の理事を兼務し、代表的なオープンソースデータベース「PostgreSQL」の普及啓発活動も行っている。
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なぜ日本の学校にITが必要なのか
日本の教育機関が今、IT活用やIT教育への注力を迫られているのはなぜなのか。海外の動向にも触れながら、その背景を探る。
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