事例で分かる、中堅・中小企業のセキュリティ対策【第3回】
「ランサムウェア」に感染するとどうなる? 最低限ながら有効な対策とは(2/2 ページ)
ランサムウェア被害は今後も増加する恐れ
最近では復号のための鍵がなく、一方的にデータを暗号化し、金銭を要求するだけで復号できないランサムウェアまで登場しています。PCやサーバのHDDが故障した、などの物理的な損失であれば、データ復旧製品やサービスを利用することで復元できる可能性もあります(それでも無駄な出費が発生してしまいます)。しかし、特に新手のランサムウェア被害に遭遇してしまった場合、物理的な復旧が困難なケースも考えられます。
今回の事例では「メールの添付ファイル開封」による感染でしたが、主な感染経路は「メール」および「Webサイト」です。バナー広告の配信サーバ経由での被害も報告されており、インターネットのあらゆる経路からの攻撃が考えられるため、防御が難しく非常に厄介です。
さらに厄介なのが、ランサムウェアは今後も増加する可能性が極めて高い、という事実です。金銭搾取の手口として、手間が掛からない割には高い効果が期待できるためです。またランサムウェアを簡単に作成できるツールが、違法な商品やサービスを取引する「闇市場」で公開、売買されており、素人のクラッカー(攻撃者)でも、それを使ってランサムウェアを作成できるようになっていることも、被害の拡大につながっています。
インターネットバンキングの不正送金などの金銭被害は、銀行に気付かれる前に「出し子」と呼ばれる人を介してお金を引き出さなくてはいけないため、手間も労力も掛かります(その分、1回当たりのリターンが大きいので被害がなくならないのも事実ですが……)。ランサムウェアの場合は、攻撃者が入手したメールアドレス宛てにメールを送付するだけで済み、後はお金が入金されるのを待っているだけと、素人でも簡単にできてしまいます。このような事実を知った上で、対策を練らなくてはいけません。
ランサムウェア対策の有効打、バックアップとメールフィルタリング
取り組むべき対策は幾つもありますが、被害に遭遇してしまうことを前提として、対策を考えなくてはいけません。具体的には次の対策が有効です。
- ウイルス対策ソフトを導入し、定義ファイルを最新状態にする
- OSや「Java」「Adobe Flash Player」「Adobe Acrobat Reader DC」などのプログラムを最新状態にする
- UTM(統合脅威管理)やIPS/IDS(不正侵入防止システム/不正侵入検知システム)などを導入する
- メールの添付ファイルを開封する場合は、開封前に送付元に確認する
- 確実にデータをバックアップする
- メールフィルタリングを導入する
以前からバックアップの重要性は認識されていましたが、今回のように「データ破壊型」で「あらゆる侵入経路が存在」し、「今後も引き続き拡大が予想される」ランサムウェアのような悪質なマルウェアへの対策は、感染を前提とした、データ復元のための手段を講じなくてはいけません。とはいえ難しいことをするのではなく、当たり前の予防策を講じればよいのです。
最も簡単なバックアップ手段として、外付けHDDにバックアップデータを保管することも有効です。しかしランサムウェア対策としては、バックアップした外付けHDDをPCから物理的に外さなくてはいけません(いわゆるオフラインバックアップです)。PCに接続したままでは、外付けHDD内のデータまで暗号化の被害に遭遇してしまう可能性が高いためです。
しかしこの手段は、端末台数が多い場合は現実的ではなく、今回明示した例のようにバックアップそのものを人に任せている場合は忘れてしまう懸念があります。そのため、ネットワークに自動的にバックアップをする仕組みを導入することが有効です。具体的にはクラウドバックアップを導入するのです。BCP(事業継続計画)の観点から、クラウドを利用する企業も増えていますが、これはデータのバックアップにも非常に有効です。PCとクラウドのストレージをネットワークドライブとして共有していない場合は、クラウドにバックアップしているデータまでランサムウェアによる暗号化被害が届かないため、データの安全性が確保できます。またデータの拡張子が変わってしまった場合でも、クラウドに保存しているデータとは異なるデータとして認識するため、上書き保存される心配もありません。自動的にバックアップを取得する仕組みを整えることもできるため、人の運用ミスでバックアップを忘れてしまうこともありません。
もう1つの有効な手段は、メールフィルタリングの導入です。メールフィルタリングは、危険性が高い可能性のあるメールをなるべく受け取らないようにするための仕組みのことです。PCに届くメールを自動的に監視、識別し、スパムメールなどのいわゆる迷惑メールやウイルスが添付されているメールを破棄したり「迷惑メールフォルダ」などに自動で振り分けたりして、被害を未然に防ぎます。
メールを選別するために条件を付けることもできます。例えば添付ファイル付きのメールは全て「注意! 添付ファイル付き!」と名付けたメールフォルダに自動的に振り分ける、といったルールにすれば、誤って添付ファイルを開封してしまうリスクを軽減できます。取引先から届いたメールに添付ファイルが付いている場合は、開封前に「このようなメールをお送りいただきましたか」と確認することでリスク軽減にも役立ちます。
最近では、添付ファイルをJPEGなどのファイル形式に変換することでファイルそのものを無害化するようなシステムも登場しています。このような製品を利用するのも効果的です。
現代における経営の4つの資源「人」「モノ」「金」「情報」。経営資源としての価値をどんどん高めていく「情報」に破壊的ダメージを与えてしまうのがランサムウェアです。情報の価値の高さを再認識した上で、適切な対処法を導入するように心掛けましょう。
まとめ:セキュリティ担当者は、こんなふうに上司を説得しよう
- 中堅・中小企業にもランサムウェア被害が激増している事実を調査機関が提供している数字などを基に伝えよう
- データ破壊型のランサムウェアは特に危険。業務系システムのデータが破壊されているケースもあり、万が一被害に遭うと業務上大ダメージを受ける経営リスクであることを伝えよう
- 徹底したデータ保護に努めるため、現在のバックアップの取得方法を見直し、報告しよう。メールでの添付ファイル型の場合はメールフィルタリングで自動振り分けを行うのも効果的なためこれらの仕組み導入も検討すべき、と提言しよう
那須慎二(なす・しんじ)
大手情報機器メーカーを経て船井総合研究所に入社。ネットワークセキュリティの安全対策と解決策に詳しい。「日本一わかりやすいセキュリティ」をモットーに、中小企業を対象にしたサイバーセキュリティ問題や、対策に関する啓蒙活動を実施。
実際に、全国の地域各社で年間100回以上開催する講演は「今まで聞いた中で一番分かりやすい! 」と好評を得ている。著書「小さな会社のIT担当者のためのセキュリティの常識」(ソシム)がある。
参考リンク
「小さな会社のIT担当者のためのセキュリティの常識」(amazon.co.jp)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
事例で分かる、中堅・中小企業のセキュリティ対策
情報セキュリティ対策をしたくても、ITに詳しい人が社内外にいなくて困っている中堅・中小企業は多いのではないでしょうか。「知識不足」と「ヒト、モノ、カネ不足」の問題が目の前にあっても、対策は待ったなしの状況。予算を握る上司を説得するために、サイバー攻撃の事例を紹介しながら、その効果的な対策につながる情報セキュリティ製品を分かりやすく解説します。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Excel至上主義」の終わらせ方 丸2日の手作業地獄から情シスと現場を救うには
-
2
取手市がVDIと決別した理由 更改費用「4倍超」を約1.7倍に圧縮
-
3
「Microsoft 365のセキュリティ運用」に関するアンケート
-
4
急増する「AIはこう言ってる」マン 判断を狂わせる「AI忖度」を防ぐには?
-
5
221人調査で分かった「情シス最大のストレス」は?
-
6
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
7
「データストレージの活用方法」に関するアンケート
-
8
「AI時代の統合基盤・エンタープライズAI管理」に関するアンケート
-
9
AIで人を減らした企業がもう心変わり 「AIブーメラン現象」の実態
-
10
自宅のWi-Fiが「遅い」「途切れる」本当の原因は? Dellが推奨する鉄則
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
年収2000万「クラウドセキュリティのプロ」になれる資格とは
-
2
セキュリティソフトをすり抜ける標的型攻撃メール、不審メールの見破り方とは?
-
3
Windows Updateの通信集中で回線が逼迫、ネットワーク刷新事例に学ぶ解決策
-
4
財務を戦略的組織へ進化させるAI活用術、4つの主要な障壁と解消方法
-
5
「NAS」「SAN」「DAS」は何が違う? いまさら聞けないストレージの基礎
-
6
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
7
標的型攻撃メールを見破るには? サンプル文面を例に傾向を解説
-
8
商用利用の安全性を確保し大量のコンテンツを高速で生成する、AI活用の秘訣
-
9
マンガで解説、1日で生成AI環境を構築できるワークショップの中身とは?
-
10
Dark AIが台頭する時代の新発想、「より高度なAIで対抗する」具体的方法とは?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー