失敗しない「学校IT製品」の選び方:無線LAN編【前編】
学校無線LANの「つながらない」「危ない」は“正しい理解”で解消できる
教育機関の端末活用の可能性を広げる無線LAN。だが一方で「つながらない」「危ない」といった懸念も多い。安全かつ効果的な活用に不可欠なのは、無線LANの正しい理解だ。そのポイントをまとめた。
連載「今、理解しておきたい『学校IT化の現実』」では、教育機関でIT活用を進める上での基本的な考え方や実行方法などを解説した。では、具体的な製品導入を進める際にはどのような点に注意すればよいのだろうか。
IT導入を検討する教育機関の多くが現在、導入に当たって最も頭を悩ませているといえるのが「無線LAN製品」だろう。本稿では、教育機関が無線LAN製品導入に失敗しないための製品選定の勘所を伝授する。前編では、まず無線LANを正しく理解するため、有線LANとの違いなどを整理しつつ、教育機関が無線LANを導入する際に知っておくべきポイントを紹介する。
連載:失敗しない「学校IT製品」の選び方
「学校用の無線LAN製品」とは
「教育機関向け無線LAN製品」つまり教育機関での利用に特化した無線LAN製品は、現時点では存在しない。たとえそのような製品が出てきたとしても、あまり意味を成さない。これはクライアントPCやタブレット、サーバ、ネットワーク機器などでも、「教育機関向け」と銘打った機器がないのと同様である。こうしたインフラ製品の場合、教育機関に特化する必要性がそもそもないからだ。仮に教育機関に特化した無線LAN製品があったとしても、汎用製品との機能面での差異化が難しいだけでなく、市場を絞り込む分、価格も高くなる。
教育機関が無線LAN製品を導入する際には、汎用製品の中から教育機関にとって適切なものを選択することになる。国産、海外産、企業向け、コンシューマー向けなどさまざまな製品群から、その特性を見定めて用途に合った最適な製品を選ぶわけだ。こうして幅広い教育機関に選ばれた無線LAN製品が、実質的な“教育機関向け無線LAN製品”となる。
学校に無線LANが必要な理由
教育機関でネットワークを利用するのは、主に職員室とパソコン教室である。こうした場所では端末を固定して利用しており、LANケーブルがデスクトップPCやノートPCまでつながっていることが多い。理由は簡単で、無線LANよりも有線LANの方が、広帯域のネットワーク環境をユーザーに安定して提供しやすいからだ。
ではなぜ、教育機関に無線LANが必要なのか。こちらも理由はごく簡単で、教室や屋外などでも端末を自由に移動させながら利用したいというニーズが高まっているからである。機器を自由に持ち運んで利用できれば、これまで教室の机に張り付いて勉強してきた学習者が外へ出て自由に学べるようになる。無線LAN環境を整備することで、学習者は文字通り「教室を出て学ぶ」ことができる。特に最近導入が進むタブレットの場合は、そもそも有線LANポートがないことが多く、ネットワーク接続には無線LANが不可欠だ。
小中学校だけで1000万人以上いる学習者が、教室の枠から飛び出して学ぶ機会を得るのに、無線LANは大いに役立つ。しかも学習者が手に持つのは、多くの情報が得られ、全世界へ発信もできる情報端末なのである。教育機関や教員にとっても、新たな学びの場を作り出す可能性と将来性は飛躍的に増大する。
無線LANを導入する教育機関が知るべき5つのポイント
無線LANがデータ送信に利用する電波は、外部環境に影響を受けやすい。「無線LANはつながりにくい」といわれることが多いのはこのためだ。私も無線LAN製品の事業に携わる中で、無線LANの思わぬ問題点を幾つも見てきた。
ただし幸いなことに、こうした問題のほとんどは、無線LANの仕組みを正しく理解することで解決できる。以下に、教育機関が無線LANを導入する際に知っておくべきポイントを記す。
ポイント1:無線LANはネットワークの一部だと認識すべき
無線LANはネットワークの一部にすぎない。教育機関を含む世界中の多くの組織は、各国の通信事業者が持つ有線のネットワーク網で結ばれている。無線LANはこうしたネットワーク網の末端につながる一部分でしかない。いわば、LANケーブルの先端にあるコネクタが無線LANアクセスポイント(AP)に置き換わっているにすぎないのだ(図1)。
本来は無線LANの問題ではないにもかかわらず、何らかの障害でネットワークがつながらないと真っ先に疑われるなど、とかく悪者にされやすい無線LAN。だがトラブルの原因をよく調べると、実は無線LANの問題ではなく、サーバや有線のネットワークのどこかに問題があっただけ、といったこともしばしば見られる。
ポイント2:「遅い」と嘆く前に、無線LAN規格を正しく理解すべき
無線LANの通信路容量、つまり通信速度は、準拠している規格によって異なる。有線LANで一般的に利用されるイーサネットにも、10/100Mbps、1Gbps、10Gbps、40Gbpsと複数の通信速度がある。
無線LANは、通信技術の標準規格を決める米国電気電子技術者協会(IEEE)が策定したIEEE 802.11系といわれる各種無線LAN規格がある(図2)。最新規格の「IEEE 802.11ac」では、理論値ながら6.9Gbpsの通信速度を誇る。「無線LANは遅い」といわれることが多いが、802.11acであれば実効速度でも、現在最も普及している有線LAN規格の1Gbpsを凌ぐ通信速度が得られる。無線LANもギガビットの時代が到来したのだ。
有線LANの場合、10Gbps、40Gbpsという高速規格に準拠した製品は非常に高価であり、今すぐ全面的に導入するのは現実的ではない。対して無線LANは、どの規格に準拠した製品でも販売価格に大差はない。現在一般的に普及している無線LAN規格である「IEEE 802.11n」でも十分高速だ。
802.11acに準拠した無線LAN製品はまだ登場して日が浅いものの、ここ数年で普及が進み、2010年代後半以降には、教育機関が使う無線LANの通信速度は総じてより高速になっているはずだ。その頃には、「無線LANが遅い」という課題は完全に過去のものになっていると考えられる。
ポイント3:電波干渉が起きる可能性は常にあると理解すべき
無線LANを利用する際に、最も気を付けなければならないのは電波干渉だ。無線LAN機器の電波は一般的に、数十メートル程度離れたところまで届く。そのため、校内の他のAPはもちろん、隣の建物にあるAPからの電波も干渉してくる可能性がある。特に複数のオフィスや店舗が入居する雑居ビルの場合には、50種以上の電波が届く箇所があることも珍しくない。
最近では、3G/LTE回線などを使って複数の端末からインターネットへの接続を可能にする小型の「モバイルWi-Fiルータ」を持ち歩く人も少なくない。もしモバイルWi-Fiルータを持っていなくても、現在販売されているスマートフォンが標準機能として備える「テザリング機能」を使えば同様のことができる。このように、無線LANの電波発生源が増加し、互いの電波に干渉し合っているのが、スマートフォンやタブレットが普及した現在の実情なのである。
無線LANが利用する周波数帯は、5GHz帯と2.4GHz帯の2種類ある。特に2.4GHz帯の周波数は、無線LAN以外の機器も多く利用するので常に“大渋滞”が起こっている。電子レンジやコードレスフォンに加え、マウス、ヘッドフォンなどの周辺機器が使うBluetoothなども2.4GHz帯を利用している。
電波干渉を引き起こす可能性があるものは、これだけではない。入退室管理に使う非接触カードリーダーが原因で電波干渉が起こることもあるし、極論すればモーターが回るだけでも起こる可能性がある。無線LANを導入する前に、電波環境をきっちりと把握することがいかに重要かが分かるはずだ。
最も頭が痛いのは、導入後も日々刻々と電波環境が変わる可能性があることである。学校の周りにある建物のどこかで、知らないうちに大量の電波発生源が置かれる可能性は否定できない。無線LANの導入後も、電波干渉への対処は必要になってくる。
ポイント4:「家庭用」と「企業用」無線LANの違いを理解すべき
調査会社やメディアが発表する無線LAN製品のシェア情報を見ると、家電量販店などが販売するコンシューマー向け製品が上位を占めていることが多い。コンシューマー向け無線LAN製品は個人だけでなく、中小企業をはじめとする一般企業でも利用されている。
コンシューマー向けの無線LAN製品はとにかく安い。企業向けと比べ、導入コストが10分の1程度となることも珍しくない。ただし、教育機関が無線LAN製品を導入する場合、単に安いからといった安直な理由だけでコンシューマー用を選ぶことは可能な限り避けるべきだ。
教育機関と家庭での無線LAN利用で決定的に異なるのは、大ざっぱにいえば「狭い場所で、同時に大人数が無線LANを利用すること」だけである。
コンシューマー向けのAPでは、大人数が一度に接続することを想定しておらず、1台のAPへ接続できる端末はせいぜい数台だ。学校の授業で無線LANを利用する場合、クラス全員分の端末が無線LANへ一斉に接続しようと試みる。その時点で接続要請が多過ぎて、コンシューマー向けAPでは処理できなくなる。結果として、ほとんどの学習者が無線LANへ接続できない状況に陥ってしまう。
APの数が多くなれば、上述の電波干渉の問題が顕在化する。AP同士の電波干渉を避けるには電波設計が必要だ。だがコンシューマー向け無線LAN製品には、電波の強弱を調整したり、各APが正しく設定されているかどうかを調べたりする運用管理機能がないことが多い。そのため、何らかの障害が発生した場合、その原因解明に時間がかかることが多くなる。
廉価だからというだけで、コンシューマー向け製品を安易に提案、導入してしまう業者も少なからず存在する。こうした業者は、電波設計の必要性を理解していなかったり、設置前や定期的な実施で障害を未然に防ぐサイトサーベイ(電波環境調査)の方法を知らなかったりすることも少なくない。トラブルが発生するとすぐに対処不能に陥ってしまうだろう。
コラム:暫定用途であればコンシューマー向けも生きる
上記の4つ目のポイントを踏まえると、教室内の全学習者に無線LANを利用してもらうのであれば、コンシューマー向け無線LAN製品を安易に導入することは避けるべきであることを理解できるはずだ。ただし、教員のみの利用や、一度に接続する人数を限定しての利用であれば、暫定的にコンシューマー向け製品を利用するのは費用対効果を考慮すると有効だといえる。
校舎1棟を丸ごとカバーするような、大規模組織向けの高価な無線LAN製品を導入する場合、導入コストが数千万円規模に達することも珍しくない。現在の学校におけるIT普及状況や地方自治体の財政状況を考えると、スモールスタートをするしか選択肢がない場合も多いだろう。政府が1人1台の情報端末と学習者用デジタル教科書の普及のめどとする2020年までまだ数年ある現在では、スモールスタートが現実的な選択かもしれない。
一方、予算が限られていたことからコンシューマー向け無線LANを導入せざるを得なかったものの、一定レベルのIT活用授業を短期間で実現した学校もある。その学校は、当初から教室でIT製品をどう利用するかを想定していたこともあり、無線LAN環境も比較的シンプルにすることができた。
全ての教育機関で通用する無線LAN活用のベストプラクティスは無く、多くの教育機関が試行錯誤のさなかにある。「APゼロ」からスタートするのであれば、現場への負担を抑えるためにも、まずは身の丈に合わせて始めるのがちょうどよいともいえる。
ポイント5:無線LANのセキュリティ機能を理解し、活用すべき
最後のポイントはセキュリティである。「無線LANは危ない」とよくいわれるが、その理由は目に見えない電波を使う特性が原因だったり、しばしば誤解に基づくものだったりする。だが無線LANの危険性を高める最大の原因は、無線LAN自体にはセキュリティを確保する仕組みがあって設定も容易であるにもかかわらず、こうした仕組みに関する正しい理解や活用が進んでいないことだ。
無線LANの利用で想定される被害としては、ネットワークの無断利用や通信データの盗聴などが挙げられる。最大の脅威は、無線LANを介して学校のシステムにつながるLANに無断侵入され、重要な情報を盗まれることだ。とはいえ、無線LANが通信に使う電波は目に見えないので、侵入されたとしてもすぐに気付くのは難しい。
対策としてまずすべきなのは、通信の暗号化設定だ。無線LAN通信の暗号化を実現する主要なセキュリティ規格には「WEP」「WPA」「WPA2」の3種がある(図3)。ただしWEPの利用は推奨できない。既に1秒もかけずに暗号を解読する手法が確立してしまっている他、通信の改ざん検知ができないなど幾つもの弱点があるからだ。WPAとWPA2は、改良によってWEPのこうした弱点を克服している。
特にWPA2は、現在の技術では解読が困難な暗号化方式である「AES」を採用しており、当面は解読不可能だといわれているのでお勧めできる。こうしたセキュリティ規格の利用に加えて、適切な人だけが無線LANを利用できるようにするための認証の仕組みを導入すれば、不正アクセスの防止に役立つ。
教育機関や企業を問わず、WEPさえ設定せずにAPを運用しているケースは意外と多い。単に設定が漏れていただけというケースもあるが、内部関係者が量販店などで勝手に購入して勝手に設置してしまい、学校の管理対象から漏れているAPの存在も脅威だ。適切に設定されていないこうしたAPが1台あるだけで、そのAPとつながるLANから重要な情報がだだ漏れになる可能性もあり、十分に注意しなくてはならない。
攻撃者がLANへ侵入するために、わざとセキュリティ設定をしていないAPをトラップとして設置するケースもある。攻撃者は、トラップのAPへ接続してきた端末からID/パスワードといった接続情報を抜き取り、重要な情報のあるネットワークに侵入したりする。
見知らぬAPへの接続を防ぐためには、端末の接続先APをあらかじめ設定しておくなどの工夫が不可欠だ。後編で詳しく述べるが、大規模環境向けの無線LAN製品の中には、こうした不正APを発見し、フロア内のどこにあるかまで検知してくれる便利なものもある。何よりも、こうした脅威があるという知識を持つことが重要である。
無線LANを正しく理解し、正しく利用する
これまで、教育機関が無線LANを正しく理解するためのポイントを説明してきた。無線LANは非常に便利である一方、安易に導入してしまうと問題があっても気付かず、目に見えない穴が大きくなっていく状況に陥りやすい。無防備な無線LAN導入は非常に危険だ。
とはいえ、管理者はもちろん教職員や学習者などの利用者自身も正しい理解に基づいた設定や対策をしていれば、無線LAN自体はそれほど怖いものではない。正しく理解することで、便利な無線LANを安全に利用することができる。
なお、無線LANに関する知識をさらに深めたいという人には、総務省が作成したより詳しい手引きがあるので、一読をお勧めする。一般利用者向けの「一般利用者が安心して無線LANを利用するために」と、教育機関や企業といった組織のシステム管理者向けの「企業等が安心して無線LANを導入・運用するために」の2種類がある。状況に合わせて活用いただきたい。
執筆者紹介
武田一城(たけだ かずしろ) 株式会社日立ソリューションズ
情報セキュリティ、システムプラットフォーム、オープンソースなどさまざまな分野のマーケティング業務に従事。現在は特に学校IT分野における市場調査や企画に重点的に携わる。2011年より日本PostgreSQLユーザ会の理事を兼務し、代表的なオープンソースデータベース「PostgreSQL」の普及啓発活動も行っている。
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失敗しない「学校IT製品」の選び方
教育機関がIT製品を導入する際、どのような点に気を付けて製品選定を進めればよいのか。製品分野の基礎知識をおさらいしつつ、製品選びのポイントを伝授する。
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