“脱Excel”か“活Excel”か
“Excel職人”が“神Excel”を生み出す 「職人かたぎ」と上手に付き合うヒント
研究熱心なExcel職人はなぜ生まれるのか。彼ら彼女らの熱意はなぜ加速するのか。その理由を考察しつつ、ビジネスでExcel職人にそのスキルを存分に振ってもらうためのヒントを探ります。
“職人かたぎ”が尊敬につながらない「Excel職人」
「職人かたぎ」という言葉で表現されるように、日本において「職人」とは、高い技術と誇りを持ち、実直な仕事をする人と見なされており、基本的に称賛や尊敬の念を抱かれる存在です。見事な伝統工芸品や、食べることがもったいないと感じてしまうような「にぎりずし」の出来栄えを見て、職人の技術の素晴らしさを実感したなどの経験を持つ人も多いでしょう。
ところが、同じ「職人」という名が付いていても、「Excel職人」と呼ばれる人たちが同じような尊敬の念を抱かれるようなことは、ほとんどありません。むしろExcel職人という呼ばれ方は、まるで職人のように必要以上にExcelを作り込む人に対して、その“やり過ぎ感”をやゆする言葉として位置付けられています。このようにあまり評価されないにもかかわらず、なぜExcel職人と呼ばれてしまうような人が一定数存在するのでしょうか。
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Excel職人が生まれてしまう背景
企業の情報システム部門やシステム開発会社に勤務しているプログラマーも、職人と同じように高度なプログラミング技術を持って業務を遂行する職種です。プログラマーの中で、他の人より高い技術を持っていたり、最新の技術に精通していたりする人は、尊敬されることはあっても「プログラム職人」と呼ばれることはまずありません。
一方で、Excel職人と呼ばれてしまう人たちは、ほとんどの場合、プログラマーのようにExcelを使うことを専門にしているわけではありません。それぞれに企業において所属する部門があり、その部門が担当する業務を遂行するための数あるツールの1つとしてExcelを使用しています。このような状況下でExcelを必要以上に作り込んでしまうことを続けてしまえば、作ったこと自体を評価しないとまでは言わなくても、その作り込みをするためにかけた時間を、その部門が遂行すべき業務に振り分けることができるのではないかと周囲に思われても仕方ありません。
また、日常的にExcelを使う部門は、企業の間接部門を中心として非常に多く存在します。母数が多ければ、それだけExcel職人化する人の数も増えることになります。
Excelの機能と使われ方故に、職人的なこだわりを実現しやすいことも、Excel職人が生まれやすい一因です。Excelを機能で分類すれば表計算ソフトですが、表計算以外にも帳票や書類作成、リスト管理など、Excelは、さまざまな目的で幅広く使用されています。ただし、こうした用途に使うことはできても、Excelはその使用方法に最適化されているわけではありません。そこにこだわりを実現するための工夫の余地が生まれてしまいます。例えば「Excel方眼紙」と呼ばれる手法が生み出されたことをご存じの方も多いでしょう。小さな正方形となるようにセルの列幅と行の高さを細かく調整し、書類や帳票を作成するときにレイアウトの細かな調整をしやすくする手法です。
Excelで利用可能なプログラミング言語「VBA」(Visual Basic for Applications)の習得障壁が低いことも、職人的なこだわりを生む大きな要因です。
経験のない人が一からプログラミング言語を習得するためには、かなりの学習時間が必要です。多くのプログラミング言語において最初に学ぶテクニックの定番「Hello World!」を表示させるぐらいは簡単なのですが、そこからの学習量が膨大なため、プログラミング言語を習得して何をしたいかが明確になっていないと、習得を断念することも珍しくありません。
ところがExcelにおけるVBAは、日常的にExcelを業務で使用していることもあり、VBAで何をしたいかが明確になっている場合が多く、さらに「マクロの記録」機能を使うことで、Excelでしていた作業がVBAで、どう記述されるのかを、簡単に確認することができます。インターネットにもVBAに関する情報が大量に公開されており、一般的なプログラミング言語のように一から学ばなくても、やりたいことが実現できてしまう環境が整っています。
このような環境下で、意図した通りのVBAを作ることができてしまうと、それが成功体験となり、学習意欲が向上します。学習で得た知識が業務の効率化に役立っている間は問題ありませんが、知識を得ることが目的になってしまうと、それほど業務に効果のないささいなことをVBAで実現しようとしてしまいます。目的と手段が入れ替わってしまうことにより、Excel職人化が始まってしまうのです。
Excel職人が意図せず起こす問題
Excel職人が社内に存在すると、本人が意図しない問題を引き起こすことがあります。例えば前述のExcel方眼紙は、他者がExcel方眼紙を使って作成した書類や帳票に入力した情報を抽出してリスト化やデータ化しようとすると、抽出が困難になるという問題を抱えています。Excel職人にとっては効率的な手法であったとしてもです。他にも、Excel職人が作成したVBAがそのこだわりを実現するために特殊な処理をしていると、他の人がそのExcelに修正や変更を加えることが困難になります。Excel職人は独学でVBAを習得することが少なくないため、コードの表記方法や注釈の付け方などが独特になることがあり、そのことも他者が修正や変更に費やす時間を増加させる原因になります。
多くの場合、Excel職人は特に悪気があるわけではなく、こだわりを持って作り込みをしているだけなのですが、そのこだわりによって他者が迷惑を被る可能性については、あまり考慮していないために、結果として問題を引き起こしてしまうのです。
企業が取り得る対策
こうした事情を考えていくと、企業としてはExcel職人が過剰な作り込みをしないように管理をしたいところですが、どのような対策が取ることができるでしょうか。それぞれの部門の上長が、所属しているExcel職人に「Excelを作り込み過ぎないように」と指導できるのであればいいのですが、「作り込み過ぎ」という状態を上長が適切に判断できるかどうかという問題があります。かといって一律に作り込み禁止にしてしまうと、こだわりがあるが故にモチベーションの低下につながってしまうことも否定できません。
従って「作り込み具合」を判断基準とするのではなく、「作る時間」を判断基準とすべきでしょう。あらかじめ作成まで必要な時間をお互いに納得するように決めておくことで、作り込みの時間を自由に取らせないようにすることが可能です。このとき、あまり目標時間を厳しくし過ぎず、ある程度の作り込みは可能な時間を設定する方がモチベーションの低下を防止することにもつながります。ある程度は職人的なこだわりの実現を許容しつつ、時間的な制限を付けて管理することが、Excel職人とうまく付き合う秘策といえるでしょう。
村山 聡(むらやま・さとし)
1971年愛知県生まれ、名古屋大学経済学部卒、中小企業診断士。
IT企業在職中に、単一業種においてキャリアを積んでいくことに疑問を感じ、どんな業界、職種でも通用する知識を得るべく中小企業診断士を取得。複数社を経て、現在の勤め先にて、コンサルタントとして、データを活用した業務効率改善に取り組む。
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“脱Excel”か“活Excel”か
ほとんどの企業が使っている表計算ソフト「Microsoft Excel」(以下、Excel)。便利なツールですが、本来の目的を超えて“使いこなし過ぎる”ことが、かえって業務効率を低下させてしまったり、業務の属人化につながってしまったりする場面があるのではないでしょうか。 このコラムでは、日常業務でよく見掛けるExcelの活用例を紹介しながら「こんな場面は脱Excelを考えた方がよい」「こういうExcelの活用法はお薦め」といった知見を紹介していきます。
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