想像力の欠如が可能性を閉ざす
「iPhone X」のすごさを理解できないIT幹部は職を失う?(2/2 ページ)
ARがもたらす影響
パロアルト市庁のCIO兼アーバンテクノロジーのリーダーであるジョナサン・レイチェンタール氏は、iPhone Xよりも、Appleが同時に発表したスマートウォッチ「Apple Watch」の新版の方が、企業に対して大きな影響を及ぼすのではないかと考えている。「スマートウォッチへの無線電話機能の追加が特に大きい」とレイチェンタール氏は言う。同氏は、コンピュータの機能とインターネット機能を搭載した腕時計をユーザーが持つことで、ユーザーからイノベーションが波のように生まれてくることを期待している。
Apple Watchのデザインに言及し「まだ見た目が少し不細工なので、私は買わない」とレイチェンタール氏は言う。一方「開発者は全ての技術を小型化する方法を見つけ出したので、今後、デザインが刷新されると私は信じている」とも語る。
レイチェンタール氏が注目するもう1つの要素は、AR技術だ。ユーザーが家の中でカタログから商品を選び、映し出すことを可能にするIKEAのiPhone X向けARアプリを引き合いに出し「まだ今は、AR技術は十分なものだとはいえない」と前置きしつつ、AppleがARを軸にしていくことを「大きなこと」だと言う。
IKEAが披露したAR技術の活用法は、新しい時代の幕開けを示す。ソファの映像をリビングに映し出す際、ぐらつくことなく、ちょうど配置した場所に表示される。仮想のカタログから選んだ靴が、まるで実際に履いているように見える――。こうした経験をすれば、顧客はAR技術を信頼するようになる。そうなると、小売店の在り方に加えて現実の感じ方も変わってくるとレイチェンタール氏は言う。
調査会社Gartnerのアナリストであるトゥオン・グエン氏は、ARKitがAR技術への関心を高め、AR市場全体を盛り上げることを期待している。Appleがこれまで、技術をユーザーにとって簡単に利用でき、楽しく、魅力的なものにしてきたというのが、その理由だ。「ARKitは、AR技術を産業界に認知させるだけでなく、AR技術が受け入れられる大きな土台を確保している。その土台とは、全iPhoneユーザーのことだ」とグエン氏は語る。
Appleは技術を新たに生み出したわけではない。だが“Appleのお墨付き”は依然として強力だ。「Appleは何が、いつ、クールなのかを教えてくれる」(グエン氏)
10年前の衝撃の再現となるか
レイチェンタール氏は、iPhone Xのニュースに対する多くの同僚の反応に個人的に驚かされたという。「ニュースを見た多くの人ががっくりし『何も興味深いことはなかった。何だかつまらなかった』と言っていることに驚いた。『この信じられないほど素晴らしい偉業に慣れてしまっているのか』と思った」と同氏は語る。
Appleの社屋や、その中に豪華な施設「Steve Jobs Theater」が新設されたことも驚いたが、素晴らしい動画を使用したプレゼンテーションを「当たり前だ」と受け止めるのはいかがなものか。
「私としては、今回のニュースは米国のイノベーションやデザインにおいて素晴らしいもの全てを詰め込んでいたと思っている。ただただ素晴らしかった、その一言に尽きる」とレイチェンタール氏は言う。
iPhone Xの登場は、10年前のiPhone発売時に起きたのと同じような大変革を意味するのだろうか。レイチェンタール氏は「恐らくそうではない」と語りつつ「まだそう断言するには早い」とも指摘する。
「10年前のプレゼンテーションを昨日のことのように思う。Appleが苦労の末、実用的なiPhoneを商品化できたことを当時、非常にうれしく思っていた」とレイチェンタール氏は回想する。AppleはMotorolaと共に携帯電話「RAZR」の開発に取り組んでいたが「順調とはいえなかった」(同氏)。だが初代iPhoneは違っていた。見た目がかっこよく、特にディスプレイにタッチパネルを採用したことで「非常に大々的な」(同氏)変革の意味が込められていた。
AppleがiPhoneアプリのエコシステムを公開するまでは、iPhoneが新しいビジネスや何十億ドルもの経済的価値を生み出すことはなかった。また企業を巻き込み、企業コンピューティングをiPhone内に実現することで世界を変えることも予測できなかった。「今では、成熟した企業ベンダーは必ずモバイルアプリ版を用意している」とレイチェンタール氏は指摘する。
未来を想像する
一部の批判者がiPhone X発表のイベントで盛り上がらなかったことについて、レイチェンタール氏は「想像力の欠如が原因だ」と言う。「技術を搭載したアプリが実際に利用されているのを目にするまでは、そのすごさがよく分からないのだ」(同氏)
「想像力が働かないと、IT担当の幹部はキャリアを失いかねない」とレイチェンタール氏は言う。新しい企業向けの技術、特にコンシューマー向け技術の影響を予見するのは簡単なことではない。CIOは対象の製品やサービスの全てにiPhone Xを利用できないかどうか検討する必要がある。ただしiPhoneの設計者は毎日、これらのデバイスで何ができるかを考えていることを、CIOは覚えておくべきだ。
調査会社Nemertes Researchのアナリスト、ジョナ・ティル・ジョンソン氏は、今週のニュースを見て、AppleのiPhone Xがエンドポイントを考え直すための「夢のようなツール」として役立つという印象を持ったと言う。「今や電話とはいえないほど多くの機能を搭載できるこのデバイスを、賢い人は未来への羅針盤として利用する。それが示す方向こそ、われわれが歩んでゆく方向だと認識している」(ジョンソン氏)
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