「教育ITソリューションEXPO」レポート
堺市の小学校がWindowsタブレット2000台で使う「校務・授業連係システム」とは?(2/2 ページ)
タブレット導入時に整備した製品と選定ポイント
タブレット、無線LANアクセスポイント、そして授業支援システム。堺市教育センターはそれぞれの製品をどのように選定したのか。
タブレットに関しては、3グループに分かれた入札を実施し、日本エイサー、富士通、レノボ・ジャパンと異なる3社のデバイスを選定。ただしOSや画面サイズは統一した。以前からオフィススイートの「Microsoft Office」やWindows用の小学校向け授業支援ソフトウェア「キューブきっず」(販売:スズキ教育ソフト)を使用していたこともあり、OSには「Windows 8.1」を選択。画面サイズは11.6インチを選んだ。
無線LANアクセスポイントにはサイレックス・テクノロジーの「SX-ND-4350WAN」を選択した。タブレットの画像をほぼ遅延なく大型デジタルテレビに映すことができる画像伝送機能を備え、無線LANアクセスポイントと画像伝送機能の双方を1台で実現していることを評価した。
授業支援システムには、タブレットからも使えるSkyの「SKYMENU Class」を選択した。「児童が書いたノートや考えをすぐに全員で共有できる」「板書を簡単に記録し、前時の板書を次の授業時に見せることができる」など、「教員が日頃よくする作業を洗い出し、それらの機能を兼ね備えているかどうかを重要視して選んだ」と浦氏は語る。
手応えを感じつつも負担軽減に課題
堺市教育センターは毎年、教員のタブレット活用状況について調査を実施している。2014年度と2015年度の調査結果を比較すると「毎時間ITを活用する教員の数が全体的に増加し、全くタブレットを活用していない教員が減ってきた」と浦氏は語る。導入から2年で、教員の間でIT活用に一定の浸透が見られたといえる。1教室に1台ずつタブレットを整備したことによる児童への効果についても「手応えを感じた教員が多くいた」と同氏は語る。
一方でIT活用の課題も見えてきた。調査結果によると「教材のデジタル化が負担軽減につながる」という項目については教員の半数近くが「効果あり」と答えたものの、残りの半数は「何ともいえない」と回答したのだ。IT活用による負担軽減を実感できていない教員が比較的多いといえる。
教員の負担軽減に向けて浦氏が始めた新たな取り組みが、タブレットの授業支援システムと校務支援システムを連係させた新システム、新堺スタイルの構築だ。
授業支援と校務支援が連係した「新堺スタイル」
新堺スタイルは、堺市教育センターが2015年に構築に着手し、2016年4月に本格稼働した。中核要素は、以前から校務に使用していたEDUCOMの校務支援システム「EDUCOMマネージャーC4」と、教科指導に活用していた授業支援システムのSKYMENU Classの2製品であり、これらをゲートウェイサーバを介して連係させた(図)。
授業用タブレットから利用する授業支援システムと、校務支援システムとを連係させることで、教員は出欠情報や健康観察、忘れ物チェック、発表回数といった校務情報を授業用タブレットから入力できるようになった。情報を一元化して転記作業や集計作業を減らすことで、校務の効率化を目指す。
新堺スタイルの仕組みについて、出欠管理を一例に挙げて説明しよう。教室にいる教員は、手元のタブレットの授業支援システムにある「子どもの記録」という画面から、「出席」「早退」「病欠」などの情報を入力する。すると、授業支援システムはそのデータを校務支援システムへ自動的に転送する。こうした仕組みにより、教員が紙の出欠簿に記録したり、日別、月別、学期別に集計して校務支援システムに再入力したりする必要をなくした。
堺市教育センターは、新堺スタイルの本格稼働と同時に紙の出欠簿を廃止し、校務支援システムから印刷されたデータを公文書として扱うなど制度面も変更した。ルールの変更に伴う現場の教員からの目立った反発もなく、「教員に受け入れられた」と浦氏は評価する。
現場の教員からの要望が多かった機能も積極的に取り入れた。職員室にいる教職員から教室にいる教員へ、タブレット経由で出欠連絡を送信できるようにしたのが一例だ。今までは、午前中の忙しい時間帯に入る保護者からの欠席連絡は、教職員がわざわざ教室まで出向いて担任へ伝えていた。これをワンタッチで連絡内容を伝達可能にすることで、教員の負担軽減につなげた。
画面転送機能があるリモートデスクトップの仕組みを使えば、教員のタブレットから校務支援システムを直接操作してデータを入力できるのではないか、という見方もある。これについて浦氏は、「校務支援システムは成績に関わる情報も蓄積している。万が一、児童の目に触れたり、教員が誤って大型テレビに映したりしてしまうことを懸念した」と説明。ゲートウェイサーバを双方のシステムの間に置き、必要最小限の校務情報だけをやりとりできる仕組みにしたという。
児童の活動記録もデジタル化
新堺スタイルは児童の出欠情報だけでなく、健康観察の結果や授業での発表回数、忘れ物の有無、授業中の気付き、児童が書いたノートの写真なども授業用タブレットから入力し、校務システムに反映する。
学習者の学びの様子や変化、良いところを見いだすことは「見取り」と呼ばれ、学期や年度末評価の元となる。一般的には「教務手帳」「教務必携」という紙の冊子にこれらの内容を記録するが、評価の際に見直しや集計が必要になるなど手間が掛かる。新堺スタイルでは、この見取りと呼ばれる作業の一部を電子化し、教員がタブレットからすぐにタップして入力できる環境を実現した。「あの発言は誰のものだったか」「あの活動はいつのことだったか」と思い起こす必要がなく、日々の児童の記録を速やかに活用できる。
新堺スタイルによるこうした取り組みは「まだまだ思考錯誤の段階だ」と浦氏は説明する。今後は教員が培ってきた独自の評価スキルをシステム内で生かしたり、単元ごとの評価設定ができるようにしたりする考えだ。教員ごとに異なる児童の評価基準をどこまで標準化し、システム化できるのか。堺市教育センターの挑戦に注目が集まる。
執筆者紹介
神谷加代(かみや かよ)
教育ITライター。「教育×IT」をキーワードに教育機関で進むタブレット導入事例やIT活用、子ども向けプログラミング教育、EdTech関連の話題などを、Webメディア、書籍、雑誌などで執筆。著書に『iPad教育活用 7つの秘訣』(共著、ウイネット)、『こどもプログラミング読本――「未来をつくる力」を育てる』(共著、技術評論社)、『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)。
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