ガートナー 片山治利氏に聞く「超高速開発ツール」
劇的に進むユーザー企業の内製化 IT部門はスピードと“シャドーIT”にどう対応する?(2/2 ページ)
一部内製化から超高速開発ツールの利用へ
国内企業におけるアプリケーション内製化の動きについて、もう少し詳しく見ていこう。ガートナーの調査によれば、4割近い国内企業が、企業規模に関係なく「内製化に向けて具体的な行動(開発ツールを導入するなど)を起こしたい」と思っているという。潜在的に見ればその数はもっと多くなるはずだ。
もっとも、全ての業務アプリケーションを内製することはさすがに現実的ではない。片山氏は現状でよくあるケースとして「新規開発はこれまで通り外部のベンダーにアウトソースするが、保守は自分たちで行う」「『Microsoft Excel』のUI程度であればユーザー部門と一緒に作る」といった例を挙げているが、要はこれまで外部のベンダーに丸投げしていた案件の一部を自分たちで作り込む、ユーザー部門が自力でできるようなことまでをベンダーに依頼しない、といった初歩的な段階からスタートしている企業が多いということだろう。
さらに、そうした段階から進んで、超高速開発ツールを採用し、業務部門の望むスピードで応えようとしているIT部門も存在する。そうした企業が選んでいるツールとして名前が挙がるのが「kintone」(サイボウズ)、「dbMagic」(MSE)、「GeneXus」(GeneXus)、「Sapiens」(Sapiens)などだ。片山氏はこれらのツールに共通するポイントとして以下の3つを挙げている。
- 2日程度で覚えられる習得の容易さ
- 導入を失敗したとしても許容できる範囲のコスト
- 1つのシステムから次のシステムへと範囲を拡大できる拡張性
これらのツールは「ソースコード生成型」と「ブラックボックス型」の2つに大別できる。片山氏はそれぞれのメリットについて「ソースコード生成型は、たとえそのツールを開発している企業が潰れてもアプリケーション資産は残ります。つまりツールがなくても資産として継続して使うことが可能です。また、Javaなどの標準技術との親和性も高いので、他のアプリケーションとの連係も容易です。一方、ブラックボックス型は基本的にそのツールがなければアプリケーションは動きません。ツールの中に設定情報やモデルなどが含まれているからです。従ってパッケージ製品の中で、例えば『Oracle Database』など特定の環境と組み合わせて動かすアプリケーション開発でよく使われます」と説明している。
世の中の標準技術に合わせるタイプのソースコード生成型と、基本的に“動けばいい”という考えに基づくブラックボックス型、現在の主流はどちらなのだろうか。片山氏は「シェアだけでいえば、ブラックボックス型のdbMagicが世界的に見ても圧倒的です。dbMagicと同じイスラエル企業のSapiensもブラックボックス型です。これらの製品はとにかくどんな環境でも滞りなく動くアプリケーションを念頭に置いています」とブラックボックス型が優位である現状を説明する。
だが一方で「ユーザー企業の間ではここ数年、ロックインに対する不安が非常に大きくなっています。そうした理由からGeneXusなどソースコード生成型の採用を検討する企業も少なくありません」(片山氏)とも指摘する。ソースコード生成型であれば、例えば新たなセキュリティの脅威が明らかになった場合、ソースコードに対してセキュリティチェックをかけるといったこともできるが、ブラックボックス型ではできない。どちらを選択するかはユーザー企業次第だ。
もう1つ、ツール選びの際のポイントとなるのが、業務部門でも共有できるかどうかだろう。IT部門と業務部門の双方で共有できるツールがあると、互いの意思疎通が格段にしやすくなる。「最近のツールは非常に進化しているので、ひと昔前であればプログラマーとしての素養が求められたツールが、業務部門のユーザーでも容易に使えるようになっています。プログラミング言語のJavaを知らなくてもJavaのツールは使える、つまりツールが共通言語として機能するのです。こうしたツールの活用で両者の距離を縮めることは可能です」(片山氏)
アウトソースか内製か、内製ならばどういったツールを選ぶかは、作ろうとしているアプリケーションのタイプにもよる。片山氏は「マーケティング部門が使うWebアプリケーションのように、総務部門や経理部門が使う基幹系アプリケーションのように堅牢性が問われる“モード1”なのか、スピードが重要な“モード2”なのか、それとも両方の要素を取り込んだ“バイモーダル”なのか」といった視点で見ることも必要だとしている。
「正直、国内企業の開発現場を見ると、モード1、つまり堅牢性を重視し過ぎるきらいが強いとは感じます。もう少しモード2に光が当たってもいい。ただし基幹系の場合は例えば、商品をきちんと顧客の元に届けるなど、ミスが許されない世界でもあります。そうした部門のアプリケーションはやはりモード1が重視されるべきでしょう。今後の傾向としては、モード1とモード2をミックスしたバイモーダルがより注目されるようになると思います。今はその試行錯誤の段階にあるといえるでしょう」(片山氏)
CIOは業務部門との橋渡し役に
アプリケーション開発に変化が訪れようとしている現在にあって、片山氏は今後ますます重要になるのがCIO(最高情報責任者)の存在だと強調している。IT部門と業務部門をつなぎ、双方の言葉を翻訳する役割を果たせるのはやはりCIOだ。片山氏はさらに「できればIT部門出身よりも業務部門出身のCIOの方が部門間の調整はスムーズに進む」としている。「業務部門がITへの意見を表明し、自分たちの求めるIT環境を言葉にできること、IT部門との間でコンセンサスを確立すること、こうしたことを実現するにはやはりビジネスをよく知っているCIOの方がうまくいきます。リクルートの成功例などはその典型ですね」(片山氏)
片山氏の所属するガートナーは一貫して「業務部門がITを主導するべき」と主張してきている。ここまで説明してきたアプリケーション開発の変化などは、少しずつそうした流れに国内企業も乗り始めていることの表れだろう。ではもし、その主張通りに業務部門がITに対して力を持つようになったとき、IT部門はどういう存在であるべきなのか。片山氏は「IT部門は業務部門のIT環境をコントロール(管理)するのではなく、インフルエンス(影響力)を意識すべき」と答えている。自分たちの管理するIT環境に業務部門を閉じ込めるのではなく、業務部門が求めるIT環境を的確かつ迅速に用意する、そういう存在になることをIT部門は目指すべきだという。例えばいくら業務部門がITに対して力を持ったとしても、業務部門が独自で技術者を雇用するのは無理がある。業務部門には技術者を評価する指標がないことがほとんどで、仮にできたとしても雇用を維持し続けることは難しいからだ。技術者のコントロールはIT部門が行う方が理にかなっている。そうした線引きは今後、ますます明確になるだろう。IT部門がビジネスに対して本当に貢献できることは何なのか。シャドーIT、そしてアプリケーション内製化の動きは、今あらためてIT部門に大きな問いを投げ掛けている。
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