熱戦の場は「WBC」だけではない
“つながる野球場”は金になる? 米球団が「無線LAN」強化に躍起な理由(2/2 ページ)
MVPはネットワーク
「ネットワークは戦略リソースになっている」と語るのは、Brocade Communications Systemsのシステムエンジニア、マイク・アレン氏だ。同社はLevi's Stadiumのネットワークインフラを提供し、新しい競技場を支える160GBのバックボーンを建設した。現代のスタジアムは、最初からテクノロジーを念頭に置いて建設されている。従来のイーサネットや無線LAN、放送用ビデオ、スタジアムの照明、IPテレビ、防犯カメラは全て、同じネットワークに接続する。
こうした高度なネットワークを支えるハードウェアのコストは、施設にもよるが、アレン氏の推定で最大1000万ドル。これに加えて無線LANのために数百万ドルの追加投資を要するのが普通だ。
「われわれは、それだけの伝送速度が必要になるイノベーションを先取りしている」。Comcast Businessのマーケティングディレクター兼製品マネジャー、エリック・マクローリン氏は、SunTrust Parkの100GbEについてそう語る。「高速道路で3車線しか必要ない場所に、20車線あるような状態だ」
各チームとも、その車線を独自のコンテンツで埋めるために全力を尽くす。ブレーブスのARプロジェクト以外にも、NHL(北米アイスホッケーリーグ)チームのサンノゼ・シャークスは、VRや360度ビデオの実験を進めている。同チームは10カ月かけて、リンクの氷を整える製氷車や試合前の選手のヘルメット、リンク中央のパックドロップといった、テレビには映らないユニークなカメラアングルを収集した。
シャークスのマーケティング担当副社長、ダグ・ベンツ氏は「こうした場面はファンの目には映らないので、ユニークな視点を提供できる」と胸を張る。
ハンバーガーとビール
VR以外にも、つながるスタジアムは物品販売を押し上げる目的でも利用できる。Oracleが実施した最近の調査では、観客は観戦中の最も大切な要素として食品や飲料を挙げる一方、長い行列や名場面を見逃す不安から、購入を思いとどまっていることが分かった。回答者は、もし待ち時間を半分に短縮できれば、平均であと20ドルを出費すると答えている。
「モバイル技術を使った注文や決済、ファン向けプログラムの改善は、売り上げ増大に向けた有望な手段になる。今のところ、そのような選択肢はあまり多くない。だがファンは多大な関心を示している」。Oracleの報告書はそう指摘する。
NHLチームのピッツバーグ・ペンギンズは、売店での割引を提供するチームアプリを通じて、ファン向けのプログラムで多大な成功を収めた。同プログラムの提供を支援したマーケティング自動化ベンダーSessionMのビジネス開発・戦略担当ディレクター、ブロック・バーグマン氏によると、例えば一度その店で買い物をしたファンをターゲットにすることで、試合後の売店の売り上げは20%増大するという。
SessionMのソフトウェアはペンギンズのアプリを使い、スタジアム内でのファンの出費を追跡する。「われわれは自宅のソファで体験するのとは全く違う、もっとずっと夢中になれる体験の創出に努めている。会場や組織がその体験のパーソナライズのためにデータを収集する手助けをする」(バーグマン氏)
無線LANとDASのチームワーク
NFLチーム、シカゴ・ベアーズの本拠地「Soldier Field」は、無線LANサービスを提供するBoingo Wirelessと組んで無線LANの刷新を進めている。Boingoは現在運用中の無線LANに加え、スタジアム内の無線通信容量の増大を目指して、複数事業者が同一のネットワークでサービスを提供するニュートラルホスト型の分散アンテナシステム(DAS)を提供する。
Soldier Fieldのスポンサー・メディア担当ディレクター、ルカ・セラ氏は、両方のシステムを整備してファンに最高の体験を提供し、ファンが必要とする時に一部のデータトラフィックをオフロード(分散)できるようにしたいと考えている。「並行して同時使用できるネットワークが必要だ」とセラ氏は話す。
NFLチームのカロライナ・パンサーズでITディレクターを務めるジェームズ・ハモンド氏は、「カバー範囲が重複する2つのシステムを持つことは、2つの別々のシステムで全体の通信速度を高めることに加えて、サービス障害が起きた場合に明らかなメリットがある」と指摘する。パンサーズは2016年、スタジアムの無線LANアクセスポイントを1200基以上に増やし、無線LAN接続を増強した。DASにはCommScopeの「ION-U」を選定した。
「単なるカバー範囲だけでなく、極めて高いレベルの容量と品質も提供しなければならない。高い品質の体験を支援するために求められる精密さのレベルは、とてつもなく高い」。パンサーズの無線LAN環境刷新のコンサルティングを手掛けた、Beam Wirelessのケビン・シュモンシーズ最高技術責任者(CTO)は、こう語る。
教訓
どんなプロジェクトにもいえることだが、スタジアム内のネットワーク構築の鍵となるのは、できるだけ早い段階から技術パートナーに関わってもらうことだと、Comcast Businessのマクローリン氏は言う。そうすれば「無線LANアクセスポイントの最善の場所や導管経路をマッピングしたり、館内でファイバーをどう分散させるかを検討したりする時間が取れる」(同氏)。
Brocadeのアレン氏は、問題が起こりそうな箇所を早いうちから見つけ出し、無線LANやIPTV(IP網を使った動画配信サービス)のようなサービスのネットワークを物理的に分離して相互の干渉を防ぐことを提案する。直近の2つのプロジェクトでは、Brocadeは内部テストネットワークを設置して導入を加速させた。
「建設が終了次第、(チームは)翌日からネットワークを必要とする。全ての設定を済ませて舞台を整え、スタジアムに器財を搬入したら、接続するだけで済むようにしなければならない」。アレン氏はこう話す。
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