大原雄介の「最新ネットワークキーワード」【第5回】
無線LAN規格「802.11ac Wave 2」編──MU-MIMOとビームフォーミングを理解する(2/2 ページ)
なぜビームフォーミングは“電波の向き”を制御できるのか
MU-MIMOは、「同時に複数のユーザーと接続する」(Multi-User MIMO)技術だ。IEEE 802.11系の無線規格は、Wave1まで基本的に「1度に通信する相手は1つだけ」だった。複数ユーザーと無線で通信するときは「時分割」で相手を切り替えることになる。これに対し、MU-MIMOでは複数あるアンテナを利用して、同時に複数の相手と通信できる。1つの相手と通信する帯域幅は同時分割するため狭くなるが、通信できないよりはいい。これに時分割を加えることで、Wave 2ではWave 1と比較して理論上8倍のクライアント端末と同時に通信できることになる。
今、家庭用ルーターでは多くのモデルが10台程度、オフィス向けのMIMO対応IEEE 802.11nあるいはWave 1対応ルーターでも20~30台というのが一般的な同時接続可能台数だが、Wave 2に対応していると50台以上に増える。これは“過密”なオフィスとか、屋内であっても多数の人が集まる場所(コンサートホールやスタジアムなど)で大きなアドバンテージになる。
このMU-MIMOを支える技術が「ビームフォーミング」だ。ビームフォーミングは既に実用化していた技術だが、無線LANの規格で活用するようになったのはWave 2からになる。
ビームフォーミングの仕組みを簡単に説明しよう。隣接する2本のアンテナから同じ位相(周期運動のタイミング)で信号が出た場合、信号は機器の真正面方向とその反対側の方向で強めあう。だが、通信相手が必ずしも真正面や真後ろにいるとは限らない。そこで、両方のアンテナから出る電波の位相をずらすと強めあう方向が変化する。これを利用して、通信相手がいる方向に最も強く電波が届くように位相や電力などのパラメータを調整するのがビームフォーミングの仕組みだ。
MU-MIMOではこの仕組みを利用して、通信相手のいる方向に電波強度を高めることができる。例えばA、B、Cという3台の機器を相手に通信する場合、「A向けの電波は、Aのいる方向で最強になり、BとCには最弱になるように」と調整できるようになった。このおかげでこれまでの無線LAN規格と比べて電波干渉が少なくなり、「距離が同じなら、より帯域幅を増やす」「帯域幅が同じなら、より遠くで通信できる」といった特徴が、複数ユーザーの環境でも効果的に実現できるようになった。実際の運用では、MU-MIMOに対応して複数のユーザーと通信できるだけでは干渉も増えてしまう。これを防ぐのがビームフォーミングの役割だ。
なお、チャネルボンディングにおいて8チャネルを使う160MHz幅となると、現状はW52とW53で1つ、W56で1つの合計2波しか使えない計算だ。もう少し利用できる周波数帯を広げたい、という意見もあり2014年あたりからW58(5725~5925MHz)の利用や、新たにW54(5350~5470MHz)の割り当て、加えて新周波数帯(5850~5925MHz)を割り当てるといった話も出ている。
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