「レーダー」で無線LANがストップ
iPad活用校、聖望学園中学校で“謎の無線LANトラブル”を招いた「DFS障害」とは?(1/2 ページ)
「iPad」を活用したアクティブラーニングを実践する聖望学園中学校は、無線LAN接続が不安定になる謎のトラブルに直面していた。調査を進めると、その原因が「DFS」であることが明らかになったという。
学習者の主体的な学習を促す「アクティブラーニング」をはじめ、教育の現場では多様な学びの実践にITを生かす動きが広がっている。埼玉県飯能市にある聖望学園中学校も、こうした積極的なIT活用を進める学校の1つだ。聖望学園中学校は2016年度に、生徒1人に1台ずつAppleのタブレット「iPad」を貸与し、教員が学習状況を把握しながら進めるインタラクティブな授業を実践してきた。
教育機関が学習者向けのIT環境整備を進める際、まず気になるのは、学習者や教員が直接使うデバイスやアプリケーション、デジタル教材といった目に見える要素だろう。だが同時に欠かせないのが、教員や学習者のデバイス同士、デバイスとアプリケーション/デジタル教材とをつなぐネットワークインフラだ。
教育機関は教室用のネットワークとして、無線LANを選択することが一般的だ。電波さえ届けばネットワークへ接続できるので、教室内や校舎内でデバイスを持ち歩きながら利用できるメリットがある。そもそも教育機関で導入が進むタブレットには、有線LANの接続端子を備える機種がそれほど多くないという事情もある。
授業で無線LANを使うとなると、授業の進行に合わせて、学習者全員に等しいパフォーマンスを提供できなければならない。仮に何らかのトラブルで通信ができなくなると、授業そのものがストップしかねないからだ。1クラス30台前後のデバイスに対して同時に、安定していて公平な通信を提供することが、スムーズな授業運営、ひいては生徒の理解度向上に欠かせない。
こうした課題を解決すべく、聖望学園中学校は2016年度に、多台数の接続時にも安定通信を可能にする「公平通信制御機能」を搭載したバッファローの法人向け無線LANアクセスポイントを採用して無線LAN環境を整備し、アクティブラーニングを開始した。だが運用する中で「原因は分からないけれど、何だか接続が不安定だったり、つながらなかったりする」という声が聞こえてきたという。
原因は意外なところにあった。機器開発元であるバッファローのエンジニアに依頼して調査をしたところ、聖望学園の地理的条件に起因する「DFS障害」による瞬断が発生していたのだ。
「何だか無線LANの調子が悪い……」の知られざる原因「DFS障害」
「DFS障害」は聞き慣れない言葉かもしれない。どのような障害なのかを簡単に説明しておこう。
無線LAN規格「IEEE 802.11a/n/ac」が利用する5GHz帯のうち、幾つかのチャネル(周波数の幅)は、気象・航空レーダーでも利用されている。もしレーダーが利用するチャネルと無線LANで利用中のチャネルが重複し、干渉が発生した場合には、レーダー側が優先され、無線LANアクセスポイントは別のチャネルに退避することが法律で義務付けられている。このチャネル退避の仕組みをDFS(Dynamic Frequency Selection、動的周波数選択)という。
無線LANアクセスポイントはDFS発生時に、移動先のチャネルがレーダーと干渉しないかどうか、60秒間接続を止めて監視する必要がある。つまりレーダーの干渉があるたびに、無線LANがしばらく止まるという現象が発生してしまう。これがDFS障害の正体だ。60秒の停止といえば短く感じるが、さまざまなレーダーの干渉が続けば、その分停止時間が長引くことになる。50分前後と限られた授業時間を考えると、その影響は決して無視できない。
聖望学園中学校が悩んでいた「無線LANがつながらなくなる」という問題の原因が、このDFS障害だった。実は同校がある飯能市からそう遠くない距離には、航空自衛隊の入間基地や陸上自衛隊の朝霞駐屯地、それに米軍の所沢通信基地や横田基地など、航空レーダーや気象レーダーを発する施設が複数ある。授業中にレーダーを検知するたびに、チャネルを移動するために無線LANが停止する、という現象が発生していたのだ。
バッファローの協力で実地調査をしたところ、1週間でのべ19回のDFSが発生し、そのたびに無線LANの接続が止まっていた。限りあるチャネルの中で移動が発生すると、その分、利用可能なチャネル数が減ってしまう。そうなると、多数の無線LANアクセスポイントが存在する環境では干渉の問題が生じやすくなる。チャネルの重なりによる速度低下も避けられない。
「うちの近くには基地はないから、DFS障害は関係ないのでは」と考える教育機関もあるだろう。だがバッファローが全国の拠点で調査をしたところ、東京や札幌、名古屋、新潟など、さまざまな拠点でDFSが発生していることが明らかになってきた。つまり「何だか無線LANの調子が悪いなあと思っていたら、またつながるようになった」という原因不明のトラブルの中には、一定数DFS障害が含まれている可能性があるのだ。
リプレースでDFS障害を解消へ
こうした問題を踏まえ、聖望学園中学校はDFS障害を回避すべく対策に乗り出した。目を付けたのは、ちょうどバッファローが開発していた、DFS障害回避機能を備えた無線LANアクセスポイントの新機種「WAPM-2133TR」だった(写真1)。以前から導入していた10台のうち2台の無線LANアクセスポイントを新機種に入れ替え、2017年4月に運用を開始した。残る8台は当面の措置として、DFSが発生するチャネルを利用しないように設定した。
WAPM-2133TRは、レーダー波監視専用アンテナを搭載し、あらかじめ干渉しないチャネルを把握することによってDFS障害を回避する。かつ5GHz帯用に2基、2.4GHz用に1基と3基のアンテナを備えたトライバンドを採用。一般的な無線LANアクセスポイントが採用するデュアルバンド(アンテナ2基)と比べてデータ転送速度を高速化できる。
リプレースを機に、バッファロー以外のベンダーへ移行する選択肢もあったはずだ。聖望学園中学校の教諭でICT委員会委員長を兼務し、無線LAN導入を担当する永澤勇気氏によると、DFS障害以外でバッファロー製品に特に不満がなかったこと、DFS障害回避機能を訴求している無線LANアクセスポイント自体が極めて珍しかったことから、継続して同社製品を導入することにした。
これまでは無線LAN接続の不安定さを指摘する声もあったが、原因を調査して新機種を導入したことで、2017年4月以降はストレスなく安定して使えている。前述の通り、もともとDFS障害以外はバッファロー製品の機能に満足していたこともあり、現状は特にWAPM-2133TRに対する不満はないという。
永澤氏は無線LANについて、文字通りインフラとして「何もなく動くのが理想」だと語る。「ICTは『いつもちょっとトラブル』と言われがちだが、ITを活用した教育には、そんなトラブルをいかになくすかが重要になる」と同氏は強調する。
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