成功事例に学ぶ「タブレット」「電子黒板」予算取りのコツ【第1回】
福生市教育委員会は1人1台の「iPad」導入をどのように実現したのか(2/2 ページ)
ニーズの把握が教員からの支持をつかむ
実証研究を後押ししたのは、慶應義塾大学の中室氏との出会いだったと川越氏は打ち明ける。タブレット導入という新たな取り組みについて関係者の理解を得る上で、自分の経験だけを基に説得を進めるのには限界があると考えた川越氏は、教育政策にエビデンス(科学的根拠)を求めていく中室氏の姿勢に賛同。中室氏の協力を得ながら、産官学共同の実証研究に踏み切った。
教育委員会が学校と一緒になって何かを事業化するときには、学習者の実態が起点になっていることに加えて「教員が前向きになれるかどうかがポイントになる」と川越氏は語る。教員をその気にさせられるかどうかは、教育委員会の説明力に掛かっている。今回の実証研究については、現場の教員からの目立った反対はなく、むしろ「やってみましょうよ」という前向きな声が上がったという。家庭学習の推進、学力向上といった教員の問題意識、つまりニーズに沿った取り組みだからだといえるだろう。
社会を巻き込む動きが共同研究を後押し
産官学共同の実証研究をタブレットの本格導入へとつなげた福生市教育委員会。今後は「社会に開かれた教育課程」「カリキュラムマネジメント」が、こうした共同研究推進の追い風になると川越氏は説明する。社会に開かれた教育課程は、学習者に必要な資質や能力を社会と共有し、連携して育成すること。カリキュラムマネジメントは、教育課程の編成や実施、改善に取り組むことだ。この2つは、次期学習指導要領でもキーワードとなっている。
これからの教育は、教員や学校だけで完結するものではない。今後目指すべきは、生活の中で学習内容を総合的に生かす「知の総合化」はもちろん、クラスや学年の枠を取り払った「縦割り活動」を含め、縦横無尽に学校がマネジメントをしていく教育だと川越氏は言う。
利用できるリソースは全て利用して、社会総ぐるみでチームとして教育をしていく。そのときに民間の活力が必要ならば、大いに利用する。目指すべき方向性が明確であれば、教育に携わる関係者は自然と増えていく。
ITは教員の“武器”になる
議会による承認を受け、タブレットを日常的に使える環境を作るところまでは教育委員会が実現した。次は各学校が実際の活用を進めることになる。実証研究で教員の支持を取り付けた福生市教育委員会は、市内全校へのタブレット導入を見据え「さらに先生たちを巻き込んでいく必要がある」(川越氏)と気を引き締める。
中には「タブレットを導入しても、先生たちは使いこなせないのではないか」という意見もあると川越氏は明かす。同氏はこうした考えに対して、そもそも「使いこなせないのは、先生たちにタブレットを与えないからだ」と言い切る。
「先生たちを手ぶらで戦わせたくない」というのが、川越氏の考えだ。学力向上という取り組むべき問題は明確なのに、対策も立てずに教員を教室に送り出すことは「リーダーとしてやりたくないし、できる限りの準備をして現場へ送り出してあげたい」と同氏は強調する。その具体的な対策の1つが、今回のタブレット導入というわけだ。
教員が無駄なことに労力を注ぐのでなく、充実感と手応えを持って仕事をできるようにすることが大切だと川越氏は説明する。学習者のできることが広がれば、教員にとって喜びになる。教員の喜びは子どもの成長につながり、子どもが成長すれば、また教員に喜びをもたらす。ITがこうしたプラスのサイクルの実現を支援してくれることを同氏は期待する。
川越氏自身もITの活用を通じて「こんなこともできるのか」と学ぶことが少なくないという。学び続ける教育長から現場の教員に手渡された武器が、学力向上の問題をどう解決していくのかに注目していきたい。
執筆者紹介
為田裕行(ためだ・ひろゆき) 教育ICTリサーチ主宰
大学卒業後、西日本の大手学習塾企業へ就職。一斉指導、個別指導、合宿教育など現場で先輩方に鍛えられ、1999年フューチャーインスティテュートの設立に参画。東京都における教員への教材開発支援プロジェクトに関わり、公教育だけでなく、私教育の現場への教育IT導入の可能性を模索。活動の詳細は「教育ICTリサーチブログ」にて発信している。
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